星降る夜のセレナーデ 第63話 大きな仕事
今日先生は東京へ出かけた。俺はDVDの音楽をスタジオで作る事にした。
昨夜見たDVDを思い出しながら、テンポの良い可愛い曲を作り始める。簡単なコードをピアノで打ち込み、フルートの音でメロディを載せてみた。
何となく可愛い感じはしたが、リズムがイマイチしっくり来ない。
「これからどうしたら良いんだ………………」俺は考え込む。
「リズムをシャッフルにしてみたら?」志音ちゃん、いや志音先生がモニターを覗き込んでいる。
「志音先生お帰りなさい、そうか、シャッフルか!」俺は顔を上げて頷く。
志音先生はドラムの前に座ると、キレの良いシャッフルのリズムを叩いてくれた。
「良いですねえ!何か可愛いしウキウキします」
「そう、じゃあ録音したら?」
「了解!」
俺はすぐにマイクを立てて、志音先生のドラムを録音する。志音先生は更にピアノもキラキラとした感じに弾いてくれた。俺の作った曲は俄然輝き出す。
俺は楽しくなって、シンセベースなどを打ち込む。
大まか曲は完成に近づいてきた。
「これなら良いんじゃない?」志音先生は腕を組んで頷く。
「そうですね、これを上手くミックスしたらいけると思います」俺は嬉しそうに志音先生を見た。
志音先生は頷きながらスタジオを出て行く。俺は録音した音にエコーなどのエフェクト処理をして1曲完成させた。
リビングへ出て来ると、先生が帰って来ていた。かなり難しい表情をしている。
「先生、何かあったんですか?」恐る恐る聞いてみる。
「実はねえ…………映画の音楽を依頼されたんだよ……………」
「そうですか、それは良かったですねえ」俺は少し喜んだ。
「ただ…………吉崎修平監督作品なんだよねえ…………」先生は唇を噛んでいる。
「え〜!!!あの海外でも賞を取ったあの有名な吉崎修平監督ですか?」俺は慌てた。
「うん…………」先生は更に難しい顔だ。
「凄いじゃないですか、先生の作った曲の魅力がもっと世間に広がりますよ」
「それは上手く行った場合の話だよ、もしこれで失敗したら仕事が減ってしまうかも知れない」先生は髪をかきあげ、ソファーへ座り込んだ。
俺は何を言って良いか分からず、黙ってしまった。
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