EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【前編】|異なるものを足し合わせ、新しい価値を創造する
2024年2月よりEXestに、現・パナソニックホールディングス株式会社 技術部門 事業開発室 室長の西城洋志氏が、経営戦略・事業戦略顧問として加わりました。
シリコンバレーや日本でのキャリアを通じて培った豊富な知見を、次世代に「Give」したいと考える西城氏。EXest代表・中林との対談を、前後編にてお届けします。
前編となる本記事では、西城氏がEXestに参加した理由や、西城氏のご経歴から生まれた思想についてお話しいただきました。「Hardware Is Creating the World」という言葉で日本の産業界を勇気づけた西城氏が考える、EXestの「価値」について迫ります。
記事後編はこちら:EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【後編】|新規事業の失敗には「成長」という価値がある
EXestにアドバイザーとして参加した理由は、終活のため?!
――まずは、EXestに参加された理由からお伺いさせてください。
西城 一言でいえば、終活ですね(笑)。
最初はEXestに深く関わるつもりはなかったんです。EXestの事業自体はとても面白いと思っていましたが、あくまで中林さんの友人としてかかわっていきたいと思っていて。
ただ、中林さんのお話を聞くなかで、EXestが今抱えている課題を解決するために、自分が持っている知識が役立つこともあるのではないかと思ったんです。
もし自分がEXestにメンバーとして参入することで、結果的にEXest社の事業が世界に広がれば、それは間接的に、自分の知識が社会を役立てることにつながったともいえる。
自分のオープンソース化といいますか、そんなことをしてみたいなと思ったんです。単に空き時間にダラダラ酒飲んでるより、そっちのほうが有意義かなと(笑)。
EXestは、これからの社会の「消費行動」を変えるはず
――EXestの魅力や強みはどのようなところにあると思いますか。
西城 EXestの事業のなかで、特に注目しているのがWOW UとPocket Ownersです。二つとも、 「価値のあるコンテンツとユーザーとを結びつけて、新たな価値を作り上げる」という軸が共通しており、これからの社会の消費活動に、豊かな選択肢を与えていますよね。
この軸は、私自身が個人として実現させたい社会のビジョンとも一致しています。
――実現させたい社会のビジョンとは。
西城 生活リソースの民主化です。簡単にいえば「誰もが、考えて消費をする社会」ですね。
普段の生活でサービスやものを消費するとき、「なぜ買うのか/なぜ買わないのか」の理由を言える人って実は少ないと思うんです。多くの人は、納得感や責任感を持たないまま、たとえば「広告で見たから」といった弱い理由で商品やサービスを選んでいる。
しかし、自分の選択が、社会や周囲にどのような影響を与えるのかを考えながら消費することで、社会のありようは大きく変わるはずです。
Hardware Is Creating the World(ハードウェアは世界を創る)
――西城さんの専門領域についておうかがいしても構いませんか。
西城 ロボット分野の、ソフトウェアエンジニアリングです。ヤマハ発動機株式会社に入社して、ロボット事業のソフトウェア開発エンジニアとして従事したあと、直轄子会社であるYamaha Motor Ventures and Laboratory Silicon Valley, Inc.をシリコンバレーにて設立し、CEOを務めました。
中林 西城さんの”Hardware Is Creating the World(ハードウェアは世界を創る)”という提言は、西城さんの言葉の中でもとても印象に残っている言葉の一つです。
西城 これは”Software Is Eating the World(ソフトウェアが世界を飲み込む)”という言葉に対してのキャッチコピーのようなものですね。
”Software Is Eating the World”とは、ベンチャーキャピタル会社「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同創業者であるマーク・ローウェル・アンドリーセンが、2011年、ウォールストリートジャーナル(WSJ)に寄稿したコラムタイトルの一部です。
――FacebookやTwitter(現:X)が台頭し、世界に強いインパクトを与えていた時期に発表されたコラムですね。娯楽産業から農業、国防に至るまで、多くの主要ビジネスや産業がソフトウェア上で運営され、オンラインサービスとして提供されるようになっている、というような内容でした。
西城 このコラムが話題となって以降、世界では、ハードウェアよりもソフトウェアに注力をするべきだ、というような空気が強く打ち出されるようになりました。日本でも、ハードウェア産業はもう終わりだ、という意見すらあって。
