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遺書

こんなものを書いたら死ぬ気がする
けれどいつ死ぬかわからないのだから
書いておくことにする

死にたい訳ではない
ただ何も残さず急に死んだら嫌だから
万が一に備えておく、「備えよ常に」の精神で


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僕は死を受け止められない
葬式があれば 目を覚まして起き上がるのを待ってしまう
坊さんの読経で 時間が巻き戻ったら

そんなことは ない
死とはそういうものだ

そうして僕も死んでゆく

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった



『セス・アイボリーの21日』を読んでからというもの、個のアイデンティティは死によって決まると考えるようになった

どう生きたかではない、どう死んだか
死のアイデンティティこそが個を定義する

だから僕にとってどう死んだかは大きな問題なのです

少しこの馬鹿話に付き合って
できることならそのように死を完成させてほしい


死んだならあまり葬式に金はかけるな
酒飲みの口実にちょこっと集まればそれでいい

人生の終わりを資本主義でくくりたくない
だから葬儀屋とか焼却場は本当は行きたくない
街中の焼却場は最悪だ
トーストを焼くように人を焼くから
できることなら村の寺でお経をあげてほしい
はっきりと時間で区切られた機械的で効率的な葬儀をするくらいなら、燃えるゴミの日に出せばいいだろ

しんみりはやめてくれ、だからといって羽目を外した馬鹿騒ぎはやめてくれ、一晩くらい僕の話をしてくれ、楽しく行けるから

できることなら山に骨を撒いてほしい
針葉樹は鬱蒼として淋しいから雑木林がいい
それが無理なら海に流してくれ
死んでなお海を渡るよ

だから墓はいらない
参るとこがほしければどっかに写真を置けばいい
かっこいいやつを頼むよ


最後まで要望が多くて申し訳ない


ひと通り落ち着いたら
僕のことは忘れてもらって構わない
僕はもう死んでるのだから

振り返った季節に立って
思い出せなくて嫌になって

生きている人の苦楽に口を出したくない
だから死んだ人のことで言い合いをしたり
死んだ人のために我慢したり
そんなことはやめてほしい
頼んだよ



いい人生だった
悲劇的な死だったら、なお幾分か嬉しい
中岡慎太郎のように死ねたろうか
飯田辰彦のように死ねたろうか

まったく、我ながら、しょうもなく、美しく、いい人生だった、さよなら。


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