ウルトラマンロザリス第四話「守るという事の意味」前編

 今からちょうど一万年前、光の国から遠く離れた地球という星は、再び怪獣や侵略者の脅威に曝されていた。地球人の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く、光の国から『彼』はやって来た。『ウルトラマンメビウス』と呼ばれる、若く頼もしいルーキーが。そして今、そのメビウスは、一人の若き勇者を鍛え上げていた。その名は…。

「ウルトラマンロザリス」。


「よし…ここをこうすれば…。よし。完成も近いな…。」

 ヒカリのラボの一室で、ヒカリは一人呟いた。少し前にメビウスに頼まれた『鞘』の開発。彼の弟子の体を支える為の鎧の制作をしていた。一度実際に会ったことで設計もしやすい。が、問題はそれを収納する為のアイテムだ。色々検討したが、やはり私やメビウスのように『コレ』に収納するか…。

「ヒカリ教授、お客様ですよ。」

 研究員の一人がヒカリを呼んだ。私に客…。誰だろう?

「わかった。すぐ行く。」

 ヒカリは手を止め、ラボの自室から出た。そこに来ていたのは、前回の騒動以来の再会となったカナックだった。以前の事を経たからだろうか。顔つきが違う。

「お久しぶりです、ヒカリ先生。その…改めて話したくて来ました。」

「あぁ…以前は私のせいですまなかった。君の未来を閉ざしてしまいかけてしまった。」

「いえ、そんな…今のヒカリ先生の気持ちも知らないで、俺の方こそすみませんでした。」

 カナックはそう言って頭を下げた。

「やめてくれ…むしろ私が謝らないといけないのに…。」

 ヒカリは慌てて頭を上げさせる。

「いえ…。けど、あの一件のお陰で学べました。貴方の戦う姿を見て、ウルトラマンとしてのあるべき姿がどんなものなのか。俺は…貴方のようになりたいです。何があっても乗り越えて行く強さ。それを貴方から学ばせていただきました。」

 ヒカリは不意の言葉に再び戸惑った。ヒカリはこの件にずっと責任を感じていた。なのに、それがまさか礼を言われるようになってしまうとは…。あまりに予想外で呆気に取られてしまった。

「そ…そうか…。」

 アーブの悲劇。それを肯定することはできない。それだけにヒカリは複雑だった。だが…。

「あ、やっべぇそろそろ授業だ!ヒカリ先生!ここで失礼します!」

 そう言ってコロセウムに向かっていくカナックの背中を、ヒカリは見送った。その背中に安心しているヒカリもいた。過去のツルギの罪は消えない。だが、『今度は』闇から救えた事。そこにおいては安心していた。


「クッ…全然動けねえっ…。」

 今日の授業後も、メビウス兄さんの特訓を受けるロザリス。だが今日に限っては少々感じが違っていた。ロザリスが着けている拘束具。関節の動きを制限する昔ながらのやり方を珍しく課せられていた。

「何で今日こんななんだ…?これめっちゃ重いし関節ギッチギチで動けないし…。いつものメビウス兄さんいつもここまでしないのに…。」

 いつもなら、もっと基礎体力の徹底的な積み上げや、実戦に備えた本格的な組手など、厳しくも優しさと実用性を感じるものを行っている。それだけに、今日のこれはなかなか珍しいメニューだ。

「どうした?どんな状況でも動けるようになってないと、いざって時に何もできなくなるぞ!」

 …そう言われると納得してしまうな…。相手によってはこちらを拘束するような相手もいるだろうし、これもそういう訓練なのか…。

「さあ!遠慮せずにかかってきてごらん!」

「あぁ…そういうことなら遠慮なく行かせてもらいますよ!」

 ロザリスはそう言って、メビウスに向かっていった。


 遡ること数日前。メビウスは再びヒカリのラボを訪れていた。以前ヒカリに頼んでおいた、弟子の強化アイテムの開発の進捗を聞くためだった。

「ヒカリ、アイテムの進捗はどう?」

「あぁ、メビウス。順調といえば順調だな…。」

 ヒカリは、どこか訝しげな表情をしていた。

「え…どうかしたのか?」

「いやな…鎧そのものはほぼ完成してるんだ。だがこの鎧、着脱できるタイプのものとして設計していてな。戦闘時に着ている時はいいのだが、非戦闘時の着ていない状態の鎧をどういう形で収納しようかと思っていてな…。」

