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星降る夜のセレナーデ 第112話 黒い愛車
久しぶりに兄が実家へやってきた。珍しく二人でお酒を飲んだ。
「まあびっくりだよなあ…………あの『優様』がご近所で、しかもお前がそこで働いてるなんて」
「俺は何も知らなかったから普通にしていられたのかも知れないなあ…………」
「今じゃあ、真人も作曲家だしなあ」
「そんな大したもんじゃないよ」
「謙遜するなよ、兄貴として鼻が高いよ」笑っている。
「娘の志音ちゃんだっけ、超可愛いなあ、雑誌見たけど優様そっくりだ」
「留学して今はいないけどね………………」俺はコップの酒を一気に飲み干した。
そのまま雑談が続き、寝てしまい朝になった。少し頭が痛い。
外に出て深呼吸した。
今日は休みなので、ガレージのロードスターを洗車しようと思う。
車を出して掃除を始めると、兄が起きてきた。
「二日酔いだよ…………」辛そうに頭を押さえている。
「俺もさ……………」
兄は車のところへやってきた。
「ホロが破れてるぞ、雨漏りするんじゃないのか?」
「そうだなあ………………」俺も破れたところを見た。
「そうだ!名案が浮かんだ!」兄はニヤリとしている。
俺は不思議そうに兄を見た。
「この車を買った新井ガレージの新井が、断れなくて引き取った車があるんだよ」
「えっ?」
「二人乗りのオープンカーなんだけど、自動で屋根が出てくるんだ」
「ふ〜ん」
「でも売るのは難しいと困ってるんだよ」
「それで」
「俺がその車をローンで買ってお前に渡すのはどうだ?」
「えっ、なんで?」
「だって500万借りたまんまじゃないか、でも現金を直ぐに返す事は無理だし…………車のローンならぼちぼち払えるし」
ニタニタ俺を見ている。
「別にあの500万は返さなくてもいいぜ」
「そうはいかないさ、俺の気持ちが許さない」
「意味が分からないなあ」
「新井は車を売れなくて困ってる、そして俺はローンで借金が返済できる、そしてお前は志音ちゃんを乗せられる車が手に入る。つまり皆んな丸く治るってわけだ!」何度も頷いている。
「やっぱり意味が分からない」
「優様の娘を乗せる車が、こんなボロボロで良いのかよ!」
「えっ…………」俺はその時志音ちゃんの笑顔が頭の中に浮かんだ。
「決まりだな、早速新井ガレージに話しとくよ」そう言って兄は帰って行った。
まさか実際に車が来るとは思っていなかった。
兄の親友でもある新井さんは嬉しそうに納車した。そしてロードスターを引き取って行った。
改めて車を見た。黒い二人乗りのメルセデスだった、恐ろしく高級だ。
俺には似合わない気がする。
しかし、どうする事もできない、仕方なく乗る事にした。
実際に乗ってみると、かなり快適だ。
ログハウスの駐車場へ停めて、先生に事情を話した。
「真人くん、良い車じゃないか」先生は久々の笑顔で見ている。
「志音が帰ってきたら、またドライブ出来るわね」美夜子さんも微笑んでくれた。
俺は志音ちゃんとまたドライブしたいと心から思った。