39 彼女もまた
一輝「…え、異世界?」
有希「そう。入学式の日からなの。朝起きたら違和感がしてね。パラレルワールドっていうのかな、基本的にはその前の日までと全く同じ世界なんだけど、お父さんが女の人になってたの。」
それってもしかして…。
有希「それでおかしいって気付いてよく世界を見てみたら、同性愛が普通の世の中だってことが分かったの。実は私が元いた世界では異性愛が普通で、男女で愛し合うのが多数派だったの。」
まさか俺たちのグループ以外にも…。
有希「私は元の世界でもレズビアンだったの。だからそれまでは少数派で、いろいろ嫌な経験もしてきた。いじめみたいなこともされた。」
気付いてる人が…!
有希「だから私は少数派の気持ちが分かるから絶対いじめたりしない。…バカみたいだよね、異世界とか。全然信じなくていいから。」
一輝「…俺もなんだ。」
有希「え?」
俺も有希さんと全く同じ説明をした。そして大輔さんのことや健太郎たちのことも話した。
最初は信じられなかったみたいだけど、何度か説明して理解してもらえた。
有希「…なんか信じられないね、こんなことが起こるなんて。まさか一輝くんも同じだったなんて夢にも思わなかったから、異世界から来たのとか言っちゃって、恥ずかしい。」
一輝「全然恥ずかしいことないよ。でも、これで分からなくなったな…。」
有希「何が?」
一輝「今までは、この世界に変わったのは俺が中学時代にゲイの同級生をいじめていた罰だと思ってたんだ。同じグループで一緒にいじめてたやつも今苦しんでるからさ。」
一輝「でも、有希さんみたいにいじめてもなければ多数派でもなかった人もこの世界に気付いてる。どういうことなんだろ…。」
有希「私は、中学まで辛い思いもした分の対価みたいなものなのかなと思ってた。私も私しか気付いてないと思ってたから。」
有希「…もしかしたら、今までやられた分仕返しとかしてもいいよってことなのかもしれないと思った。だけど、私はそんなことしようと思わない。」
一輝「なんで?悔しくないの?」
有希「だってそれって、異性愛と同性愛の普通が入れ替わっただけで、多数派が少数派を差別するって構図は何も変わってないもの。同じことはしたくない。」
一輝「そうか…。」
有希「私は別にいじめをして、いい気になりたいなんて願望は持ってないから。それならむしろ少数派で苦しんでる人を多数派の立場から助けてあげたい。それが私なりの仕返しかな。」
一輝「仕返し?」
有希「あの人たちは多数派という立場を少数派をいじめることにしか使えなかったけど、私は少数派に寄り添って支えることに使えてる。あの人たちが嫌ってる少数派を助けてるってことは間接的な仕返しでしょ?」
一輝「なるほど…。そういう考え方もあるんだな。」
有希「まあそれに、元の世界も悪いことばかりじゃなかったよ。私にとってはそれが当たり前だったし、こう生まれたからこそいろんな人に優しい人間になれたと思う。」
有希「一輝くんは、その歳からいきなり少数派になったから大変だったんだと思うし、いじめが辛いのも分かる。でもホントはそこまで地獄みたいな世界じゃないよ。世の中はちょっとずつ良くなって来てるし。」
有希「あなたの周りの人だって、本気で嫌ってる人ばっかりじゃないと思う。知識がないからなんとなく怖いみたいな人とか、自分もいじめられるのが怖くて一緒になって避けてる人もいると思う。」
一輝「そうか…そうだよな。」
有希「うん。だから負けないでね。私も一緒に戦うから。」
一輝「ありがとう!すごい元気出たよ!」
そう言って、有希さんと別れた。