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星降る夜のセレナーデ 第113話 志音効果?

志音ちゃんがロンドンへ旅立ってから1年が過ぎた。小池さんから連絡があり出版社へ向かう。何か相談があるらしい。俺は黒の愛車で新宿へやってきた。

出版社へ到着すると小池さんが笑顔で迎えてくれた。

「真人くん久しぶり、どう?元気にやってるかい?」

「とりあえず生きてます」俺は力なく笑う。

会議室へ通されると、アリサちゃんと由美香ちゃんが待っていた。

「元気を忘れた真人くん、大丈夫?」ニッコリしている。

「えっ、どうしたんですか?」俺は不思議になった。

「実は由美香ちゃんが事務所を移ったの、私と同じ事務所になったのよ」アリサちゃんは頷く。

「えっ、スフィンクスをやめたんですか?」

「そうよ、だって志音ちゃんを苦しめた事務所なんていられないわよ」由美香ちゃんは唇を噛んだ。

「だから、今はアリサちゃんと同じ事務所なの」

「そうなんですか……………」

「相当大変だったけどね、でもアリサちゃんの事務所の社長は女性でとても良い人だから安心してるんだよ」小池さんが微笑んだ。

「そこで、真人くんにお願いがあるの」由美香ちゃんは姿勢を正して俺を見た。

「なんでしょう?」俺は何度も瞬きした。

「私が再出発する為の曲を作って欲しいんです」

「えっ!俺にですか?……先生の方が良いんじゃないですか?」

「いえ、真人さんにお願いしたいんです」由美香ちゃんは真剣な眼差しで見ている。

「俺、出来るかなあ……………」自身なく答える。

「真人さん、良いものを見せてあげる」アリサちゃんは液晶画面の大きい携帯電話を取り出す。

「これ!」画像を表示させて俺に見せる。

そこには金髪でかなり派手なファッションの志音ちゃんが映し出された。しかもカッコいい男の子たちに囲まれている。俺の知らない志音ちゃんがニッコリ微笑んでいた。

「えっ………………」俺はショックで言葉を失う。

「…………………………………………」何も言えない俺はただ俯いた。すると涙が勝手にポタポタ落ちた。

「大丈夫?」

「おくすりが効き過ぎたみたい」

「えっ?」俺は二人の言葉が聞き取れない。志音ちゃんへの想いが涙となって溢れだす。

「…………………………」しばらく時間が経ってやっと俺は顔を上げた。

心配そうに二人は俺を見ている。

「すみません、つい取り乱してしまって……………」

「実は志音ちゃんに相談したの、そしたら志音ちゃんが真人くんへ頼んだらって言ってくれたから…………」由美香ちゃんは心配そうに俺を見ている。

「えっ!志音ちゃんが俺に?」

「そうなの、きっと作ってくれるって言ってたわ」

「そうなんだ…………………」俺は遠ざかった志音ちゃんが少し近くにきてくれたような気がした。
そして志音ちゃんに会えない寂しさが津波のように押し寄せた。
志音ちゃんの可愛い笑顔がフワッと脳の中に思い出される。

「アッ!……………………」その瞬間俺の頭の中に切ないメロディが降りてきた。

俺はその不思議な感覚に自分で驚いた。

「大丈夫?」2人はまた心配そうに俺の顔を覗き込む。

「曲は引き受けます、いやもう出来てます」俺は由美香ちゃんへゆっくりと頷く。

「えっ?もう出来てるの?」由美香ちゃんは不思議そうな顔をして見ている。

「志音ちゃんの事を思ったらメロディーが浮かんできました。少し寂しい曲かも知れませんが」

「そうなんだ、志音ちゃん効果だねえ」アリサちゃんが上目遣いでニヤリとした。

俺は否定しなかった。

「よかった、これで安心だ」小池さんが優しく微笑んでいる。

アリサちゃんと由美香ちゃんは駐車場まで見送ってくれた。そして車を見て驚いた。

「凄い!カッコいい車だねえ、写真とってもいい?」アリサちゃんはまた画面の大きい携帯を俺に向けた。

「車の横でニッコリして」そう言ってシャッターを押した。

帰りの車の中で、見た事のなかった志音ちゃんの画像を思い出している。
心が張り裂けそうになった。
もしかしたら、もう帰ってこないかも知れない、そう思った。
また涙が溢れた。

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