隠れ家の不良美少女 45 希和と桜子
俺はふと思いついたことを聞いてみる。
「あのロブスターズの『ラプソディを君に』は希美子さんを思って作った曲じゃないですか?」
「そうですね……彼が池袋の作業場で作った曲です」
「そうですか……」
「彼は私が衣装を作ってる後ろ姿を見て浮かんだ曲だと言ってました」
俺は納得した。
「あの曲はとっても良い曲だよね、お母さんへのラブソングだったんだ」希和が嬉しそうに微笑んでいる。
「実は俺の好きだった人があの曲を大好きでした」
「もしかして桜さん?」希和が不安そうに聞いてくる。
「ああ、桜子さんと言って俺の恋人だった、でも心臓が悪くて亡くなってしまったんだ」
「そうだったんだ、だから風をひいた時寝言で桜って言ってたんだね」
「えっ!寝言で言ってたのか?」
「うん、言ってた、それに天空カフェで桜を見つけた時も「桜」って言ってた」
「そうだな……」俺は少し恥ずかしくなっている。
「でもいいよ、友希さんは私のそばにいてくれるから」希和は微笑んだ。
「そうなんですか、一瀬さんの愛した方は亡くなられたんですか…………」希美子さんは優しい目で俺を見る。
「はい、思いが忘れられなくて…………」
「忘れなくてもいいじゃん、大切に思い続けていいじゃん」希和がこっちを向く。
「そうか……」
「そうだよ、大切な人の事を簡単に忘れる人は好きじゃないもん」
「ありがとうな希和」俺は少し涙が滲んだ。
「そう言えば桜にロブスターズの名前の由来をお教えたら吹き出して笑ってました」
「エビエビの話?」希美子さんも少し笑った。
「何それ?」希和が不思議そうに聞いてくる。
「ロブスターズのバンドの名前は、メンバーの血液型がA・B・A・Bだったかららしいよ」
「プッ…だからエビエビでロブスターズなの」希和が吹き出す。
「そうね、和也さんもメンバーから提案された時に吹き出したと言ってたわ、でもよく考えると聞き方によってはラブスターズに聞こえるから、ビートルズみたいに愛を歌ってスターになれたらいいと思ってそのバンド名にしたと言ってたわ」
「そうなんですか……桜がとてもセンスのある人なのに何でそんなバンド名にしたんだろうと不思議そうにしてました、心の中ではラブ・スターズだったんですね……桜に教えてあげたかったです」俺は少し笑った。
「きっと桜子さんは天国でこの話を聞いてるよ」希和が微笑んだ。
「そうだな」俺はそう返事したが、その後涙が止まらなくなってしまった。
「友希さん泣き虫だね」希和が優しく微笑む。
その笑顔は何処か桜に似ていた。