水の生まれる夜に 92 将輝と新の共通点
夜、別荘でやっと仕事が一段落した俺は綾乃に聞いた。
「ねえ綾乃ちゃん、前から聞きたかったんだけど将暉パパの地雷って他に何があるの?」
「うーん……まず小さい頃いじめられた話かなあ……だから頑張って勉強したみたいよ。
それから売れる商品を作るために動物行動学を勉強してヒトの習性とかを研究したらしいわ」
「へー……そうなんだ」
「いつもパパは、ただ売れるだけの商品を作ると、後が問題が起こりやすくて大変だと言ってた、売れる物と良い物の融合が重要だと言ってたわ」
「なるほどね……マサキグループがこんなに発展したのがわかる気がするなあ」
「そうなの?……そんなに重要な事なの?」
「ああ、世の中で最後に残るのは強いやつでも頭のいいやつでもない、バランスが良いやつなんだ」
「あっ、パパも似たような事を言ってたわ」
「売れる物と良いものを時代と言うロープの上でバランスを取りながら進むのがベストだと思うよ」
「えー!!もしかして……新さん小さい頃いじめられた?」
「ああ、だからコンピュータを頑張って覚えたんだ」
「もしかして……動物行動学も知ってるの?」
「ああ、ドーキンスフアンだよ」
「ええ!パパのコピーみたい」
「その辺りは将暉パパと話が合いそうだ」
「お願い、私のいない時に話してね」不安そうな顔になっている。
「でも綾乃ちゃんもよく知ってるじゃないか」
「そりゃあそうよ、小さい頃から散々パパに聞かされてるもの、いやでも覚えちゃうわよ」
「そうか……綾乃ちゃんが良き理解者で良かった」俺は笑ったが綾乃ちゃんは引きつった。
「初めてここで新さんに会った時、なんとなく他人のような気がしなかったのはそのせいかなあ」
「さあ。それはどうかなあ……そういえば二人で暮らし始めた頃、綾乃ちゃんはすごく積極的だったけど、もしかしてパパの会社の事を知らないうちに色々と確かめようとしたの?」
「うっ……それも多少あったかも……」そっぽを向いた。
「初めから知ってたら絶対に腰が引けて近寄らなかったと思うよ」
「良かった!知る前に愛しあえて、それに美由紀ちゃんより先に会えて」綾乃は舌を出して首をすくめた。
外でフクロウが「ホーっ」と鳴いた。