【3人声劇】双子の姫はあなたと共に
■タイトル:双子の姫はあなたと共に
■キャラクター
アメリア・マーガレット:女
本名アンナ・アゼルバルド 王家の第1王女
少しワガママではあるが、芯の強い女性
魔法学を得意とし、身分を隠して学園に通っている
オリビア・デイビーズ :女
本名オリーブ・アゼルバルド 王家の第2王女
剣の腕を見込まれ、騎士を目指すちょっとだけ抜けたしっかり者
身分を隠して学園に通っている
ビクター・ウィリアムズ :男 ※性別変更あり
幼い頃からアルバトス家に仕える執事
アメリアとオリビアの教育係兼お目付け役兼お世話係として学園に通っている
剣も魔法も運動も勉強も得意
やや失礼な言動も許されているため、王女姉妹と距離が近い
――――――――――――――――――――――――
アメリア:ねえ、ここがわからないの
オリビアわかる?
オリビア:うん、軍事科目なら任せてよ
戦術学か…ほら、敵軍の陣形(じんけい)のここに注目するとわかるんじゃない?
アメリア:…あぁ!自陣の魔法部隊のメリットを活かせてなかった!
ここで右翼を散開(さんかい)させれば、穴ができるわね!
オリビア:さすがはアメリア
…お、ほらあそこ、ビクターだ
アメリア:ほんとだ!ビクター!
(アメリアとオリビアが前を歩いていたビクターに駆け寄る)
ビクター:やぁ、アメリア、オリビア
アメリア:あなたも授業終わり?
ビクター:あぁ、小テストが終わって解放的になってたところ
オリビア:何の授業を受けてたんだ?
ビクター:薬学だよ
今日は「目醒(めざ)めの嘆(なげ)き」を作る実習だった
アメリア:何、その不穏(ふおん)な名前の薬…
ビクター:どんな精神干渉系(せいしんかんしょうけい)の攻撃からも強制的に覚醒(かくせい)させる丸薬(がんやく)だよ
アメリア:え、ただのいい薬じゃない!
精神系魔法は難易度高い代わりに防御しづらいから、そんな便利な薬があれば使わない手はないわ!それ、ちょうだい?
オリビア:やめといた方がいいよアメリア
それっていわゆる“嘆(なげ)きシリーズ”ってやつだろ?
同じ薬師(くすし)が作ってる、効果が物凄く高い代わりに、まずすぎて誰も使わない薬
アメリア:うぇっ…!?そんなぶっ飛んだ効能なのに誰も使わないほどのまずさなのね…
逆にどんな味か気になるかも
ビクター:はは、気持ちはわかるなぁ…おすすめしないけど
まぁ、俺が持ってても使い道はないから、あげるよ
使う時はなるべく舌に当てないように飲み込んでね…ふざけて噛んだ奴がまずすぎて気絶してたから
オリビア:…それは恐ろしいな
そうだ、ちょうどアメリアと模擬戦(もぎせん)をしようって話していたんだけど…ビクターもどうだい?前に相談していたことにも関わるだろ?
アメリア:ちゃんと室内のフリースペースも予約してあるわ
ビクター:…わかった、いい機会だし、付き合うよ
――――――――――――――――――――――――
ビクター:(NA)
王立魔法魔術学園(おうりつまほうまじゅつがくえん)
全寮制(ぜんりょうせい)で基礎的な教養に加えて魔法、剣術、戦術、歴史、薬学など数多くの専門的な学問を学ぶことができる国内最高峰の教育機関である
(ビクターがオリビアに剣を振り下ろし、寸止めする)
ビクター:ふんっ!
オリビア:うわっ…!?
ビクター:…ふぅ、一本ですね
まだ続けますか?オリーブ様
オリビア:はぁ…はぁ…いや、参った、降参だ
勝てないまでも、もう少し食い下がれると思ったんだが…
ビクター:純粋な力や速さはオリーブ様の方が上ですよ
以前より、戦術も連撃の繋(つな)ぎも成長なさっておりましたし…騎士団でも十分通用するレベルだと思います
オリビア:よく言うよ…僕の攻撃全部かわして、そっちの攻撃は全部寸止めにしてるくせにさ
あれ…アンナは?
ビクター:魔力が切れたみたいで…あそこで倒れていますよ
アンナ様の膨大な魔力量とはいえ…あれだけ大魔法を連発されましたからね
アメリア:その大魔法を…あっさり防ぐ…あんたがおかしいのよ…
ビクター:効率的な魔力の使い方というものがございますから
今度お教えしますよ
アメリア:そう…?