 そういう事か…とメビウスは静かに頷く。アイテムの問題はデリケートだ。これまで何度もヒカリの開発は盗難被害に遭っている。ライザーのような携帯するようなものでは危険性が高い…。

「だったら、ゼロのようにブレスレットに収納するのはどうかな?それなら一度着けてしまえば盗まれたりしないだろうから。」

「それも考えたんだ…だが、これを見てくれ。」

 そう言ってヒカリは、部屋の壁に設計図を映し出した。

「このように、ブレスレットに収納する際には一度粒子状に分解する必要がある。だが、そうするにはブレスレットから実体化させるには相当のエネルギーを消費する必要があるんだ。今まではその膨大なエネルギーをウルトラマンに関するアイテム…例えばカプセルやメダルなどで補ってきたが、今は生憎そのウルトラマンの膨大なエネルギーのサンプルデータが取れてなくてな…。その為のエネルギーをどこから確保しどのように形質を変換させるか、そしてブレスレットのどの部分に鎧を収納するか…。その両立ができないんだ。」

 まさか、ヒカリでもうまくいかないものなのか…。だが、かといって愛弟子にこれ以上危険の高い戦いをさせるわけにはいかない。力を制御できない状況で、下手に戦いの場には出せない。だからって、彼が大人しく待っていられるとも思えない…。

「ヒカリ、今はとりあえず鎧を完成を先に急いでくれ。ロザリスには、しばらく鎧を着たままで過ごしてもらう。」

「そんな…いいのか?」

「いずれ鎧を着てもらう事は決まってたんだ。今はそれに慣れる為の訓練をさせる事にするよ。レオ兄さんに頼んでみる。」

「そうか…すまないな。だが、その代わり鎧の方はすぐに完成させるように急ぐから楽しみにしておいてくれ。」

 それを聞いたメビウスは、一瞬だけ安堵を見せた。


「はぁ…はぁぁっ…!」

 ロザリスの修行は、数日後も続いていた。相変わらず慣れないこの鎧…テクターギアは、そう簡単に着こなせるものではなさそうだ。あのゼロ兄さんがバケモノ級に強くなったのも納得だ…。

「ロザリス、少し休もうか。」

 メビウス兄さんがロザリスに促す。どうやら気遣ってくれてるようだ…だけど。

「いえ…まだやれます!こんなところで挫けてちゃ、何も守れないですから!」

 ロザリスはそう言って、勇ましく笑ってみせた。だが本心では…。

(キツイよ…休みたいけどさ…。ここで引いたら中途半端で気持ち悪い。僕は…いや、『俺』はこんな簡単に折れねえぞ!)

「わかった。だったら僕も遠慮なく行くよ!」

 そうしてメビウス兄さんとの特訓は続いた。そして…それを遠くから見ている者がいた。赤き獅子の瞳が、二人の一挙手一投足を見届けていた。



 惑星ヤフー。毒々しい色の霧が渦巻く不気味な星。そこに佇む独りの巨人。ガリバーは、その霧を体内に取り込む事で以前の傷を癒していた。後ろから卑怯な不意打ち。数人で寄ってたかり一人を襲うなど、やはりウルトラマンの正義感は歪んでいる…。その怨念が、彼の回復を早めていた。

「さて…次はどの命を救おうか…。これ以上、奴等の好きにさせるわけにはいかないよねぇ…。」

 ガリバーは怪しく笑みを浮かべ、静かに起き上がった。

「さて…今日も今日とて正義を遂行しようか…!」



「お母さま!見て見て!こんなに綺麗な花が咲いてましたわ!」

 緑豊かで平和な星で、少女が母の元へ駆け寄る。彼女は家の近くで摘んできた花を母に見せ、屈託の無い笑顔を向けた。

「ウフフッ、そうね。とっても綺麗ね。」

 母親もそれを見て、優しく微笑む。花を象った髪飾りを光らせながら、まるで何処にも曇りの無いような笑顔を、精一杯自分の愛娘に向けていた。

「お母さまのご病気も、これできっと良くなりますわ!早く治して、また一緒に…」

「ラルア。これから私が言う事をよく聞いてちょうだい。」

 娘ラルアの言葉を遮り、母フリージアは先程までの笑顔を曇らせ話しはじめた。

「どうしたの、お母さま…?」

「私の病気はね。本当はもう先が長くないの。だから、一緒に居られるのはあともう少しだけ。それを過ぎたら、もう一緒には居られないのよ。私だってできる事なら、もっと長く一緒に居たい。でも、これはもうどうにもできない事なの…。」

