水の生まれる夜に 41 ええ……ええ
二人は荷物の整理にもどった。綾乃さんは小さめのダンボール箱を開ける。
「これ私のアルバムですけど見たいですか?」
「えっ、何を持ってきてるの……アルバム?……嫁いでくる気?……」思わず後退りしてしまう。
「見たくないのね!」唇に力が入り少し睨んでいる。
「いえ、見たいです」何度も頭を振ってうなずく。
「じゃあ、新さんのも見せてくれる?」
「はい、いいですけどあまり多くないですよ」
「じゃあ交換です」
押し入れから自分のアルバムと写真が入った袋を持ってきた。お互いに交換すると見入った。
「お〜……やっぱ綾乃さん小っちゃいころから可愛かったんだなあ」
「新さんも可愛い、ここは果樹園なの?」
「そうです」
「綾乃さんの家ってここに写ってる家?」
「そう、2階の窓が見えるでしょう、そこが私の部屋」
「で……でかい、車が何台もあるじゃん」
「そうね、パパは一応会社の社長だからね」
「パパの会社って働らいてる人って何人くらいいるの?」
「私は本社しか知らないけど……本社だけだと500人くらい?……もっといるかなあ?」
「ええ…………支店もあちこちあるみたいだから全部はわかんない」
「2年もはたらいてたんでしょう?」
「だってほとんど仕事してないもの、お飾り状態だったから」
「でかい会社じゃん、僕が仕事をもらってる会社は100人もいないよ」
「そうなんだ」アルバムを見入っている綾乃さんはほとんど会話はうわのそらだ。
ぶれない彼女はこんな家で育ったのかと、少しわかったような気がした。