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水の生まれる夜に 50 広がる疑惑

僕は顔を起こすと将暉さんを見た。

「すみません、少しだけ質問しても良いですか?」

「私で分かることなら……」

「真一お祖父さんに1000万渡したと言われましたが、それはあなたが持って来られたんですか?」

「いや、私が直接来たら受け取ってもらえないと思って、運転手に託したんだよ」

「運転手ですか、もしかしてこの電話番号の人ですか?」いつか渡されたメモを出して将暉さんへ見せる。

「そうだよ、運転手の城島だよ」

「えっ、パパあんな奴に託したの?、信じられない!」

「そのメモは綾乃さんが訪ねてくる数日前に黒い外車で来られて、若い女が訪ねて来たら電話しろと言われました。
でもヤクザの人かと思い連絡しませんでした、綾乃さんとは関係無い人だと思ったんです。それに『あのじいさん死んじまったか』と笑っていたのであまり良い人とは思えませんでした」

「パパは知らないかもしれないけど、あいつはパパの見てない所では態度悪いわよ」綾乃さんは眉を寄せている。

「そうなのか?しかし彼は私の命の恩人だからなあ」

「またそれ、ずっと昔の話でしょう、会社でも評判悪いわよ」

僕は立ち上がると和室の押し入れから紙の箱を持ってきた。

「これはあなたが託した物ではありませんか?」その箱を将暉さんの前へ差し出しす。

不思議そうに箱を開けて中を見ると新聞紙で包まれた帯の付いた一万円札が八束入っている。

「これは確かにそうかも知れない、八百万有るようだが、私は一千万渡した」

「きっと二百万はアイツが取ったのよ」綾乃さんは腰に手を当て口をへの字にした。

「それは分かりませんが、真一さんの友人の笹原さんから聞いた話では、手切金だから二度と連絡はするなと言って押し付けて帰ったそうです、
だからこのお金が押し入れに残っていたんだと思います。私は見つけたのですが、怖くなってしまい、そのまま放置してしまいました」申し訳なさそうに下を向く。

「真一お祖父さんの気持ちを考えると、このお金はお返しするのがいいと思います」

「待ってくれ、私は真一さんに渡したのだから受け取れないよ、本当にあのお金かもわからないし」将暉さんは箱を押し返した。

「君が買った別荘にあった物だから、君が持っていてくれたまえ」

「いやです、僕は受け取れません」二人はしばらく譲り合いをする。

「そうだ、きっと真一さんは綾乃さんに残したのかも知れません」

「そうだな、きっとそうだ」

二人はそっと綾乃さんの前に箱を置いた。

「ちょっと待ってよ、なんで二人で勝手に決めてるの、私だって受け取れないわよ」

「でも綾乃さん、真一さんは何でも綾乃さんの為にって生きてた人だよ、だから綾乃さんに残したんだよ」

「そうだよ綾乃、きっとそうだよ」

綾乃さんは眉を寄せて困り果てた。

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