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星降る夜のセレナーデ 第94話ハスキーヴォイス

スタジオのセッティングは全てうまく行った。小池さんと2人でガッツポーズをした。

「凄いシステムになりましたねえ、これで新しい映画の音楽が楽しみですね」小池さんは何度も頷いている。

「先生の世界観が広がって、素晴らしい曲がたくさんできますよ」俺も嬉しくなった。

「おいおい、2人でハードルを上げないでくれよ」そう言いながらも先生は自信ありげに笑っている。

リビングへ出てくると、志音ちゃんと由美香さんが楽しそうに話している。
俺は不思議になった。あれ程嫌がっていたのに………………。

「お疲れ様、コーヒーいれましょうね」美夜子さんが立ち上がる。

「先生、ありがとうございます、志音ちゃんのお許しが出たので、潮騒のシンフォニーを歌わせてください」由美香さんはきちんと立って深々と頭を下げた。

「えっ…………志音はあの曲を知ってるのかい?」先生は不思議そうな顔をしている。

「パパの秘密はダダ漏れよ」美夜子さんが笑った。

「志音、歌は苦手だし………それにとっても良い歌だからもったいないよ、だから由美香さんに歌ってもらう事にしたの」志音ちゃんは先生にニッコリと話した。

「そうなんだ……………」先生は不思議そうに美夜子さんを見る。

美夜子さんがニッコリ頷くと、納得したようで笑顔になり、先生も頷いた。

「由美香さん、よかったですね」小池さんも肩の荷が降りたような表情だ。

俺は何がどうなってるのか分からないが、何となくうまく行ってる気がしたのでニッコリした。小池さんたちが帰ると、先生は少し寂しそうな表情になっている。

「志音、歌は嫌なのかい?」

「だってママみたいに綺麗な声じゃないもん」唇を尖らせた。

「ママとは少し違う声だけど、ハスキーで良いんだけどなあ…………」

「ハスキーって濁声だって事でしょう?嫌だよそんなの」

「その声が人の心に届くと説得力が湧くんだよ」先生は必死に食い下がっている。

「いいの、志音はモヒくんのお手伝いが楽しいの」

「そうか………………」先生は諦めきれないようだ。

「パパ、志音がもっと大人になったら歌いたくなるかもよ」

「そうだね…………真人くんのメロディが志音の声と合わさると良いかもね………」

「これから先もたくさんの可能性があると思ったら良いんじゃない」

「そうだね…………」先生は何となく納得したようだ。

「志音の声とモヒくんのメロディ?………………」今度は志音ちゃんが割り切れない表情になった。

「ねえとーたん、志音の声とモヒくんのメロディは相性がいいの?」

「ああ、とってもいいよ」

「そうなんだ………」しばらく志音ちゃんは考えている。

「じゃあ歌も少しずつ練習してみようかな」美夜子さんを見た。

「ママのレッスンはキツイわよ」美夜子さんは少しだけ笑っている。

「うん、志音大丈夫!」何度も頷いた。

俺はいつか自分の作った曲を、志音ちゃんが歌ってくれる日が来るんだろうか………そう漠然と思った。

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