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星降る夜のセレナーデ 第105話 衝撃の事実

先生は新なアニメの音楽を作り始めた。先生の評判はますます高まっている。
しかし先生は何事もなかったように淡々と音楽を作り続けている。
俺は先生の大きさにただ感心した。そして自分の小ささを思い知る。

俺の仕事も少しずつ増えている。先生や志音ちゃんのお陰だ。
感謝しつつも、もっと自分を磨くためにひたすら頑張ることにした。

俺は初めて映像作品の音楽を作る事になった。先生が出来なくなった仕事を俺が引き受ける。だから失望させないように頑張らなくてはいけない。
台本を見ながら、必要なシーンを書き出し、イメージを膨らませていく。
これまで先生のやり方をずっと見てきたので、やり方は何となく把握できていた。
志音先生も学校から帰ると、直ぐにきてくれる。
少しずつだが、仕事は順調に進んでいた。

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「真人くんは頑張っているねえ」パパはスタジオの方を見ながら言葉を漏らした。

「そうね、志音も一生懸命手伝ってるわ」私はコーヒーを出しながら、何気なく言った。

「やっぱり志音は兄弟がいないから、お兄ちゃんが出来たみたいで嬉しいのかなあ…………」コーヒーを少し飲んでいる。

私は呆れた。そして決心した。

「ねえ、あなた、本気でそんな事を思ってるの?」

「えっ?」何度も瞬きしている。

「志音が熱心に真人くんを手伝っているのは、お兄ちゃんが出来て嬉しいからなの?」

「えっ?………………」

「そう本気で思ってるんだったら、あなたは父親失格よ!」少し強い口調で言ってしまった。

「え〜???」

「志音は真人くんが好きなのよ」

「えっ、あっち!」コーヒーを溢している。

「もう信じられない………………」私は溢したコーヒーを拭いた。

「………………………………」パパは固まっている。

「そうなのか?…………恋愛はまだ早いんじゃないのかなあ…………」パパはスタジオの方を眺めている。

「志音はもうすぐ16歳よ、私たちが承諾したら結婚出来るのよ」

「け、結婚!……………」パパは驚いた後情けない表情になった。

「志音が…………結婚……………そんなあ……………」

「まあ直ぐに結婚とかは無いと思うけど、暖かく見守ってあげないとね、2人を」

「え〜………志音を真人くんに取られるのかい?」さらに情けない表情になっている。

「じゃあ、どこの誰かも分からない、変な男が来て『志音を下さい』なんて言ったらどうするの?」

「それは大反対に決まってるじゃないか」口がへの字になって憤慨している。

「志音はずっと喘息で友達もできなかったわ、だから人に対して免疫が無い状態だと思うの、そんな時に変な人に近寄られても警戒しないでしょうね、いや、初めて仲良くしてくれた人だって好きになってしまうかもしれないわ」

「………………………」

「だから真人くんを好きになったのは良い事だと思っているのよ、だって真人くんは才能もあるし、優しくていい子だわ、それはあなたが一番分かってるんじゃないの?」

「…………………………………………」

パパはじっと俯いて動かなくなった。

「言われてみると、確かにそうだ…………私も真人くんだったから仲良くしていても見ていられたんだと思うよ」

「でしょう?」

「そうだね、そうだね………………そうだ………………」

「あなた、もう志音を取られたような顔をしてるわよ」私は少しだけ笑った。

「そりゃあそうだよ………大ショックなんだからね」テーブルにうつ伏せた。

「これから志音の将来を思うと、真人くんを好きになったのはいい事だと思うわ」

「そうかもしれないね…………………」パパは顔を上げるとスタジオの方を改めてじっくりと見ている。

どうやらパパは現実を受け止めたようだ。私はパパの横に移動すると背中を優しく撫でた。

「パパ、志音の幸せを考えましょうよ、そして見守りましょう」

「…………………うん……………………」

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