水の生まれる夜に 99 たかじょの恋
数日後夏菜さんはマーケティング課にやってきた。夜の店にいた時は派手でキツめの化粧だったが、昼間の夏菜さんは薄化粧だがしっかりとしていて、意識の高い系の女子『たかじょ』だった。
「クラスメートだった……いや親友の夏菜です、今度社員食堂を受け持ってもらう予定です」綾乃が紹介する。
「木村夏菜です、よろしくお願いします」深く一礼した。
留美さんと美由紀ちゃんも自己紹介をした。
俺は食堂の図面を広げる。
図面をを広げると、分かりやすく丁寧に説明する。
夏菜さんが質問すると、コンセプトからこうなった経緯までしっかりと説明した。その上で夏菜さんの意見も取り入れると図面に赤いペンで書き込み計画をしっかりと修正しながら、確実に進めていく。
「うーん……」夏菜さんは納得したように何度も頷く。
「綾乃、私……やっぱり新さんの愛人になるわ、決心ついたよ」そう言って笑った。
「えーっ、だめですう!私が最初に愛人になる約束をしてますから」美由紀ちゃんが慌てて割り込む。
「そんなの新さんの気持ち次第でしょう?」夏菜さんは涼しそうな顔で答えた。
「何だろうねえ……この異常な人間関係は」留美さんは呆れている。
休憩時間となり、コーヒーと旅のカラスが用意される。
「ねえ新さん、この3人の中で1番トモミちゃんに似てるのは誰?」
「何でそんなことを聞くの?」
「知りたいからよ」綾乃は凄んだ。
「まあ……強いて言えば夏菜さんかなあ……」3人の顔を見ながらもらす。
「何ですか?そのトモミさんって」美由紀ちゃんが旅のカラスをほうばったまま聞いた。
「新さんの初恋の人よ、だって男は初恋の人に引きづられるって言うじゃない」綾乃は不服そうに口を尖らせる。
「えっ……じゃあ私が1番有利ってこと?」夏菜さんは嬉しそうだ。
「そんなのヒドイ!私が最初に知り合ったのに」美由紀ちゃんが悲しそうに口を尖らせた。
「夏菜が1番似てて、その次美由紀ちゃんで……私が一番遠いじゃん、聞かなきゃよかった」俺を睨んでふくれた。
「だって綾乃ちゃんがしつこく聞くから……」俺は眉を寄せる。
「そんな時は嘘でもいいから、綾乃が一番って言ってくれればいいのに」
「えっ……ウソでもいいの?」
「う……ウソはダメよ……やっぱり」
「でも愛してるのは綾乃ちゃんだけですけど」
「そう!……そうなの……やっぱりそうなの」急激に口角をあげて1000ワットの笑顔になった。
「こら!……だから会社でいちゃつくなって言ってるでしょう!」留美さんはまた何度も机を叩いた。