「そんな…お母さま、そんなの嘘よ!お医者様だって、『この病気はきっと治る』って言ってくださったのよ?!そんなの信じられないわ!」

「ごめんなさい…あれは嘘だったの。あなたに心配をかけちゃいけないって、お医者様が優しさで言った事だったのよ。本当は、あの頃からもう余命は長くないって言われていたの。」

「…嫌。私はお母さまとずっと一緒に居たい!お医者様でも治せないなら、私が他に治せる人を探してくる!」

 ラルアはそう言って家を飛び出した。信じたくない。大好きだった母の突然の死を、信じたいはずもなかった。私がお母さまを治して見せる。絶対に、お別れなんてしたくない…。

 娘の背中を見送るフリージアの目には大粒の涙が溜まっていた。


「あれが、ロザリスか…。あのメビウスも立派になったものだな…。」

 遠くから見つめる獅子の瞳。ウルトラマンレオは、紅いマントを翻しながら二人の修行を見つめていた。赤い岩石に囲まれる星・K76星。特別な修行に使われるこの惑星では、かつて若き日のウルトラマンゼロが修行を積んだ場所だ。そして今日も、レオの許可の元で同じ修行をロザリスに課せられていた。

 さらに数日経ったある日。ロザリスは相変わらず動きを制限された中での修行が続いていた。だが、段々と慣れてはきているようで…。

「行くよロザリス!セヤッ!」

 メビウス兄さんとの組手。助走を付けたパンチがロザリスに向かってくる。

「フッ…ハァァッ…。」

 このスピード…避けるには余りに速い。普段なら避けられるが、テクターギアを着けた今それはできそうもない。まともに受け止めるしか方法は無いが…。

「ハァ…ッ!上等だ…!掛かってこいよ!」

 その言葉と共に、テクターギア頭部のゴーグル部分にロザリスの目の形に明かりが灯った。

<ガァァンッ!!>

 金属的な衝突音が響き渡る。本当に避けずに受け切った音だ。だがいくらテクターギアをしていても、攻撃の威力を完全には遮断できない。諦めたのか…。

「ほぅ…それがお前の答えか。」

 レオ兄さんが小さく呟く。その眼差しの先には、メビウスの拳を食らっているロザリスの姿があった。だがその拳は、ロザリスの胸の装甲によって止められていた。両手を握りしめ胸を突き出し、その拳を全身で受け止めていたのだ。

「やるじゃないかロザリス!まさか本当に受け止めてくれるなんて!」

「テクターギアを着けてなきゃできないですよ…怖すぎて…。それに全然動けないですからね…こうするしか思いつかなくって…。」

 ロザリスはそう震えた声で答えた。相手が相手だ。ただでさえ勝ち目を感じられないメビウス兄さんが、ほぼ遠慮無しに攻撃してくる。さらには逃げることも許されない状況だったのだ。怖くないわけがない…。

「でも君は、その恐怖に勝てたんだ。僕の本気を受け止めてくれた。それにこの特訓そのものだって、とってもツライはずなのに逃げだす事なく続けてくれた。その逃げ出さない勇気、絶対に忘れないで!」

 メビウス兄さんはそう言って、ロザリスの頭を撫でながら優しく励ました。ロザリスはそれを聞いて、ようやく肩から力が抜けた。

「見ていたぞ、ロザリス。」

「あなたは…!レオ…兄さん!?」

 近づいてきたレオ兄さんにロザリスは驚き、思わず背筋が伸びた。メビウス兄さんから聞いた話によると、何でも一度全くの手加減なしでボコボコにされたとか…。その後メビウス兄さんはそれをきっかけにその時の敵に勝てたらしいが、ロザリスはその話を聞いて以来少しレオ兄さんの事が怖かったのだ。そのレオ兄さんが急に目の前に居る。多少なりとも怖いはずだろう…。

「ロザリス。先程のお前の覚悟は見せてもらった。真正面から立ち向かうその心意気、若いながらも感心した。」

「そ…そんな…僕なんてまだまだ弱いですよ…。メビウス兄さんやあなたのように、怪獣とまともに戦う力なんて無いですし…。」

 ロザリスは委縮しながら答えた。急に褒められた謙遜もあるが、それ以上にシンプルに怖い…。

「確かに、戦う力はまだまだかもしれないな。だが、お前は恐怖から逃げなかった。若き日の俺もできなかったことだ。俺も師匠から、『逃げるな!』と言われたものだ…。」

 そう言って、レオ兄さんはロザリスの肩に手を置いた。そこでロザリスは初めて緊張が解ける。

「お前の強さはなんだ?それはお前のその逃げない心だろう。戦いを前にして決して逃げない心、それはウルトラマンとしての資質として十分だ。それを忘れなければ、きっとお前も強くなれる!」

