星降る夜のセレナーデ 第62話 幼馴染
ノートパソコンでの作業は思ったより快適だ。俺は初めて作曲に挑戦する。
仕事はグラビアアイドルのDVD用BGMだ。簡単な企画書が添付されていて、いくつかのシーンが書かれている。読んだ結果、爽やかで可愛い曲や少しセクシーな曲など数曲を作る事になる。しかし作り始めて自分の中にある音楽の引き出しが少ない事に愕然とする。早速先生に相談した。
「そうだねえ…………レンタルショップで貸し出されているグラビアDVDを参考にしてみたらどう?」
「なるほど、早速借りてきて観てみます」俺は何度も頷く。
その夜レンタルショップへ行きグラビアアイドルのDVDを10枚ほど選んだ。
これを見て研究しよう、そう思いレジへ向かうと声をかけられた。
「へ〜、真人もそんなDVDを見るんだ、女の子に目覚めたの?」奈津美がニヤニヤしている。
俺は最悪なタイミングで会いたく無い人に会ってしまったと思い、露骨に嫌な顔をした。
「今度グラビアアイドルの音楽を作るんだ、だから実際のDVDを参考に見るだけさ」
「そうなの、真人も作曲するんだ?」面倒な上目遣いで見てくる。
「俺が作っちゃいけないのかよ」訝しげな目で見返す。
「なんか真人はどんどん遠い人になってくね」少し寂しそうな表情になっている。
俺は意外な言葉に改めて奈津美の顔を覗き込んだ。
「頑張ってね」奈津美は寂しげに笑って、手を振り帰って行った。
俺は少し不思議な気持ちをおぼえた。
「あいつ………何か嫌な事でもあったのかなあ…………」
幼馴染の一人として少しだけ心配になる。
次の日、美夜子さんへ、レンタルショップでの事を話した。美夜子さんはニッコリ微笑んでいる。
「もしかして東京へ行く時に髪を切ってくれた子?」
「はいそうです、幼馴染です」
「真人くんはその子が好きなの?」
「いえ、ただの幼馴染です」
「そうなの、でもその子はどう思ってるかしらねえ…………」
「えっ?」俺は少し驚く。
奈津美を恋愛対象と思った事は一度もない、そして奈津美も同じように思っていると勝手に納得していた。そして高校の頃に起こった、ある事件を思い出す。
「パパもそうだけど、男の人は鈍感よね」美夜子さんは少し笑った。
俺はよく意味が分からなかった、しかし一般的にそういう物なんだと思う。
「パパと真人くんは良く似てるわ」美夜子さんは少しだけ肩を揺らして笑った。