恋するプリンとゆるルン密着旅 48 言えなかった思い
「私が小学6年の時……あれは津波の前日のことだったわ、友達が新しい漫画を貸してくれたの、次の日には返す約束だったのよ」
リンは涙を拭くとゆっくりと話しを続けた。
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「凛、何んなの勉強もしないで漫画ばかり読んで」
「母さん、これ明日返す約束だから……」
「見なさい蘭を、頑張って宿題済ませてるのに」
「そうだぞ凛、お前は本当にダメだな、少しは蘭を見習え!成績も悪いし運動だってパッとしないし、何一つ蘭に勝てないじゃないか、お前はお姉ちゃんだろう」
父さんは呆れ顔で言った。
「どうせ私は蘭に何も勝てないわよ!」
「お姉ちゃんやめて、私はお姉ちゃんが羨ましいよ、だって周りの人はお姉ちゃんと話したがるし人気があるもの、私はあまり人に好かれないもん」
「それは蘭が成績もいいし、運動もできるから……馬鹿じゃ無いから身構えてるだけよ、私はバカだからみんな遠慮しないだけよ」
「違うよ、本当に羨ましいの!」
「そんなわけないわ、本当は私をバカだと思ってるんでしょう」
「凛、お前はお姉ちゃんだろう、もっとしっかりしろ!」
「そうよ凛、あんたは蘭の手本にならなきゃいけないのよ!」
「もういい………」
私は部屋に行って1人で泣いた、「どうせ私なんか……」
次の日学校で災害警報が鳴り響いた、津波から避難するために学校裏の高台にみんなと避難することになった。
私は家のことが気になっている。
車椅子でしか動けないおじいちゃんと、杖をついて歩くおばあちゃんもいる。
でも、昨日の事でまだ怒りが収まっていなかった。
「どうせ私なんか要らない子でしょう、だったら私も家族なんて要らない」そう思った。
それにそんなに大きな津波が来るなんて思っても見なかったの、だからみんなと一緒に避難した。
しばらくするとこれまでに聞いたことのない地響きと見たことのない大きな津波が押し寄せてきて町を丸ごと飲み込んだ。私は足が震えて立っていられなかった。
私はハッとした、そして蘭のクラスに行ったの。
「すみません、蘭はいませんか?蘭を見ませんでしたか?」誰も返事してくれない。
蘭と仲が良かった花音ちゃんを見つけたから聞いてみる。
花音ちゃんは震えながら「蘭ちゃんは、私が帰らないとおじいちゃんやおばあちゃんがいるからって、抜け出して家の方に走って行った」青ざめた顔を伏せた。
私は愕然とした「そうだわ、おじいちゃんを車椅子で避難させるにはお父さんとお母さん2人が必要だわ、おばあちゃんを避難させるには私と蘭がいないと無理だ」
私はその場に崩れ落ちた。私は何も考えられず、家族を置いて1人だけ避難してしまったんだわ、そう思うと涙が溢れて止まらなかった。
その日から避難所の生活が始まった。近くに3箇所避難所があったから何処かに逃げ延びてないか探した。でも、何処にも家族は居なかった。
高台にあるお寺が遺体の安置所になってることを聞いたから見に行った、誰か1人でも家族に会えなかと思って通った。
無惨な遺体もあって何度も吐いた。
しばらくは避難所とお寺を見て回った。
結局家族に会えることはなかった。そして言えなかった「ごめんなさいと、さようなら」の言葉が私の心の中に残って大きな傷になって、悲しみと痛みが泉のように湧き出した。
私は避難所の段ボールの上で死んだように転がってた。
段ボールの顔があたるところは涙で溶けてしまった。
生きる気力は無くなって何も食べないで、ただ死ぬのを待っていたの。
そんなある日、立ち入り禁止が解けて実家のあった場所に行けることになった。
私はムクっと起きて実家を目指して歩き出した。
家の上に船があったり、あちこちに瓦礫の山があった。沢山のボランティアや自衛隊の人たちが働いていた。
途中でボランティアに来ていたキャンピングカーの会社の人に話しかけられた。
「お嬢ちゃん、これどうぞ」そう言ってアルミの缶をくれた、中にはクッキーが入ってた。
「ありがとう」久々に言葉を話した。
そのアルミ缶を持って家に行ってみた。
流されてしまった家はコンクリートの基礎だけが残ってた。基礎の形で何となく家の間取りを思い出した。
私はもらったクッキーを口に入れ黙々と咀嚼した。
ふと、コンクリート基礎の奥の方に水色のタイルが見えた。「あっ、お風呂!」私は駆け寄ったわ。
そこはお風呂の場所で、見慣れたタイルが変わり果てた姿になっていた。
それを見た瞬間、食べたクッキーを全部吐き出してしまった。
全てがなくなったことが現実の事になったから。
私はその水色のタイルにしがみ付いて大声で泣いた、ただ泣いた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん……」もう誰にも届かないんだ、そう思うと涙が止まらない。
私は剥がれ落ちたタイルをアルミ缶に入れた、このタイルが家族との唯一の思い出なんだと思った。
それから毎日来てそのタイルの前でただ泣いたわ。