はぁっ…それより…いつも言ってるけど、別に学園の中なら、敬語使わなくてもいいのよ?
ビクター:そうはいきません
私が国王様より仰せつかったのは、お二人のお目付け役…不必要に砕けた話し方をすれば、不敬にあたります
オリビア:仕事熱心なのもいいことだが、私たちは同級生なんだ
せっかく身分を隠してまで学園に入学したんだから、その…友達として自然に接する方がいいじゃないか
ビクター:(NA)
そう、この二人はアメリアとオリビアではない
本名アンナ・アゼルバルドとオリーブ・アゼルバルド
双子で生まれた、この国の第一王女と第二王女である
二人の強い希望もあり、見聞(けんぶん)を広めるという名目で身分を隠して学園に入学することになったのだが、全寮制の学園に王女を通わせるのはさすがに国王も怖かったようで…幼いころより王家に執事として仕えてきた私、ビクター・ウィリアムズはお二人のお目付け役として一緒に通うことになったのだ
アメリア:それなら…命令するわ、ビクター!
学園にいる間は私たちには敬語禁止!わかった?
ビクター:うぐ…!そう来ましたか…
アメリア:ふふん、逆らうならそれこそ不敬ではなくって?
ビクター:オリーブ様、止(と)めてください
オリビア:ふふ、諦めなよビクター
アンナは止められないし…私も、砕けた話し方の方がいい
ビクター:…わかりました…いや、わかったよ
ただし、この話し方のときは絶対アメリアとオリビアって呼ぶからね?
アメリア:まぁいいわ、そのくらいなら譲歩(じょうほ)してあげる
はぁ…おなか減っちゃった、お昼食べに行きましょ?
――――――――――――――――――――――――
(学園の食堂)
ビクター:あ~…今日も居づらいなぁ
アメリア:何?私たちとお昼食べたくないの?
ビクター:君ら、薔薇姫(ばらひめ)と白騎士(しろきし)なんて呼ばれてて、男女問わず大人気だろ?一緒にいるだけでめちゃくちゃ視線が痛くってさ
オリビア:君だって女子にすごく人気だって聞いてるよ?
ビクター:二人と仲良くなるために俺から近づこうとしてるだけだよ
オリビア:そんなことは…ないと、思うけどな…
アメリア:そんなのどうだっていいじゃない?気にしなきゃいいだけよ
そんなことより、この間話した“野外実習”の件だけど…どうかしら?
ビクター:あぁ…要項(ようこう)は読んだし、経験者に色々聞いてみたけど…実習の対象学年は2学年も上だし…魔物と対峙(たいじ)する可能性がある危険な実習みたいだ
必修ってわけじゃないし、今無理しなくて受けなくてもいいんじゃない?
オリビア:ビクターの言いたいことは理解できるさ
でも、せっかく参加できるイベントなのに、見送るのはもったいないじゃないか
…確かに私たちはビクターには負けるけど、実習についていけないような実力じゃあないと思うんだ
ビクター:確かに、同年代のなかでは頭一つも二つも抜きんでてるとは思うけど…
アメリア:…ねえ、ビクター
私たちに何かあれば、お父様に顔向けできないっていう、あなたの気持ちもわかるのよ?
でも私たち、あなたがそんなに心配するほど弱くないわ…そのことを一番わかってくれてるのはあなたじゃないの?
ビクター:…そうだね、わかった
でも、俺も一緒に行かせてもらうよ
君らの実力はもちろんわかってるつもりだけど、さすがに二人だけでは行かせられない
オリビア:本当!?ありがとうビクター!
それじゃあ申し込み出してくるね!
(その場から走り去るオリビア)
ビクター:…意外だったな
アメリア:何が?
ビクター:アメリアはこういうのめんどくさがるタイプだと思ってたのに
アメリア:めんどくさいわよ、でも可愛い妹の頼みだもの
それに、私もオリビアも自分の責任は理解しているつもりだけれど…私たちが普通の女の子として過ごせる時間は、今しかないんだから
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オリビア:(NA)
王立魔法魔術学園の野外実習…それは学園が管理するビオトープで行われ、3人チームで行うこと以外の内容は当日まで明かされない
管理されているとはいえ、ビオトープには魔物も生息しており、その危険度は実習の中でもかなり高いと言える
アメリア:(NA)
しかし、単位が足りない生徒や、成績の悪い生徒が高い評価を求めて参加するため、毎年怪我人が後を絶たない
だというのになぜそんな実習に私たちは参加したのかというと…
アメリア:…よかったわねオリビア
ビクターも来てくれることになって
オリビア:えっ…!?な、なんのこと?
