隠れ家の不良美少女 31 コスプレイベントのキナコ
「おはよう希和」
「おはよう、母さん」
「本番になったわね、衣装ケースも作ったからこれに入れて」
「ありがとう、ケースも綺麗だね、しかも柔らかくて持ち易い」
「良い衣装は綺麗な衣装入れに入っているものよ、そうしたら大切に扱ってもらえるでしょう?」
「そうか……そうだね」
「それからマントも作ったわよ」
ブルーのレースが折り重なった、衣装に合ったドレスのようなマントだ。
「凄い、これも作ったの?」
「そうよ、みんなの前に立つまではこれを羽織って衣装は隠しておくといいわ、そして注目が集まったら脱ぐと良いわ」
「そうか、そうすると衣装が映えるね」
「そうね、頑張ってくるのよ」
「分かった、頑張るよ」
母さんは美奈さんのところまで、仕事用の軽ワゴンで送ってくれた。
「おはようございます美奈さん詩織さん」
「「おはよう希和ちゃん」」
今日はサークル仲間の和香ちゃんと芽依ちゃんも参加する。
みんなで衣装やメイク道具などを積み込み出発だ。
美奈さん家のワゴン車を運転が得意な詩織さんが運転して池袋へ向かう。
サンシャインビルに到着した。
地下駐車場から台車で衣装を運ぶ。
沢山のコスプレイヤーが準備をしていた。
私は少し怖くなっている。
「美奈さん、少し怖いです」
「大丈夫よ、私たちがしっかりサポートするから」
「ありがとうございます」
「初めは私たちが出て、その後みんなでキナコちゃんをサポートするわ」
「はい、よろしくお願いします」
「友希さんいないのかなあ……」独り言が溢れた。
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サンシャインのゲームショーに到着する。
何かあった時のために、いつもの仕事用スーツだ。
「おはようございます一瀬さん」未来ちゃんが見つけて声をかけてくれた。
「おはよう、どう、何か問題は?」
「大丈夫、順調です」
「そう、じゃあこのままプライベートで居させてもらおうかな」
「はい、何処のブースへ行くんですか?」
「コスプレのコーナーだけど」
「えっ、コスプレの?」
「ああ、知り合いのコスプレサークルが出るんでね」
「そうなんですか……ふーん……」不思議そうな顔で俺を見る。
「じゃあ、また」そう言って手を振ってコスプレコーナーへ向かう。
賑やかなゲームショー見ながらコスプレコーナーへ行くと多くの人で賑わっていた。
見渡したが希和は見つからない、控えの方に行ってみる。
準備をしている人たちの中に不安そうな希和を見つけた。
近づいていくと、気が付いたたようだ。
「友希さん遅い〜!」頬を膨らませる。
「大丈夫か?」
「ちょっと怖い」不安そうな顔だ。
「せっかくお母さんが頑張って作ってくれたんだろう?」
「うん……」
「お母さんに恥ずかしくないように頑張れ、俺も応援するから」
「わかった、頑張る」
「あれ?ブルーのその衣装は何?」
「これはみんなの前に立つまで衣装を隠してるマントなの、お母さんが作ってくれた」
「お前のお母さんは凄いな、プロ意識が高いなあ」俺は感心する。
そこへ美奈さん達が帰って来た。
「お疲れさんです一瀬さん」
「あ、美奈さんおつかれさまです、綺麗ですねそのコスプレ」
「ありがとう、でも今日は希和ちゃんの引き立て役よ」笑った。
希和は立って準備を始める。
じゃあ俺は先に行って見てます。
そう言ってコスプレコーナーへ向かった。
しばらくすると、希和がみんなに連れられて出てくる。
郁恵にも重なった青いレースのマントを纏い、4人の女の子に付き添われ歩いてくる様子は、緊張感を漂わせみんなの視線を集め始めた。
