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水の生まれる夜に 81 禁断の軽井沢3

10分ほど坂道を登ってホテルのような別荘に到着した。広いレンガの敷き詰められた豪華なバーベキュースペースで将輝パパは楽しそうに二人を待っている。

「いや〜……来てくれて嬉しいよ、さあこっちで乾杯しよう」いつものボンペリを勧めてくる。

「将輝パパはボンペリが好きだねえ」綾乃ちゃんに耳打ちする。

「みたいね」呆れ顔で失笑した。

「これは松島牛の美味しい所なんだよ」そう言ってすでに網の上で焼いている

「綾乃ちゃん、なんか頭痛くなってきた」

「ゴメンね、パパがあんな調子で、でもパパは余程新さんを気に入ってるみたいよ」

俺はこれまでに食べたことの無い肉や果物を一つ一つ驚きながら食べる、将暉パパはその反応を見てとてもうれしそうだ。
お酒が入って饒舌になった将暉パパが「新くん、免許を取ったそうだね」と聞いてきた。

「はい、まだ下手なんですがなんとか運転してます」

「なんか好きな車は無いのかい?」

「車のことはあまり詳しくは無いんですよ」

「そうなのか」

「ただエンジンの構造は習ったんで多少はわかります、個人的にはロータリーエンジンが好きです」俺は話を合せた方がいいかと思い言ってみる。

「あっ!ダメ!!!……地雷を踏んじゃった」綾乃ちゃんは俺の袖を引っ張ったが時すでに遅しだ。

「そうかい!」将暉パパは水を得た魚のようにエンジンについて熱く語り始める。

「だめだ……しばらくはお手上げね」綾乃ちゃんはそっとミホさんのところへ行くと、二人でデザートを食べ始めた。

「新さんって辛抱強いんですね」ミホさんが感心している。

ひとしきり将暉パパの話が終わって、バーベキューは終わりを迎える。
帰ろうとする二人に将暉パパは「明日は何か食べたいものは無いかい?」と聞いてくる。

「そうですね、今日たくさん美味しいお肉をいただいたので、明日は新鮮な魚ですかね」俺は海のない所なのでこれで明日の誘いは断れると思った。

「あっ!!!それもダメ……地雷よ」綾乃ちゃんは梅干しを食べたような顔になっている。

「そうかい、じゃあ明日10時にきてくれよ」将暉パパは満面の笑みで手を振った。

別荘に戻ってきた俺は心配そうに綾乃に聞いてみた。

「なんかまずかった?もしかして星野さんが築地まで走らされるとか?」

「うーん……それは無いけど……似たようなもんかな」

「どうしよう」不安になった。

「明日になったら分かるわ」

二人はテラスにあるジャグジーの付いたお風呂に入った。

「新さん、ゴメンねあんなパパで」

「でも綾乃ちゃんの大切なパパだからね、綾乃ちゃんがこっちの別荘に来たのが嬉しいんんじゃない?」

「そうね、でも新さんが一緒だから特に嬉しいみたいよ」

「そうなのかなあ……」

「ちっとも夏休みになんないね」綾乃ちゃんは少しだけ笑った。

フクロウの鳴き声がしないと少し寂しく感じてしまう。軽井沢の夜はどんよりとふけていった。

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