アメリア: 実習の期間は3日間…こうでもしないと、あの朴念仁(ぼくねんじん)のビクターと夜通し一緒にいるなんて不可能だもの
オリビア:ビっ、ビクターは関係ないよ!
アメリア:あら…私がこのビオトープにある大きな木にお祈りすると願いが叶う…なんて噂を知らないと思う?
お願いしたいことがあったから、無理言ってこの実習に参加したんじゃなくって?
オリビア:うぅ…はぁ…まあ、そりゃあビクターとずっと一緒にいれたらいいなぁとは思ってるけど…
アメリア:あら?別にビクターと一緒にいたいってお願いするつもりだなんて一言も言ってないわよ?
私はてっきり、騎士団長になりたいとかそういうのを願うのかと思ってたのに
オリビア:うぁ!?いや!違う!違うよ!そう!剣の腕がね!ビクターに勝てるまで一緒に訓練できたらいいなぁっていうだけで!!
アメリア:白騎士様は嘘をつくのが下手なのね
オリビア:うぅ…はめたな、アメリア
アメリア:なんのことかしら?
ビクター:どうしたんだ二人とも、そんなに騒いで
(ビクターが来た瞬間、オリビアがいつも通りの落ち着いたテンションに戻る)
オリビア:いや、何でもないよ
ビクター:そう?ならいいけど
アメリア:…凄い切り替えね
遅かったじゃない、何かあったの?
ビクター:ちょっと…隣国がきな臭くってね…諜報部(ちょうほうぶ)と話してたんだ
オリビア:騎士団が動くような案件かい?
ビクター:いや、そこまでじゃない
二人のことが他国にバレたわけでもなさそうだし…こっちが警戒する必要はないだろうってさ
アメリア:そ?なら大丈夫ね
ビクター:まあ、一応警戒はしておくよ
ところで、実習で何をするのか、聞いてきてくれた?
オリビア:ビクターがいない間に先生から封筒を受け取ったよ
開けるね……えっと…今回の実習の目的は二つ
ビオトープのどこかに生えるバドの花を採集(さいしゅう)すること…そして、あの一番大きな木の幹(みき)につけられているネームプレートを回収すること、だって
ビクター:バドの花か…また厄介なお題が出たもんだな
アメリア:そんなに厄介なの?魔物とかじゃなくて、ただの花なんでしょ?
ビクター:ただの花だけど、生き物が近づくと霧(きり)を作り出して姿を隠すんだ
しかも、気根(きこん)を凄い速度で成長させて、安全な場所へ移動する特性も持っててね…
アメリア:なるほどね…確かにめんどくさそうね
オリビア:まあ、移動するって言っても、人が歩くよりも少し遅い程度だろ?
僕たちが協力すれば、きっとすぐに見つかるさ
ビクター:…だといいけど
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アメリア:…あら?結界に何か当たったみたい
後方左よ
ビクター:…この臭いは、ロッテンスライムだ
オリビアとは相性が悪い…今回は俺が行くよ、二人は警戒しつつここで待機だ
オリビア:わかった
(ビクターがその場から走り去る)
オリビア:アメリアが索敵(さくてき)と結界での防御…
僕が外敵(がいてき)の排除…ビクターが後方支援をしつつイレギュラー対応…
だいぶ連携も形になって来たな
アメリア:そうね、ビクターの支援魔法があれば、3日間結界張りっぱなしにできるかも
次物理耐性がある魔物が出たら、私が行かせてもらおうかしら
オリビア:思ってたより楽しそうだね…アメリア
アメリア:こんな場所来させてもらったことないもの
…最初は面倒だなって思ってたけど、やってみたら案外楽しいものね
オリビア:そうか…ならよかった
あっ…あそこ、あれは食べられるキノコなんだ
摘んでいこう
アメリア:…オリビアって、そういうの詳しいわよね
オリビア:騎士団を目指してるからね…
騎士団は長距離遠征になれば、野営してその場で食糧調達(しょくりょうちょうたつ)することも珍しくない
こういう知識は今のうちにつけた方がいいと思って勉強してるんだ
それに僕が言い出した実習だから、力になれるように頑張りたいしさ
アメリア:…そう、凄いわね
オリビア:へへ、ありがとう、アメリア
ビクター:…戻ったよ
アメリア:あら、お帰りビクター
ビクター:魔物だけじゃなくて、こっちを襲おうとしてるチームがいたから灸をすえてきたよ
大方(おおかた)、夜に君らに乱暴するつもりだったんだろう
オリビア:ビクターの灸(きゅう)か…想像したくないな
アメリア:国家反逆罪(こっかはんぎゃくざい)でギロチンにかけられるよりはマシでしょ?
