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水の生まれる夜に 79 禁断の軽井沢

「ほら、ここが浜田電気本店よ」

「えっ、そうなの、ここが本店なんだ」

「だるまちゃん弁当もあるよほら……食べた後は貯金箱になるんだよ」

「へー……」俺は繋いだ綾乃ちゃんの手を何度もポンポンと叩いて「へー」を連発する。

「スズナリデパートもあるよ」

「高崎って大きな街なんだね、仕事で来たときは忙しくてよく見なかったからなあ」

「少しは見直した?」

「うん……海はなくてもいい所だ」

「ううう……またなんかイラッとする……沢山いいものがあるのよ、じょうも……色々と……」

しばらく駅周辺を歩くと、二人はまた新幹線に乗りこむ。

「時間の都合があるから、とりあえず軽井沢に行くよ」

「はいな」俺は綾乃ちゃんに引きずられるようにしてついて行く。

「着いたあ……ここが軽井沢のアウトレットよ」

「おお……広い……キレイ……高そう」

「高校の頃はよくここで買い物したわ、お洋服とか……」綾乃ちゃんは手を引いて案内した。

「ここがお気に入りのお店だったんだ、前に別荘に戻った時着ていたお気に入りの服もここで買ったのよ」

「ふーん……高そう」

「そればっかり」

お店の中から女性店員が綾乃ちゃんを見つけて手を振りながら出てきた。

「綾乃お嬢様!お久しぶりです、お元気でしたか?最近お見えにならないので心配してたんですよ」綾乃ちゃんの手を握って懐かしそうにしている。

「ちょっと色々とあってね」

「こちらの方は?」

「婚約者なの」

「えー!!!綾乃お嬢様、ご結婚なさるんですか?おめでとうございます、どちらのお方ですか?」

「パパのお気に入りよ」

「そうですか、よほど良いところの方なんですね」

俺は恐縮した、綾乃ちゃんはそれを見て笑っている。

「そうだ、新さんどんな服が好き?」

「綾乃ちゃんはどんな服でも似合うからなあ……」

「そんなことないよ、そうじゃなくて新さんの好みを聞いてるの」

「わかった……えーと……」店の中に入り一体のマネキンが着ている服を指差した。

「これとか可愛いね」

「そう、じゃあ着てみるね」店員に同じ服を用意してもらい試着室へと入っていった。しばらくするとカーテンが開く。

「どう?新さん……似合う?」

「ああ、とっても似合うよ、すごく可愛いよ」

「じゃあこれください」綾乃ちゃんは店員に言うとカーテンを閉める。

俺は何気なくマネキンが着ている服の値札を見た。

「えっ!!!!25万円!」そんな現金は持っていない、そうだカードならなんとかなるかも……不安になる。

綾乃ちゃんが着替えると「ねえ、ここはカード使えるかなあ」小声で聞いてみる。

「えっ、使えるとは思うけど?」

店員が紙袋を持ってきて綾乃ちゃんに手渡す。

「ありがとうございます」深々と頭を下げた。

「ありがとう」綾乃ちゃんは嬉しそうに袋を受け取りお店を出る。
店員は嬉しそうに見送った。

「えっ……綾乃ちゃんお金払ってないよね」

「うん、ここはお金はいらないの」

「なんで?」

「パパのお知り合いだから、後で請求書がパパに行くと思うけど?」

綾乃ちゃんは何事もなかったような顔をしている。
俺はただ目をぱちくりさせた。

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