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隠れ家の不良美少女 42 桜
イベントが無事に終了した次の土曜、ガレージハウスへ来た。
コーヒーをいれて久々にゆっくりと飲む。
今週は報告書も終わったので一週間休みをもらっている、これも毎年の恒例だ。
のんびりしているとバイクの音がする。
希和がやって来た。
「友希さんおはよう」いつもの過剰な笑顔はなく、寂しそうにしている。
「おはよう、どうしたんだ希和?」
「…………」
「そういえばお前ドームに来なかったな、せっかくお土産用意してたのに」俺は赤いお面の絵が付いた煎餅を渡す。
「だって……だって友希さん、司会の女の人とコツンて拳を合わせて、とっても優しそうな私の見たことのない特別な笑顔だったもん」希和は泣きながら抱きついてきた。
「そうか……あの時に来てたのか」友里香さんが不思議そうな顔をしたことを思い出す。
「友希さんあの司会の人が好きなんでしょう?」涙ながらに睨んだ。
「そんなことはない」俺は否定した。
「でも……私には友希さんが特別な人を見る目だってことは分かったもん」
「そうか……確かに彼女は特別な人だ」
「やっぱりそうなのね……」希和は抱きついたまま泣いた。
「でも彼女は好きだった人の親友だから特別な人なんだ、恋愛の対象では無いぞ」
「ええっ、そうなの?……好きな人じゃ無いの?」
「違うよ」俺は希和の髪を優しく撫でる。
「良かった……」希和に少しだけ笑顔が戻った。
「コーヒー飲むか?」
「うん、ミルク多めで」
コーヒーを入れ希和に渡す。
「今週は一週間休みなんだ」
「えっ、ホント?」
「ああ」
「じゃあ一週間一緒に居られるの?」
「まあな……」
「やった!」希和は満開の笑顔になった。
俺は少しだけホッとした。
お昼を食べに天空カフェへ向かう。
新くんがいつものように迎えてくれた。
「よっ!お二人さん相変わらず仲良いね」口角を片方上げる。
「新くん怒るよ」
「怒って良かよ」九州弁で返してきた。
「良かとね?」俺も方言で返した。
それを聞いていた希和がポツリと漏らす。
「九州弁ってなんかいいなあ……」
その瞬間俺にフラッシュバックが起こった。
「桜……」俺はある人の事を思い出す。
「えっ?」新くんはテラス横にある桜の木を見上げる。
「あっ、本当だ一輪咲いている」
「えつ?どこ」俺は探した。
「ほら、あそこ」新くんが指さす方向を見ると季節外れの桜が一輪だけ咲いている
俺は思わず立ち上がって一輪の桜の花の下に行って見上げた。
「桜……見にきてくれたのか?会いに来てくれたのか?」涙が溢れる。
それを見た希和は黙って俺に抱きつく。
「涙を見られたく無いからあっち行ってろ」希和に言った。
「心の中に『一緒に居なさい』って声がするの」希和は離れない。
「桜……」俺は希和を強く抱きしめた。
希和は何も言わず微笑んでくれた。
その顔は何処か桜に似ていると感じた。
席に戻ると新くんが微笑んだ。
「ついに(仮)が外れたね?」口角を片方上げる。
「…………」