水の生まれる夜に 70 変わってしまった新
ついに急がされた僕は渋々と自動車教習所へと通い始める。
学科は難なくクリアしたが実地教習ではかなり手こずった。
しかし納得するまで根気よく続けた結果、免許を取ると普通に運転に出来きるようになった。
「なんだ新さん運転上手じゃない、やっと私も助手席に乗れるのね」
綾乃さんは助手席に座ると、嬉しそうに運転している僕の太腿あたりに手を置いた。
僕はその手をまるで汚いものを触るように指の先でつまんでポイっと捨てるそぶりをした。それを見た綾乃さんは目を丸くして震えている。
「何それ!私の手を汚い物ののようにつまんで、しかも捨てたわね、信じられない、なんて事するの、ちょっと新!」綾乃さんは怒り狂った。
「運転中に手を出すからだろう、危ないからやめようね綾乃ちゃん」すまし顔で答える。
「なんか最近自信付けちゃってちょっとイラッとする」綾乃さんは膨れ顔だ。
「そんなことないよ、私はあなたの土鈴よ、カラカラ…………」
「ああ……もうなんかふてぶてしい感じがする、あのすぐに赤くなった可愛い新さんはどこへ行ったの?」
「綾乃山の谷底へ落ちていなくなった」
「そんなのイヤだ!可愛い新を返して……可愛い新を返せ!」
「じゃあコタツから顔だけ出してるヘタレの綾乃ちゃんじゃなくて、毅然としたお嬢様の綾乃さんを返して」
「えっ……???ヘタレ……今ヘタレって言った?…………ショック」綾乃さんはガックリとうなだれてしまう。
「えっ……自覚無かったの?」なん度も瞬きした。
「ないわよ、ただ幸せに浸っていただけじゃない……それをヘタレなんてヒドイ……」
「そうなんだ、俺はそんなヘタレの綾乃ちゃんが可愛くて大好きなんだけどなあ」
「う……なんか立ち直れない感じ……しかも俺って言った」
「うん、いつまでも僕を通す訳にもいかないでしょう」
「あーん……新さんが変わってしまった、イジワル新に変わってしまった」泣き真似をしている。
「そう思うの?、俺は今後綾乃ちゃんをしっかり守って行かなくてはと思って変わろうとしてるんだけど……やっぱり変わらない方がいいのかなあ」
「えっ!!!…………変わっていいです…………守ってくれるんだよねえ?」
「はい、命をかけて綾乃を守ります!だから結婚してください!!!!」
「えっ……えっ……えーーー!!!!!…………………………………………」
はい、よろしくお願いします」綾乃ちゃんはうつむいた。
「二人で幸せになろうよ」
「はい……」肩に寄りかかって頭を寄せた。