水の生まれる夜に 54 新しい朝が来た
久々にゆっくりと寝た僕は、目を開けると隣を見た。
すでに綾乃さんはいない、そしてキッチンからコトコトと音がしている。
しばらくすると綾乃さんが和室へやってきて僕のそばに座った。
「おはよう新さん」微笑んでいる。
慌てて起きた僕は正座して「おはようございます」と一礼した。
「おはよう……おはよう……おはようってば……」上目遣いで少しにらんでいる。
それを見た僕はキョトンとしたが、その瞬間「はっ」とした。
そして綾乃さんに近づくとそっとキスをする。
「やっと分かってくれたの」少し不満そうだが微笑んだ。
朝食は僕の好きな卵料理だった。向き合って食べていると綾乃さんのスマホが呼んでいる。天空カフェの千草さんからだ、ちまきが足りないので手伝って欲しいそうだ。綾乃さんは身支度をして玄関へ向かった。
「行ってきます……行ってきます……行ってきますってば!」
僕は玄関へ走っていくと「行ってらっしゃい」そう言って軽くキスをする。
綾乃さんは機嫌よく出て行った。
僕は頭をかきむしった。「こりゃあ先が思いやられるなあ、一分一秒もゆっくり出来ないかも知れない」独り言とも愚痴とも分からない言葉が漏れた。
仕事を始めようとしたが、綾乃さんのことが気になって集中力にかけ、仕事になりそうにない。僕は仕事をあきらめボーッと綾乃さんのことを考える。
普段はキリッとしていて美人だ、笑うと目尻が下がり可愛く見える、しかし
上目遣いで見られると小悪魔を感じてしまう。綾乃さんは自分で理解しているのかは分からないが、明らかに使い分けているように思える。
「女の人というのは凄い、いや怖い……いや可愛い……」どうやら完全に心を奪われているようだ。
僕は本気で綾乃さんのことを考えて、彼女の居場所を傍に作らなければと思った。