 そう言ってレオ兄さんは、ロザリスに激励の言葉を掛けた。その瞳には、話に聞いていた怖さは感じられなかった。そこから感じられたのは、恐怖ではなく頼もしさ。偉大な戦士の風格そのものだった。


「レオ兄さん!」

 空から聞こえた声。その声の主は、レオの双子の弟・アストラだった。そしてその隣にはヒカリの姿もあった。

「アストラ。ヒカリもいるという事は、ついに完成したのか?」

「はい、レオ兄さん!メビウスがヒカリに頼んでいたものが完成しました!」

 そういってアストラは、背中の大きなカプセルのようなものを降ろした。

「あの…アストラ兄さん、これって何ですか?」

「え?!あ、あぁ…。これはな、お前のだ。」

 アストラは慣れない呼ばれ方に動揺しつつ、降ろしたカプセルを開いた。その中から顔を覗かせたのは、ロザリスの全身を包むための鎧だった。収納の件はさておき、鎧としては完成したようだ。

「ついに完成したのか、ヒカリ!」

「あぁ。収納するアイテムの事を後回しにしてしまえば、鎧の完成そのものに時間はそう掛からなくてな。」

 メビウスの言葉に、ヒカリも鼻が高そうに答える。

「だが、まだ改良の余地も残っている。あくまでも光線を撃てる為の補助アイテムして作ったからな…。話に聞いていた体の弱さ、その部分の補助でやっとだった。できることなら私やメビウスのようにブレスに収納して、尚且つ戦闘力も補えるように作りたかったが…そっちはもう少し待ってほしい。」

 ヒカリの顔が曇る。

「いえ…めちゃめちゃ有難いですよ!体の弱ささえ何とか出来れば、僕だってもっと戦えます!」

 ロザリスはこのサプライズに大喜びだった。必殺光線の反動を制御できないような体の脆さ。それさえカバー出来れば…!

「…よし。それでは、テクターギアによる修行はこれをもって完了とする。アストラ!」

「はい!レオ兄さん!」

 二人は、ロザリスが着けているテクターギアに手をかざし、エネルギーを注ぎ込むように力を込める。そうすると、自力では外れなかったテクターギアのロックが解除された。

「よし…ハァァッ!」

 ロザリスはそれを合図に、勢い良くテクターギアを解き放ち、元の青い体を露にした。

「うわぁ…体が軽い…!」

 そういってロザリスは、久しぶりの身軽さを確かめるように跳ねてみせた。

「よし、今度はこれを着けてみるんだ。」

 そう言って、メビウス兄さんはカプセルに入った鎧をロザリスに差し出した。ずっとメビウス兄さんが渡したかった、ロザリスの体を守る為の『鞘』。それがついにロザリスの手に渡った。

「はい、メビウス兄さん!謹んで…着けさせていただきますっ!」

 そう言ってロザリスはカプセルに手を伸ばした。それに鎧が呼応するように、鎧は勢いよくカプセルを飛び出し、ロザリスの体を包んだ。ロザリスの体の元々銀色だった部分に重なり、まるで体の一部のように溶け込んでいく。元々青いラインが入っていた部分は関節の部分だったため、動きに支障は出ないようになっているようだ。ただ僅かに鎧の部分に膨らみがあるように見える為、シルエットの筋肉質さが増したような印象だ。さらに胸部と腰部分を、まるでサスペンダーのような赤い二本の線が結んだ。そう、まるでメビウス兄さんの体の模様のような線だ。さらに胸部のパーツには、元々ロザリスに備わっていた丸形のカラータイマーを、透明な菱形のカバーパーツが覆い、外から見れば『菱形のカラータイマー』に見えるようになっている。

「すげぇ…全身から力が溢れてくるような気がする…!」

 ロザリスはそう言って、体の感触を確かめるように拳を握り込み、パンチを繰り出すような動作をする。鎧と言っても、体重をカバーしつつも、まるでボディースーツのような薄さと着心地だ。動きやすいうえ、攻撃の力強さも倍増しているような手応えだ。

