水の生まれる夜に 61 冬の一日
二人は鼻歌を歌いながら別荘へ帰ってきた。
僕が和室に コタツやテレビ・座椅子などをセットすると、すぐに綾乃さんはコタツに入り座椅子にもたれ満面の笑みで「幸せー」と漏らす。
「幸って安いもんだね」笑って綾乃さんを見ている。
持っていたブルーレイプレイヤーを繋ぐと「あっそうだ!」思いついたように小さなパソコンを持ってきてテレビに接続する。
立ち上げると不思議そうにしている綾乃さんの前にワイヤレスのマウスを置き、テレビのリモコンで入力を切り替える。
すると綾乃さんがいつも見ているネットショップのページが大画面に映し出された。
「はい、大画面でネットショップができますよ〜」
綾乃さんの笑顔は最大のワット数で光り輝く。
「幸せすぎる〜…………」そういってマウスをコチコチ鳴らした。
「新さん、洋服とかよくわかるよー……」気持ちはアマゾンの上空まで飛んでいってるようだ。
僕は綾乃さんがヘタレの才能があることを確信する。
その日から綾乃さんはコタツでネットショップを見ながらよく寝落ちした。
僕はそっと起こさないように抱いて布団に移動した。
あの『おへそ事変(僕はそう呼んでいる)』以来少しづつ綾乃さんのホッとする部分が見えて来る。ヘタレっていいかもしれないと思った。
ある日二人は並んで映画を見ていた。僕は手探りでみかんをとって一眼見て他のみかんに交換した。
「新さん!今何した?……」
「えっ……別に……」
「今みかんをとって見た後、他のミカンに取り変えたわよね……どう言うこと?」
「ああ……見たら酸っぱいヤツだと思ったから交換したんだけど……」
「見たら分かるの?」
「うん、これを見て、日当たりが悪いみかんはこんな色なんだ、触ると中身のみずみずしさも分かるよ」
「じゃあこの日当たりの悪い酸っぱいみかんは誰が食べるの?」
僕は「はっ」とした。
「どうもスーパーから買ってくるミカンって酸っぱいなあと思ってたけど、美味しい方は新さんが食べて、私は酸っぱい方ばっかり食べさせられてたのね?
そうなのね……新さんそこに愛は無いの……愛は……」綾乃さんの頬は膨らみ更に睨んでいる。
「ごめんよ、実家は果樹園だから習慣で何気なくやってたことなんだ……習慣になってて……ごめんなさい」深々と頭を下げる。
「新さんてひどい人……」さらに頬を膨らして唇を尖らせた。
「本当にごめんよ……」
「じゃあ、しばらく酸っぱい方から食べて、そして私に見分け方を教えて」
「わかりました」僕は酸っぱいみかんに目を潤ませながら食べた。
冬の何気ない一日はそうして平和に過ぎって行った。