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水の生まれる夜に 56 可愛い軽トラック

車があると畑ができるかもしれないと思った。

「もちろん私が運転できるようになったら新さんを教習所まで送り迎えしてあげるから」ニッコリ微笑む。

「えっ、ぼくも免許を取るの」思わず不安そうな顔をしてしまう。

「当然よ、私を助手席に座らせない気なの?」口を尖らせている。

「はい……頑張ります」ゆっくりうなずくしかない。

「じゃあ知り合いの整備工場に連絡して軽トラが使えるようにしとくよ」みつ子さんが手配してくれることになった。

その日みつ子さんと一緒に帰るとガレージの軽トラックを見せてくれた。

「キャー!可愛い車、ウーパールーパーみたいな顔をしてる」綾乃さんはすぐに気に入ったようだ。

僕はスマホを取り出して写真を撮った。

「あのうお値段って……」綾乃さんが聞くと

「もう古い車だからタダでいいんだけど、それじゃあ気持ちが良くないだろうから5万円でどう?」

「えっ、そんな値段でいいんですか?」驚いた。

「たぶん車検や修理で20万円くらいかかると思うから、その値段でいいよ」

「でも大切な形見の車なんでしょう?」綾乃さんは少しだけ首を傾げた。

「私は免許も無いし、このままだと錆びて動かなくなるから使ってもらえるなら嬉しいよ」

「そうですか、じゃあ綾乃さん譲っていただこうよ」

「うん、みつ子さんありがとうございます」

二人はお礼を言って別荘へ戻ってきた。

「今日笹原さんから聞いたんだけど、カフェに行く道の横にある畑は真一お祖父ちゃんが買った畑なんだって、だから野菜が作れるよ」

「そうなの?じゃあ軽トラがあれば畑ができるね」手をトンとたたく。

「なんか楽しいね」僕も嬉しくなって目尻を下げてしまう。

「今日は昨日のカレーの、残りで作ったカレーうどんですよ、手抜き料理でごめんね」

「美味しいから、何の問題もありません」

綾乃さんは申し訳なさそうに首をすくめた。

食後にパソコンで軽トラックを調べてみる。

「綾乃さん、あの軽トラはクラシックって言って人気があるみたい、オークションでも20万円くらいしてるよ」綾乃さんに画面を見せる。

「ホントだ!」

「やっぱり適正な値段で買おうよ」

「うん、そうしよう」

二人は20万円で購入することにした。

「お金は僕が銀行から引き出してくるよ」

「嫌だ!新さんのお金は使いたくない、お祖父ちゃんの残してくれたお金を役立てたい」

「だって運転してもらえるのに、お金くらい出さなきゃあ申し訳ないだろう」

「ああ……新さん自分は免許を取らないつもりでしょう?」少し睨んでいる。

「えっ……バレた?」

「それは絶対ダメでしょう!私を一生助手席に座らせない気なの?」

結局車代は僕が負担して、車検や整備は綾乃さんが支払うことで決着した。

「車があると色んなことができるね」

「そうだね、バスの時間を気にしなくてもいいし」

二人は嬉しそうに肩をくっつけた。

「軽トラックかあ……………綾乃さんはお嬢様だから外車とかが良いんじゃないの?」

「何で?」

「何となく…………」

「軽トラックだったら荷物がいっぱい運べるよ?」

「そうだけど……………」

「いいじゃん軽トラック、しかも可愛いトラックだし」

「そうだね」気取らない綾乃さんに僕は何となく納得した。

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