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4.どちらを選ぶ?~評価するということ

どちらがうまいかはっきりさせよう

「小川先輩! 今度の定演のアンケートですけれど、パート別に答えてもらえるようにしませんか?」
 1stバイオリンの柏木が声をかけてきた。
「パート別だって? そんなアンケート、見たことないぞ! 細かく尋ねるにしても曲ごとだろう、普通は」
「見たことがないですか? だったらなお良いではありませんか。前例踏襲というのはよくありません。ここで新風を吹き込むべきです。小川先輩だからこそできることですよ」
 チェロの斉藤がまじめな顔をして言う。この二人、小学校からの同級生と言うだけあって、いつもつるんで歩いている。性格も話し方も全然違うのに不思議なものだ、と思いながら小川は言う。
「何を言っているんだ斉藤。前例が何もかも悪いというわけじゃないだろう。そもそもなんだって、パート別なんてことをする必要があるんだ?」
 気配を察して慌てて柏木が
「いや、そんな深い意味はないんですけどね、なぁ斉藤」
「そう、深い意味はないのですけれど、込み入った事情はあります。なぁ柏木」
「コントみたいなことを言ってんじゃないよ。その意味とやらをできれば浅めに、簡単に聞かせてくれよ。今回の定演でのお客さんの反応は来年、つまり僕らが幹部さんの時の選曲の参考になるんだ。だから参考になるような良い方法があるんだったら試してみる価値はあるかもしれない。ただなぁ、単に項目を増やすと書く量が多くなってお客さんの負担になるから、そうしとことも考えとかないとなぁ」
 小川が言うと柏木と斉藤はお互い目を見合わせ、うなずき合う。
「あ、だったら、だけでいいです。なんなら1stバイオリンとチェロだけでも良いです。なぁ斉藤」
「そうですね。書く量を気になさるならコメントはなくて良いので5段階評価でもいいですよ。なぁ柏木」
「ちょ、ちょっとまて。なんだって? なんで1stバイオリンとチェロだけなんだ」
 小川が慌てて話を止める。
「なんでって、1stバイオリンとチェロのどちらが良かったかが分かれば良いからですよ。なぁ斉藤」
「そうなのです。本当は柏木と僕とどっちの演奏が良かったかを直接聞きたいところなんですけどね。なので、コメントしやすいようにぼくたち二人は大きな名札付けて出ようって話しているところです。なぁ柏木」
「おいおい、ちょっと待てよ。なんで1stバイオリンとチェロのどちらがうまいかを聞く必要があるんだ? オケとしてどういう演奏だったかを聞くんじゃないのか? それにそもそも名札付けて演奏するやつなんているか? 幼稚園の発表会じゃないんだぞ」
「いや、オケ全体じゃぁ困るんですよ。なぁ斉藤」
「そうです。それでは決着がつきません。なぁ柏木」
「だから、なんで決着を付ける必要があるんだ?」
 小川が尋ねると、急に二人は黙り込んでしまった。
「ん? どうした? さっきまでの勢いがないぞ? なんか怪しいなぁ。あ、なるほど、さっき言っていた【事情】というやつだな! なんなんだその事情というやつは!」
「どうしよう、話してみようか。なぁ斉藤」
「そうだね。もしかしたら小川先輩でもいい案をお持ちかもしれない。なぁ柏木」
「【でも】ってなんだ、【でも】って。おまえ、言葉遣いは丁寧だけどあっさりと失礼なこと言うね。まぁともかく事情を聞こうか」

はるちゃんが振り向くのはどっち?

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