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隠れ家の不良美少女 151 時間が止まった部屋。

「もうだめだ、指が痛すぎる」希和はギターをケースに収めた。
指先がカサカサになっている。
「徐々に硬くなって、痛く無いようになるから無理しないでやればいい」
「そうなの?」希和は指先を見つめる。
「焦らないで続けたらきっと大丈夫よ」希美子さんも言葉をかけた。

希和はジュースを持ってきていつものように晩酌へ参加する。

「2階にピアノがあるって聞いたんですが」俺は徐に話しだす。
「「えっ…………」」二人は固まった。
「友希さん、その話は…………」希和が口籠る。
「そうね、話すべきよね………」希美子さんは少し俯いた。

「お母さん、わがままでピアノ辞めちゃってごめんなさい」希和も俯いた。
「いいのよ、希和には何も買ってあげられなかったし、寂しい思いをいっぱいさせちゃったからね、私がどうしても希和を産んで育てたかったから…………」
「母さん、そんな事言わないでよ」
「もし、希和がもっと普通の家庭に生まれたら、こんなに苦労しなくてもよかったのにって思ってたわ」
「そんな事ない!私は母さんの子供で良かったと思ってるもん」
「そうなの?」
「そうだよ、母さんが私を産んでくれなかったら、今の希和の幸せは全部なくなっちゃうんだよ」
「希和…………」希美子さんは顔を両手で塞いだ。

「すみません、差し出がましい事を言って」俺は頭を下げる。
「いいんです、いつかは話さないと、そう思っていたので」希美子さんは顔を上げた。

「ピアノがあればより分かりやすく音楽のスケールとか希和に教えられると思うんです、ピアノを習ってたお陰で、希和は絶対音感を持ってますし、結果的に良かったと思います、何も無駄にはなってないと思うんです」
「そう言われると、少し気持ちが和らぐわ」希美子さんは少しだけ微笑んだ。
「お母さん…………希和はお母さんもお父さんも大好き…………」
「有難う希和」希美子さんは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ早速2階の部屋の生地や端切れを片付けよう」希美子さんが立ち上がる。
「えっ!今から?」希和は驚いた。
「ずっと思ってたのよ、あの生地をK Kステージに持って行こうと、でも、そうしたらピアノが見えてしまうから希和が思い出して嫌な思いをするかもって、だから出来なかった」
「そうなんだ………じゃあ、早速やろう」希和も立ち上がった。

3人で生地や端切れを段ボール箱に詰めて、車に載せる。
片付いた部屋には、可愛いアップライトピアノが恥ずかしそうに佇んでいる様に見えた。
希和はピアノを開けると鍵盤を少し弾いてみる。
その音が部屋に響いて、止まっていた時間が動き始めた気がする。
俺のギターを置く場所も出来た。
希和は嬉しそうに自分のギターを横に並べて置いている。
希美子さんはそれを見て少しだけ笑った。

その夜、布団の中で希和は「有難う」そう言って俺の胸に顔を埋めた。

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