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水の生まれる夜に 52 恋の土鈴

綾乃さんは無水鍋のシーズニングをしながら物思いにふけっている。

「綾乃さん、もう料理をしてるの?」

「ううん、鍋を使えるように準備しているの」洗って油を塗ったり野菜クズを炒めたりしている。

「へえー……鍋を使うにも準備が要るんだね」

「うん……何となく思い出したんだけど、何かあった時にこれと同じ鍋でママが料理を作ってくれてたように思う、ママはきっとこの鍋のことを伝えたかったんだね」

「そうかも知れないね」

「この鍋でカレーを作っていい?」

「いいけど、カレーなの?」

「私は子供の頃カレーが好きでよくママにリクエストしてたの、ママはこの鍋で野菜がとっても美味しいカレーを作ってくれてたわ」

「そうなんだ、いいねえ、ぜひ食べてみたいなあ」

「ママみたいにはうまく作れないかも知れないけど」

「大丈夫だよ綾乃さんなら」僕は精一杯優しく微笑んだ。

「じゃあ待ってて、特製の里山カレーを作るから」

「はーい、待ってまーす」嬉しそうに僕はリビングへもどる。

外はすっかり暗くなり、いつもより遅い夕食が用意された。

「出来たよ〜……」綾乃さんはテーブルへ鍋ごと持って来る。

「はい、これで好きなだけ取って召し上がれ」皿にはご飯がよそおわれ自分で好きなだけカレーをかけて食べれるよになっている。横にはサラダも用意してある。

「おー……美味しそう、いただきまーす!」手を合わせて鍋からカレーをすくってお皿にそそいだ、野菜がごろごろと美味しそうだ、スプーンで口へ運ぶと目をぱちぱちとさせる。

「すごい、このカレー超絶に美味い!野菜美味しいねえ……」夢中で食べた。

綾乃さんはそれを見て嬉しそうに口角を上げると自分もカレーを食べ始める。

結局僕は2回もおかわりした。

「うーむ……」お腹をさすりながら水を飲んでいる。

「美味しかった?」

「超おいしかった!もう僕は完全に綾乃さんの奴隷になってるね」そう言って笑った。

「そうなの?奴隷なの?じゃあ何を言っても聞いてくれるのね」上目遣いになっている。

僕は『しまった!』と思った、また言葉を人質に取られて思うようにされると恐怖だ。

「ドレイ……土鈴……カラカラ、土で作った土鈴です、カラカラ……」何とか逃れようとしてみる。

「下手なごまかしかたね」綾乃さんは笑って奴隷を水に流してくれたようだ。

「ふう……」

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