水の生まれる夜に 111 一人より二人
週末になってやっと別荘に帰ってきた二人は「「フー」」っとため息をついた。
「やだー!ため息まで一緒のタイミングなんて」綾乃が笑った。
「あはは……」俺も力無く笑った。
リビングでコーヒーを飲みながら綾乃は俺をじっと見ている。
「ねえ新さん、最近の新さんはとっても優秀でやり手の新さんみたいになってるじゃない?」
「そうかい?」俺はコーヒーをズズッとすすった。
「出会った頃の新さんはとっても可愛かったけど、こんなに頼り甲斐のある人になるなんて思っても見なかったわ……何でそんなに変わったの?」
「それは綾乃が変えたのさ」
「ええ……私何もしてないよ……ヘタレたくらいで」
「そうさ、綾乃がヘタレになったから俺が頑張んないとと思ってさ」
「ウソ……そのせいなの?」
「ウソだよ……へへへ……」
「もう……本当は?」
「綾乃は自分一人のご飯を作る時も気合が入るかい?」
「ううん……自分の分だけだったら適当になっちゃうかも……新さんが喜んでくれるから美味しいものを作ろうと思える」
「だろう、俺も綾乃ちゃんのためにと思うと頑張れるんだよ、昔は自分のことだけ考えれば良かったから、頑張る気持ちも必要も無かった。でも綾乃ちゃんを好きになって、そして綾乃ちゃんを守って行かなくちゃあって思ったら、いつの間にか力が湧いてきて頑張れる自分になったのさ。綾乃ちゃんが僕を俺に変えたのさ」
「そうか……愛する人のためだったら頑張れるんだね」
「そうさ、だから二人で幸せになろう」
「うん!」
綾乃は両手を広げて俺に抱きついた。
「新さんに出会えて良かった」
「ああ、俺もだよ」