「さすがヒカリ先生…テクターギアが修行用の鎧だったとはいえ、あっちとは動きやすさが全然違う!」

 ロザリスはそう言ってはしゃいだ。

「あ、そうだ。せっかくだし名前を決めようよ。この鎧の名前。」

 メビウス兄さんが提案する。これからお世話になる鎧だ。そういうのも大事にしないと。

「そうですねぇ…。ここはやっぱり、メビウス兄さんに因んで『アーマードメビウス』とかどうでしょう!?」

 ロザリスがウッキウキで提案する。

「いや…そのまま過ぎないか?それにその名前の感じは何となくトラウマだから勘弁してくれ…。」

 ヒカリ先生が即却下した。確かにヒカリ先生は一度闇の装甲に取り込まれてるし、無理もないか…。

「えぇ…じゃあスキャバードウィング。」

「『スキャバードウィング』?」

 ロザリスの解答にメビウス兄さんが聞き返す。

「はい。こいつは僕の体を守ってくれる鞘であると共に、もっと遠くへ連れて行ってくれる翼のようにも感じられるんです。だから、『スキャバードウィング』!」

 ロザリスは胸を張って答えた。さっきは冗談半分だったようだが、今度のはどうやら本気のようだ。心からそう思っている目をしている。

「フッ。いいじゃないか、じゃあそれで決まりだな。」

 ヒカリ先生もそう言って微笑んだ。それに連なるように、その場の全員が優しく頷いてくれた。


「…ん?」

 レオ兄さんが何かに気づいたように空を見上げた。光の国からのウルトラサイン。ゾフィー兄さんからの出動要請だった。

「レオ兄さん、アストラ兄さん、ここは僕が行きます!新しい力を試すチャンスですから!」

 ロザリスはそう意気込んで言った。

「なら僕も同行するよ。折角の弟子の晴れ舞台、見せてもらうよ!」

 メビウス兄さんは笑顔でそう告げる。

「はい!お願いします!」

 ロザリスの腹の底からの返事を合図に、二人は飛び立った。それを三人は微笑ましく眺めていた。

「…あの時の顔。あの目、あの涙。あいつはそれを乗り越えて強くなった。ロザリス…お前も強くなれる。最後に信じるべき自分自身の強さと…あいつが見せてくれた、仲間との絆があればな…。」

 レオ兄さんは、ロザリスに聞こえないような小さな声でそう呟いた。



「メビウス兄さん、場所は?」

「あぁ。惑星エリシオンって所らしい。何でも、その美しさから別名『楽園星」って言われるらしいんだ。平和な惑星って聞いてたのに、まさかそこで怪獣が出るなんて…。」

 そう言って、メビウス兄さんは不思議そうな顔を見せる。まさか、また『アイツ』が…。あの野郎いい加減にしろよ…とロザリスは心の中で吠えた。

 エリシオンに到着した二人。聞いていた通りだ…。確かに、楽園と呼ばれるに相応しい美しさの星だ。だが、その惑星を死後の国という意味で楽園に変えようとしている、植物を全身に纏った怪獣がすぐそこに居た。その怪獣は人の多い街の方へ向かっているみたいだ…。

「メビウス兄さん、早く止めないと!」

「ああ、急いで防ぐぞ、ロザリス!」

 二人は怪獣の方へ跳び、怪獣の前に立つ。そして体を押さえ、後ろに押し返した。

「街の人に危害は加えさせねぇ…絶対に守り抜く!」

 その言葉と共に、ロザリスは怪獣を人の少ない谷底まで投げ飛ばした。さっきの花園のさらに奥の谷底。そこなら人も花園も傷つけることもない…ここなら遠慮なく倒せる。

 「メビウス兄さん、ここは俺が!」

 ロザリスはそう言って、一人で怪獣に立ち向かっていった。一人称が普段の『僕』から『俺』に変わっている。本気になった証だ。

 ロザリスは走り出した勢いをそのままに、怪獣の腹に蹴りを入れる。そしてそれに続けて同じ部位に連続でパンチを叩き込み、怪獣を後退させていく。

「この手応え…間違いない。動きやすさに全く支障は無いのに、スキャバードウィングの重みで肉弾戦のパワーも上がってる!」

 ロザリスはその調子の良さに勢い付き、体当たりで怪獣を怯ませ、更に蹴りを入れて怪獣の体勢を崩させ、膝を付かせた。

「よし…これで止めだ。」

 ロザリスはそう呟き、胸の前で両腕をクロスさせ、エネルギーを両腕に充填する。そしてその両腕を真横に開き、両腕のエネルギーを開放し、さらに溜まったエネルギーを集中させるように両腕を十字に組み直した。

