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第50話 訪問者

今日は小池さんがスタジオに来てくれる。俺は準備をして待っていた。
小池さんは白いワゴン車でやってきた。なんと助手席には真美さんが乗っている。
先生はテラス席で手を振って迎えた。

「小池くん、忙しいのに申し訳ないねえ」

「いえ、僕も先生のスタジオを見たかったんで嬉しいです」小池さんはにっこり会釈した。

「おっ、真美ちゃんも来てくれたんだ、嬉しいねえ」先生は過剰なほど喜んでいる。

皆んなでログハウスのリビングへ入ってきた。

「いらっしゃい、こんな山奥まで大変だったでしょう?」美夜子さんはコーヒーを出してくれた。

「お久しぶりです、とてもいい所ですね」小池さんはにっこりしている。

「お会い出来て嬉しいです」真美さんはしっかりと頭を下げた。

美夜子さんは少し強張った笑顔で頭を下げる。

「真人くん、早速真美ちゃんをロードスターで秩父案内したら?」

「何言ってるんですか先生!小池さんにしっかりセッティングや使い方を教えてもらわなきゃ行けないのに」俺は少しイラッとする。 

「後日電話で説明してもいいよ」小池さんが笑った。

「ダメです!しっかり今日教えてください!」俺は小池さんと先生をスタジオへ誘導した。

「でも………せっかく真美ちゃんが来てくれたのに………」先生はなかなか動こうとしない。

「私は大丈夫です」真美ちゃんは先生に手を振った。

「そう………」先生は後ろ髪を引かれながらスタジオへ向かう。

スタジオへ入った先生は何事もなかったように小池さんとセッティングの準備を始めた。

俺は少し真美さんが気になったが、今やるべき事をしっかりとやらなければと思い、セッティングへ参加した。

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皆んながスタジオへ入ると、彼女は姿勢を正した。

「初めまして、高瀬由美香《タカセユミカ》と申します、優《ユウ》さんにお会いできて光栄です」しっかりと頭を下げる。

「初めまして、美夜子です。ここで優と呼んだら直ぐに帰ってもらうわよ」私は少し睨んだ。

「はい…………突然お邪魔してすみません、でも……どうしてもお会いしたかったんです」少し俯いた。

「正美《マサミ》から電話があったわ、少しだけ話を聞いたけど………」私は彼女の前にコーヒーを置いた。

「私は今『オフィス・スフィンクス』で歌手として活動しています」

「そう、社長は元気にしてる?」私は彼女をソファーへ促し、自分も前へ腰を下ろした。

「はい、社長は元気です……………」

「…………………」私はその返事に反応もせず、喜びもしなかった。

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