疲れ切って「自分」を見失った看護師が、過去と現在を振り返り未来へ一歩踏み出す話①
「もう看護師なんてしたくない」「人手不足が解消される見込みもないし、フル回転で働いても残業しないと終わらない」
口を開けば「ない」「ない」が口グセのようにネガティブな言葉が溢れてくるようになってきた。
自律神経のバランスが崩れたのか、常に動悸がして、ココロもカラダも休まらないーーー
小学生の頃は海外に憧れて国際学校へ入学。
中学生の頃に看護師を目指し、大学で看護師の資格を取ったあと病院へ就職。5年と少し働いたあと、海外への想いが捨てきれず、カナダの山奥やアラスカに住んで、アメリカ中を旅して帰国。
看護師はキツイけど、やっぱり看護が好きだから、次は病院じゃなく施設で働いてみよう。
そう思い立って帰国後から施設で働いて3年近く。
ある施設で派遣ナースとして働いて、やりがいがあると思って正職員に切り替えたものの、退職者が後を立たず、新規入職者が来ても数ヶ月で退職するような状況。「職場も環境も見極めて入ったはずなのに、こんな退職者出るなんて。選択ミスったかな…」
辞めるか続けるか。進路を迷ってるうちに、書類整理や委員会の参加と仕事がどんどん舞い込んでくる。次第に主任業務を担うようになり、業務改善やシフト管理、面談、会議、書類整理と、マネジメントの「マ」の字も知らないほどの私に覆い被さるようにして仕事が増えていった。人手不足をカバーしながら夜間の救急対応、コロナのクラスターも3回発生。休憩を返上してフル回転で働いても残業続き。「なんとか今乗り越えなきゃ」と、ただただ働き続けた。
ある日、やっと休みだと思ったら早朝に同僚から欠勤の連絡が入り、急遽仕事に。
パートナーから「なんで仕事に行くの?今日休みって言ってなかった?働きすぎじゃない?」の言葉に、「仕方ない。もともと人が足りないから、誰かが働かなきゃ。」と、相手も自分もなんとか納得させるように繰り返して、宥めながら出勤。
「仕方ない。仕方ない。」と頭のなかで繰り返し唱えながら、黙々と処置していると、ふと利用者さんに無言で関わっていた自分に気づく。
「そうだ。認知症で、話ができなくても、身動きが取れなくても、ちゃんと声をかけてから処置をするべきなのに。なんでこんな小さな事も出来ないんだろう。このままだと、どんどんなりたくない看護師になっていってる。なんでこんなにダメなんだろう。」
張り詰めていた糸がプツンと切れたように涙が止まらなかった。普段、視線も合わず反応のない利用者さんが目を見つめて、私の手に触れてくれた。余計に涙が止まらなくなった。
パートナーの言葉は自分の本心と同じだった。でも「仕方ない」「働かなきゃ」自分の気持ちに蓋をして進むしかなかった。気持ちに蓋をする癖ができた自分も嫌になってきた。
その後なんとか処置を済ませて足早に詰所へ戻っても、しばらく涙が止まらなかった。精神的にも身体的にも限界で、心のバランスがとうとう保てなくなったみたいだった。
心配する同僚に、「気持ちを整理すれば働けるから15分ほど休憩をください」と外に出た。冷たい缶コーヒーを、泣いて腫れた目にあてながら、ふと思った。「もう私、一旦休まないとダメだ。このままじゃ、私が求めてた看護ができないし、働き詰めで毎日息ができない。気持ちに蓋をしすぎて溢れてきてしまったし、一回ちゃんと休んで自分に向き合ってあげたい。」
帰宅後、疲れ切って動けなくなった私を見て、彼が心配そうな顔で何度も「誰かを看護するくらい自分を大事にして」と声をかけてくれた。
「誰かを看護するくらいか…」一人一人個別性を大切にし、向き合うことが看護の仕事。ただ、それは対象者がいての話だった。対象者が自分になるなんて思ってもみなかった。毎日何に悩み、何を思い、何がしたいか、何が好きか。「忙しい」を理由に、今を乗り越えることしか考えず、気持ちに蓋をし続けたら、本来の自分は何がしたかったのかさえ思い出せなくなっていた。
このまま同じところで働き続けても状況は変わらない。むしろどんどん視野が狭くなって、予測可能なことに囲まれてきた。深掘りして考えたり、成長発達していく環境とは程遠い気がする。
まずは自分と向き合う時間や休む時間が欲しい、と上司に相談をした。年休は法定内最小限にしかなく、人手不足で有休も取れない状況。こうなればもう正職員としては居続けられない。勤務時間を減らしたい、正職員ではなく週3〜4日の勤務に切り替えたいと、これまでの経緯も併せて伝えたが、なぜか上司は「SNSが面白くて寝不足になった話」をして、取り合ってくれなかった。
さらに、「このままだと看護師の人手不足で監査に引っかかる。過去のシフトを改ざんしろ」と言われる始末。人手不足が当たり前、改ざんが当たり前の環境にも嫌気がさしてきた。
もういっそのこと、看護師さえも辞めてしまおうか。そういえば、看護師から企業に転職した友人が、「看護業界は全部がブラックだと思うくらい、転職してよかった。迷ってるなら絶対挑戦した方がいい」って言ってたな…。良い機会だから、やりたいことをやってみよう。やってみて違うなら、また看護に戻ってこればいい。とりあえず、この納得のいかない環境から抜け出して、挑戦して、ワクワクしながら仕事をしたい。
4ヶ月後に辞めることを決め、同僚にも経緯と退職の意向を伝え、上司にも再度時間を取ってもらい伝えると、納得したようだった。
よかった。
辞めた先の不安より、やっと休めるという安堵の方が大きかった。
さあ、この先どうするか。
辞めた先で、どこかや何かをしたいという想いよりも、まずはしっかり休みたい。料理をして美味しく食事を摂りたい。8時間睡眠を確保したい。まずは体調とメンタルを整えるのが1番かな。
そうそう。大好きな登山をより楽しむこと。
最近は登山していても、どこか現実逃避やストレス解消のための登山のような感じがしていた。純粋に、ただただ、自然を感じて、触れて、綺麗な景色を見て、心身ともに楽しみたい。
あとは、自分の時間をとりたい。
毎日自分の思いが心を通り過ぎていくようで。何が好きで、何がしたくて、何を感じているのか見過ごしていた気がする。そういえば、以前は書いていた日記も、忙しいからと書かなくなった。本当の自分に気づいてあげたい。
この3つが揃いはじめたら、次どんな所で働くか考えていこう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?