見出し画像

水の生まれる夜に 82 禁断の軽井沢4

翌日将暉パパの所へ行くと「こっちこっち」と手招して駐車場の奥へと案内された。地面には丸い大きな円が書かれている。

「まさか……」俺はその場へ張り付いたように固まる。

「やっぱりね……」

空からパタパタと言う音が近づいてくる。

「パパは他の会社の社長達とヘリのシェアをしてるのよ、新鮮な魚を食べるために島まで行くつもりだわ、一日一組限定の漁師さんのお店に」

風に飛ばされそうになるとヘリが下りてきた。

「さあ行こう」将暉パパは満面の笑みでヘリの中へ案内する。

「急に手配したから大変だったんだよ」と言いながらとても嬉しそうだ。

4人を乗せたヘリは軽井沢を飛び立ち瀬戸内海の島までやってきた。
地元の漁師さんがやっているお店に到着する。
用意されていた昼食は東京でもなかなか食べられない地魚で、俺は少しだけ懐かしく田舎を思い出した。

俺はほとんどヤケクソになり「もう何も驚かないぞ!なんでもこい」心の中で叫ぶ。

「新くんどうだい?美味しいだろう?」将輝パパはこれでもかと言いそうな満面の笑顔だ。

「はいとても美味しいです、田舎にいた頃を思い出します」

「そうか、新くんの実家は海のそばだったんだねえ」

「新さんの実家の果樹園からの海の眺めはとっても綺麗らしいよ」

綾乃ちゃんが少し皮肉を込めて言ったように俺は感じる。
海が無いって言ったことを少し根に持ってるのかな?と思う。

「そうか、じゃあ食事が終わったら見にいこう!」

「本当パパ!見たい見たい」綾乃ちゃんが嬉しそうに何度も頷く。

「すみません勘弁してください!」俺は手を合わせて頼んだ。

「えっ、何で???」綾乃ちゃんは不思議そうな顔をしている。

「実家に最初に行くのは二人で行きたい」綾乃ちゃんへそっと耳打ちする。

「そっか……だよね……」パパ、行くのは二人で挨拶を済ませてからにして。

「そうか、残念だなあ………」

この親子は一体何者だろう……と思ったが、このまま帰れる事にほっとする。

「なんでもこい」と思ったが、前言撤回だと心の中でひっそり呟く。

軽井沢に戻ると将暉パパはまた「他に食べたいものは」と聞いてくる。

「パパ、いい加減にして、私たちはゆっくり夏休みを過ごしにきたのよ、これじゃあ全く休みにならないわよ」綾乃ちゃんは眉を寄せさらに口を尖らせて怒っている。

「そうか……いやすまなかった」将暉パパは頭をかきながら謝っている。

俺はやっと解放されると思い、ふう〜っと静かにため息を漏らす。

次の日は広々としたキッチンで綾乃ちゃんの手料理を食べた。

「よかったわ、星野さんの気遣いが無駄にならなくて」

その言葉と、そして綾乃ちゃんの料理を食べてにっこりとなった。
しかし、なんとなく落ち着かない俺は、改めて綾乃ちゃんと住む世界が違っていることを感じた。

軽トラで帰ってきた二人はいつもの部屋でくつろぐ。別荘はすっかり涼しくなっていた。

「ねえ、綾乃ちゃん、こんな狭いところで大丈夫なの」

「うん、ここがやっぱり一番好き、だって幸せが分かりやすいもの」そう言ってスイッチの入ってないコタツに入る。

綾乃ちゃんは俺に寄りかかって言った。

「幸せってやっぱりお金じゃ買えないんだね」

「そうだね」

外でフクロウが「ホー」っと鳴いている。おかえりなさいと言われてるような気がした。

いいなと思ったら応援しよう!