隠れ家の不良美少女 176 開花
翌日天空カフェに来ていた。
今日はカフェが休みなので、希和は千草さんにレッスンを受けている。
「随分上手くなったわねえ」千草さんは何度も頷いた。
「そうですか?」
「うん、もう立派にライブをこなせるわ、だから自信を持ちなさい、自信を持ったらもっと輝くから」
「はい、ありがとうございます」希和はニッコリお辞儀した。
「そうだ、千草さん、どうしたら曲が作れる様になりますか?」希和は首をかしげて聞いている。
「そうね、いろいろやり方はあるけど………希和ちゃんならいきなりやってみたら?」
「えっ、どんな風に?」
「希和ちゃんの気持ちが高ぶる言葉は?」
「うーん…………何かが始まる…………とか?」
「そう、じゃあ『何かが始まる』を繰り返し自分の好きなように歌ってみたら」
「えっ?………何かが始まる♪………何かが始まる♪………何かが始まる♪」希和は色んなメロディを思いつくまま歌い出す。
「そうよ、その調子、ファルセット(裏声)にしたり、間に『WHO〜』とかアドリブを入れて!」
「………何かが始まる♪うう〜………何かが始まる♪WHO〜」キナコの歌の世界が広がり始めた。
「そうよ、それから思いついたサビを歌ってみて!」
「………恋が始まるよ♪………夢が始まるよ♪………全てが今、が始まるよ〜♪」
アーティストキナコが生まれた瞬間だった、俺は鳥肌がたった。
「凄いぞ希和!」俺は思わず拍手した。
「ほら曲が出来ちゃったじゃん」千草さんがニッコリ拍手した。
希和は固まって震えている。
「私……私……なんか感じた!」希和は拳をぐっと握りしめている。
ガレージハウスに戻ってきてもずっと鼻歌のように繰り返している。
どうやら希和なりの曲作りを身につけたようだ。
やはり和也さんから受け継いだ才能は大きいと思った。
キナコの中にメロディが湧き出し、自分なりの歌い方で心に浮かぶ言葉を歌う。
キナコは完全にその才能を開花させ始めている。
俺はその様子を直に見ることができ嬉しいと思った。
翌日からレコーディングと配信ライブのリハーサルも兼ねてバンドも一緒にスタジオへと入った。
「「「「キナコさん、よろしくお願いします」」」」バックバンドのメンバーは嬉しそうに挨拶した。
「キナコちゃんよろしくね」未来ちゃんもコーラスで参加する。
「こちらこそよろしくお願いします」キナコは可愛く挨拶した。
メンバーは可愛いキナコにデレ〜となっている。
未来ちゃんはメンバーを見てクスクス笑った。
それを見て俺は少し笑った。
長谷川さんも少し笑っている。
レコーディングが始まる。
スタジオでキナコが歌い始めた。
バックバンドのメンバーは固まって青ざめている。
自分達の録音した演奏がぐいぐいとキナコの歌に引っ張られていく。
圧倒的な存在感が伝わってきた。
「キナコちゃんは随分成長しましたねえ」長谷川さんは何度も頷く。
「今も急激に伸びている感じがします」俺も横で頷いた。