隠れ家の不良美少女 221 一本の電話

CDは発売すると直ぐに60万枚を超えさらに伸びている。
ダウンロードも驚異的に伸びている。
日に日に伸びる売上に武道館への弾みが付いた。

友希さんと友里香さん、キナコちゃんは彼方此方へと忙しい。
俺はウイングでドキュメンタリーの仕上げを編集している。
良い雰囲気で回っているように思えた。

しかし一本の電話が全てを変えた。

『ルルル……ルルル……』

「はい、ウイングです」未来ちゃんが電話に出る。

『もしもし、サンライズプロダクションの東堂だが、社長はいらっしゃるかな?』

「はい、しばらくお待ちください」未来ちゃんが俺をよんだ。
「奏太さん、『社長さんは?』だって、サンライズプロダクションの東堂さんって知ってる?」
「えっ?知らない、誰だろう」俺は不思議に思って電話の録音スイッチを押して出てみる。

「はい、榊ですが」
「サンライズプロの東堂ですが、ご存じないですか?」
「すみません、どちらの東堂様でしょうか?」
「そうですか、私を知らないと言うことは素人ということですな」
少し小馬鹿にしたような鼻のフンという音がした。

「そちらのキナコちゃんはどなたがマネージメントしてらっしゃるんでしょうな」
「はい、原がマネージャーで一瀬がプロデューサーですが」

「そうですか、キナコちゃんが更に売れてBIGになるように協力しようと思いましてね」
「そうですか、それはありがとうございます」俺は意味がよくわからなかった。

「では早速キナコちゃんをうちの事務所に移籍させましょう、うちは業界最大手ですから随分優遇されますよ」
「えっ!キナコちゃんを移籍ですか?」

「もしくはキナコちゃんから上がって来る利益の30パーセントをうちに入れて頂ければ応援させていただきましょう」
「えっ!30パーセントをそちらにお支払いするんですか?」
「安いもんでしょう、それでこれからも活動できるんですから、もし嫌なら今後の活動は難しくなるだろうね」

「私一人では決める事はできません」

「では一週間差し上げますので、どうするかプロデューサーさんとマネージャーさんにお伝えください、サンライズプロの東堂がくれぐれもよろしくとね」

「ツー……ツー……ツー……ツー……」電話を置いた。

なんとも言えない不気味さが後に残る。

「「「お疲れ様〜」」」友希さんと友里香さん、そしてキナコちゃんが帰ってきた。

「私オータムに行ってくる」キナコちゃんは直ぐに出て行った。

「友希さん、友里香さん、変な電話があったんですよ」俺は二人に電話の内容を話をした。

「「サンライズプロダクションの東堂!」」友里香さんと友希さんは顔色を変える。

「友希さん、どうしよう?」友里香さんが珍しく不安な顔だ。
「こんなに早く来るとは思わなかったなあ」友希さんもこれまでに見たことの無い険しい表情をした。

「一週間か………せめて武道館が終わってからだったらまだ少しはマシだったかもね。

「どういうことですか?」俺は二人に聞いてみる。

「奏太くん、東堂は芸能界のボス的存在よ、彼がテレビ局に『キナコちゃんを出してよ』その一言でテレビ局はキナコ特集を放送するわ」
「え〜!」
「俺も話でしか知らないが、とんでもない大物らしいぜ」友希さんは曇った表情のまま言った。

「じゃあ30パーセントを支払って協力してもらったら良いんですかね?」俺はよく分からず聞いた。

「何寝ぼけたこと言ってるのよ!そんな事したらキナコの全てのスケジュールは東堂に抑えられて私たちは単なる付き人になってしまうわ、そして向こうが引き受けた仕事はウイングには一円だって入らないわよ!それにお金になるなら直ぐにキナコのヌード写真集だって出してしまうし、枕営業だって平気でさせるような人たちよ。キナコを単なる都合の良いお金儲けの道具として扱うだけなのよ」
友里香さんは机を叩いて怒った。

俺はビビって椅子に崩れ落ちた。
「奏太さん、どうしよう」未来ちゃんが震えている。

「ともかく俺たちではどうにもならない、直ぐに長谷川さんと相談しよう」友希さんは友里香さんを見た。
「そうね、まず長谷川さんに話さないとね」友里香さんは頷くと出かける準備を始めた。
スマホをバッグに入れようとして落とした、かなり動揺している。

「奏太くん、悪いけど希和を家まで送ってくれないか?今日は多分帰れないと思うから」

「分かりました、匠真と二人で送って行きます」
「頼んだよ!」

友希さんと友里香さんは急いで出て行った。

「奏太さん、私怖い………」未来ちゃんが小声で呟く。

「俺も………」

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