ただ、自分がロボット産業にいた実感としては、この言葉には異議を唱えたかった。ソフトウェアが世界を「飲み込む」ときに最大の能力を発揮できるのは、優秀なハードウェアという土台があってこそ。
だから、”Software Is Eating the World(ソフトウェアが世界を飲み込む)”なら、”Hardware Is Creating the World(ハードウェアは世界を創る)”。二つはパートナー、そして共創関係にあるべきだ、と思っていました。
10年以上の時間が経った現在、ハードとソフトの協調という考えは、世界でも本流になってきています。ソフトウェアの高い能力を、ハードウェアによって物理空間に染み出させ、生活そのものになんらかの価値を生み出す。
当時の僕の直感は間違っていなかったと感じますし、この分野は僕の専門領域だと自負しています。
ソフトウェアとハードウェアは対立しない
中林 西城さんの手がけてこられた仕事はいつも、1+1が2以上になるんですよね。たんに足し合わせるのではなくて、そこから新たなものが生まれる。知り合って間もない頃、既存事業と新規事業の話をされていて、面白い! と唸ったのを覚えています。
西城 ある程度事業が流れ出した企業が新規事業を始めると必ず「既存事業と新規事業、どちらが大切なのか」という議論が生まれるんですよね。こういう議論は不毛だと僕は思っていて。
たとえて言うなら、青色と赤色、どちらがいい色か比べるようなものです。
赤には赤の特徴があるし、青には青の特徴がありますよね。どちらの色も、それぞれが輝くシチュエーションがあるわけです。
さらにいえば、赤と青を混ぜ合わせれば、全く別の色が生まれるかもしれない。
そういう可能性を前にして「赤より青のほうが優れている」「いや、青だ」みたいな議論をするのは無駄だろうと思うんです。
――異なるものを足し合わせることで、全く新しい何かが生まれるという考えは、新規事業/既存事業の枠にとどまらず、さまざまな領域で活用できそうですね。
西城 そうですね、自分自身、それが楽しいと思っているんです。よく「アートアンドサイエンス」なんていいますね。人間、サイエンスばかりだと「1+1は?」と聞かれたときに「2以外有り得ないだろう」と、他の選択肢を跳ね除けてしまう。
ところが、アートな視点から世界を見れば、1+1が10になることだってあるかもしれない。「なぜ、これが10に見えるの?」と問いかけ、その見え方を理解することが重要なのではないかと。。その見え方をサイエンスで実現させることは、新たな製品やサービスにつながるかもしません。
――異質なものが手を取り合うことで、世界がもっとワクワクする場所に変化していくのですね。イノベーションはそういった場所からしか生まれないと考えると、西城さんのなさっていることはまさに「世界の最前線」に立つ人ならではの視点だと感じます。
クライアントと同じ目線で悩むからこそ見えてくるニーズ
――ご経歴を拝見していると、2014年頃から、新事業開発やパートナーシップ、コーポレートベンチャリングのキャリアに転⾝なさったとあります。エンジニアというキャリアを考えると大きな転換のように見えますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
西城 確かに、直線的なつながりはありませんよね。
エンジニアとしてキャリアを積むなかで気づいたのが、お客さんって、本当にほしいものが何かを最初から分かっているわけではないんです。一緒に悩みながら考えることで、初めてモヤモヤの中身が分かってきたりする。
だから、「うちの製品にはこんな機能があるんですよ」と一方通行的に伝える営業やマーケティングと同じぐらい、お客さんとインタラクティブに、同じ目線で「何が必要なのだろう」と悩むことのできるエンジニアのポジションって重要なんだなと。
考えてみると新規事業って、これをもっと大々的な規模で実行するということですよね。お客さんと対話しながらアンメットニーズ(潜在的な需要)をつかまえて、プロジェクトにして、ソリューションを作るわけですから。
そのあたりから、新規事業開発に対する興味が湧いてきました。
そんな折、当時のヤマハで新規事業担当の常務だった方から「お前、今のヤマハから将来の予期するのと、全く新しいヤマハを作るのとなら、どっちのほうが興奮する?」と聞かれて。
一も二もなく、新しいヤマハを作りたい、と答えました。そこからシリコンバレーに赴任して、新規事業開発の道に進んだんです。
――大きな転換のように見えますが、そこには通底する思想があるのですね。
★後編では、西城さんと中林との出会いや、二人の考える「新規事業に必要な”失敗”の考え方」についておうかがいします。
記事後編はこちら:EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【後編】|新規事業の失敗には「成長」という価値がある
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?