「ロザリウム光線ッッッッッ!!!」

 その掛け声と共に発射された光線は、誰もロザリスの体を支えずともブレることなく真っ直ぐ怪獣の方へ飛んで行った。さすがはヒカリ先生が開発したスキャバードウィング…肉弾戦にも負荷も支障もないし、光線技も問題なく撃てる。テクターギアのお陰で体重が増えても大丈夫なように訓練したとはいえ、この絶妙なバランスを作り上げたヒカリ先生の技術には驚かされる…。

 これが当たれば、この星を守れる。この怪獣を倒せば、皆を守れる。初めて自分一人の力で怪獣を倒せる…。これで、俺も一人前のウルトラマンに…。


「やめて!殺さないで!」

 突然、後方から誰かの声が聞こえた。驚いたロザリスは、反射的にそちらに振り向いた。そこに居たのは、1.5メートル級のこの星の住人と思しき生命体だった。その手には先程の花園に咲いていた花が握られている。

「な…危ないから離れてて!」

 メビウス兄さんは慌てて、その生命体を掌で包み、安全な場所まで運んでいった。だがその直前に微かに聞こえた。

「その怪獣さんは私の…。」

 そこまで聞こえたが、メビウス兄さんが運び去ってしまい、それ以上は何も聞こえなかった。

「キャアアアア!!」

 怪獣の叫び声。目は逸らしたタイミングで光線は途切れたものの、それまで出ていた部分の光線が怪獣の左肩に当たっていた。怪獣のその左肩からは樹液が垂れ流れ、さらに痛みを覚えたように動きが減っている。

「痛がってる…のか?いや…でも…倒さないと、街の人達を守れない…。だから…ごめんなさい。」

 ロザリスは再び手をクロスさせ、エネルギーを溜めようとする。

「やはり、君はそうするんだなぁ…。」

 怪獣の背後から声が聞こえた。この声…ガリバーの声だ。ロザリスは組んだ手をほどき、ガリバーを睨む。

「ガリバー…まさか今度もお前が…!」

「そんな事はどうだっていい。それより君は、この怪獣をどうするつもりだい?」

「それは…。」

 ロザリスは口を籠らせた。『倒す』と言えれば簡単だ。だが、今それは言えない。まさかこいつ、僕の迷いを見透かして言っているのか…とロザリスは心の中で唇を噛んだ。

「多くの人々を守りたい、というのは勝手だ…。だがその為に、この怪獣を殺すのか?」

「いや…それは…。」

「だったら、この怪獣を見逃してあげればいいじゃないか。まぁその為に、街が全滅しない保証なんてないけどねぇ…。」

「…。」

「君は優しいよな…ウルトラマンロザリス。ウルトラマンは怪獣を殺す専門家なんだろうと思っていたが、君のように優しいのもいるんだなぁ。ま、この子を助けて、その為にもし大勢の人々が死ぬならそれはそれで滑稽だが…。」

「…黙れ。」

「ん?聞こえないなぁ…ハッキリ言ってごらん?『僕の優しさは大勢の命を奪うためにある』ってねぇ…。」

「…黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 ロザリスは怒りに任せ、再び両腕を組み直し、ガリバーに向けてロザリウム光線を発射した。

「それでいい…君は悪を滅ぼす、正義のヒーローだからね。それじゃ、私はここで失礼。」

 そう言ってガリバーは、再び姿を消した。そしてその光線は、ガリバーのすぐ後ろに居た植物の怪獣に命中した。怪獣の体は瞬く間に光線に熱せられ、今にも爆発しそうである。

「これが…これが俺の正義なんだよ…守る為に…守る為に…!俺が…僕がやんなきゃいけないんだ…。」

 そう呟いた時だった。後ろからまたあの声が聞こえた。

「お母さま!!!」

「…えっ…?」

 

 フリージアは変わり果てたその身に光線を受け爆発四散した。



おまけ・ロザリスナビゲーション「ロザナビ」

・ウルトラマンヒカリ…光の国の宇宙科学技術局の局長を務める、開発の天才だ!同時に戦士としても優秀で、メビウスと共に数々の戦いを勝ち抜いてきた、文武両道に秀でた戦士なんだ!

*年齢…3万2000歳

*身長50メートル、体重3万5000トン

*活動時間・不定(ただしスタミナは低め)

*近況…かつて自らが開発したナイトティンバー。それをいつか使いこなす為に、日々鍛錬を続けている…らしい。

 

 

 



 


 

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