「何?何が始まるの?誰?あの子は誰?有名な人?分かんないけどビックリするくらい可愛いね、タレントなの?」
会場がざわめき出す。
広めの場所に来ると美奈さんが「さあ頑張って」と声をかけた。
「はい!」希和も緊張感が全身に広がる。
美奈さんが前に出てきた。
「皆さん、今日がデビューのコスプレイヤー『キナコ』ちゃんです」
紹介された希和はマントを着たままモデルのような歩き方で前へ進んでくる。
立ち止まると、手を大きく広げプリマドンナのように挨拶した。
詩織ちゃんが剣と盾を持ってくると、マントをサッと脱ぎ剣と盾を受け取る。
その瞬間希和は『キナコ』に変身した。
にっこり微笑んでポーズをキメている。
「ウヲ〜!」低い歓声が上がった。
一斉にカメラのシャッターの音が『キナコ』を取り囲む。
「「「超カワイイ!!」」」あちこちで言葉が飛び跳ねる。
「『マリン戦士アクア』だよね、凄い完成度だね」
「何処かの事務所がやってるのかな?いやゲームのメーカーがやってるんじゃない?」
様々な憶測も飛び交う。
微笑みながらポーズをとる『キナコ』にカメラ小僧達がジリジリととか付いている。
美奈さんが「すみません、もう少し距離をとってください」と訴えたがじわっと輪が縮まっていく。
助けないといけないなと思ってスタッフパスを首にかけた。
その瞬間二人の男の子が飛び出して来ると『キナコ』の前で手を広げた。
「皆さん、もう少し離れて下さい」一生懸命守ろうとしている。
よく見ると、いつかの不良高校生だった。もう一人は多分幼馴染だろうと思う。
「あいつら……」少し嬉しくなった。
俺も『キナコ』を守ることにした。
「はい!皆さんもう少し距離をとってください、離れていただけない場合は撮影終了にさせていただきます」
3人で協力して輪を広げた。不良君はペコリと会釈した。俺もニコリと笑顔を返す。
「はい、前の人は座ってください、後ろの人も押さない様に」
スーツを着てパスを下げているので、みんな大人しく指示に従ってくれた。
大きな輪の中心で『キナコ』は可愛さパワーを全開でポーズをとっている。
シャッターの音がスマホの林の中に鳴り響く。
10分程経過すると『キナコ』の笑顔が少し変化し始める。
限界だと思ったので、前に出た。
「皆さんご協力ありがとうございました、今日はこれ迄にさせていただきます」
そう言うと詩織さんがマントを持って駆けつけてくれた、サークルのみんなにサポートされて帰っていく『キナコ』には、すでにカリスマの香りがした。
「美奈さん、良かったらサークルの宣伝を」と言うと美奈さんは嬉しそうに「はい」と言って前へ出てくる。
「皆さん、コスプレサークルの雅《みやび》です、私たちのインスタに『キナコ』ちゃんの画像も載せますので是非アクセスしてください」
そう言ってニコニコと帰って行った。
俺もホッと胸を撫で下ろす。
いきなり背後から声がした。
「一瀬さん、そう言うことですか?」
振り返ると未来ちゃんが立っている。
「何?そう言うことって?」
「あの『キナコ』ちゃんが(仮)の人なんですね」
「まあ………」
「強力過ぎるライバルだわ」口をへの字にした。
「じゃあ今日はこれで失礼するよ」
とりあえずその場を逃れる。
今度は別の人に呼び止められた。
「すみません、アート・シンクの立道です、確か………」
「はい、サイエンス・プランニングの一瀬です」
アートシンクは『マリン戦士アクア』のゲームを作っているメーカーだ。
イベントでたまに見かけるので顔は知っていた。
「あの『キナコ』さんはお知り合いですか?」
「まあ……知ってますけど……」
「良かった、じゃあ今度連絡させていただきます」
名刺を交換して別れる。
「さて、希和を迎えにいくか」控えの方へと向かった。