コロナといた夏 #安倍首相辞任に思うこと

 東京オリンピックでの日本勢メダルラッシュの興奮も冷めやらぬ中、パラリンピックの序盤、酷暑のなか早くもいくつかのドラマが生まれつつあった...今年の春先までだれもがそんな光景を予想していた2020年8月最後の金曜日の夕方。

 かわりに現実のトップニュースになったのは、コスプレまでして自ら誘致したオリパラの1年延期を余儀なくされ、レガシー(政治的遺産)のひとつを失っただけでなく、ご自身の健康すらそこねてしまった安倍首相の辞任の報道でした。

 ちょうど1年前にはフランスのビアリッツで開催されたG7サミット、第45回先進国首脳会議に参加できたほど健康で、しかも首脳としての在任期間の長さから一定の存在感を示していた首相。とはいえ思ってもみなかった災難に見舞われた首脳は安倍首相だけではありません。

 このサミットの出席者のうち、初参加だった英国のジョンソン首相がのちに新型コロナに感染、一時は集中治療室に入るなど重症化しました。カナダのトルドー首相は夫人が感染、米国のトランプ大統領は感染こそしなかったものの、コロナに対する初期対応の拙さや、非科学的な言動をめぐって民主党からはもちろん、政権内部からも批判され、たいへん不利な大統領選挙戦を強いられている、といった次第です。

 ちなみにビアリッツ・サミットでは「不平等との戦い」「アフリカ」「気候、生物多様性、海洋」「開かれた自由で安全なデジタル」「香港に関する英中共同声明の重要性」などが主要なテーマでした。

 しかし1年後。

 全米各地でますます深刻化する”BLACK LIVES MATTER”に代表される人種差別問題。カリフォルニアにおける54度もの異常気象と雷が原因の深刻な山火事被害。IT(情報技術)をめぐる米中覇権争いの先鋭化。英中共同宣言の精神を踏みにじるような香港国家安全維持法の制定や拙速な適用。等々、世界の現実はサミットの高邁な精神とは別に動いている、と言わざるを得ません。

 安倍首相をはじめ、世界の首脳ですらまったく予期できなかった1年後。さらに言えば、ほんの少し先に自身にふりかかる災いさえも予想することもできなかった、という現実。そして時間をかけて議論をし、採択された首脳の共同宣言など翻弄するように展開する世界。

 VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の英語の頭文字)の時代、といわれて久しいですが、むしろVUCAの状態こそが常態、と認識すべき時代に首脳のみならず、われわれ全員が生きている、ということになります。

 オリンピックは4年に一度必ずやってくる。先進国の首脳が集まって議論し、世界の課題を解決する。自由と民主主義は守られる。

 こういった一見当たり前のことすら、とらわれてはならない固定概念と認識する必要があります。これはわれわれの実生活にも当てはまりそうです。

 1年後に会社や組織が同じように存在している。収入が安定している。自分も家族も現在同様元気である。

 そうであってほしいことばかりです。そうでないことを想定するだけで苦痛です。

 しかし、しばしば「そうあってはくれない」現実に対処するために個人が他人任せにせず、自分の頭で考える問題解決のフレームを常に用意しておくことが大事になる。それを自分自身に言い聞かせて、コロナのいる秋をむかえよう、そんな思いを致してます。