ビクター:まさか、向こうも同級生にいたずらして国家反逆罪になるとは思ってないだろうけどね…そろそろ暗くなってきたから拠点を作って野営しようか
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(夜、アメリアとビクターは見張りを行う)
アメリア:…ふわぁぁぁぁ
オリビア:…アメリア、そろそろ交代しようか?
アメリア:…そう?あんまり時間経ってない気もするけど…
慣れないことすると、眠くなっちゃうわね…じゃあ、おやすみ…
(アメリアが眠そうに寝床へ移動する)
ビクター:オリビアも明日に支障が出そうなら俺に任せても大丈夫だよ?
オリビア:3人で回せるんだから、ビクターにだって眠る権利があるんだよ?
…まぁ、言っても寝ないんだろうけど
ビクター:ははは…俺も眠くなったら寝るよ
オリビア:…アメリアと何話してたんだい?
ビクター:…色々だよ
学校のこと、家のこと、オリビアのことも…
オリビア:僕の…?
ビクター:自分に無い物をたくさん持ってる自慢の妹だってさ…
直接言ってあげればいいのに
オリビア:…本当かな?
ビクター:…何が?
オリビア:…学校に行きたいって言い出したのは僕だ
それに…この実習だって…
将来のことも…僕は剣が得意だったし、好きだったから騎士団を目指してる…
でも…アンナは第一王女だから、自分が王位を継がなきゃいけないんだって思ってる
いつも自分のやりたいことをやっているように見えて、実際は僕のやりたいことを優先してばかりだ…そのしわ寄せを全部アンナが肩代わりしてくれてるんじゃないかな…って…
ビクター:…君のお姉さんはそんなに器が小さい人ではありませんよ
…オリーブ様が騎士団を目指す自分を誇りに思うように、アンナ様もこの国を統べる王となるべき自分に誇りを持っていらっしゃる
私はそんなお二人に仕える執事であるからこそ、自らの職務に誇りを持っています
オリビア:ビクター…
ビクター:…おしゃべりが過ぎましたかね
あ…敬語使ってました…申し訳ございません
オリビア:いいよ、僕もつい本名でしゃべってた
…ねえ、ビクター…君は何かやりたいことないの?
ビクター:…私は、国王様に…そしてアンナ様とオリーブ様に忠誠を誓っています…
私が生涯お仕えするお方は…きっと、お二人だけであり、お二人にお仕えすることこそ、私の望みです
オリビア:…そうか…よろしく頼むよ
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ビクター:(NA)
バドの花…温暖な気候の地域に咲く魔力を持つ花
外敵が現れると周囲の空気を急速に冷やし、霧(きり)発生させる
オリビア:(NA)
僕たちは早朝、霧の発生しているエリアに足を踏み込んだ
アメリア:霧がずいぶん濃いわね…少し先も見えないわ
ビクター:バドの花ってこんなに濃い霧を出すんだったっけ…?
あまり離れるとはぐれるかもしれない…なるべく近くに寄るんだ
温度も下がってるから、体を冷やさないように気を付けてね
オリビア:わ、わかった…アメリアの索敵(さくてき)は何かかかってるか?
アメリア:駄目…私の探知魔法(たんちまほう)は周囲の魔力を感知して場所を探ってるんだけど…この霧自体が魔力で作られてるせいでうまく探知ができないのよ…
結界魔法もうまく張れてないし…何が起きてるのかしら…
ビクター:待ってくれ…バドの花が出す霧そのものは魔力を含まないぞ…
オリビア:え?それってどういう…おわぁ!?
ビクター:オリビア!?どうしたんだ!オリビア!!
アメリア!オリビアを見てたか!?…アメリア?
…2人が…消えた…!?
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(アメリアは何者かに吹き飛ばされ、地面に倒れる)
アメリア:いたた…魔力波(まりょくは)で吹き飛ばされたのね……
攻撃ができたなら私たちに致命傷を与えるチャンスだったはず…なのにどうしてしなかったのかしら…?
落ち着くのよアンナ…魔力を含む濃い霧…攻撃能力の低さ…そこから導き出される答えは…?
うん、敵の正体はだいたい見当がつくわ…
これから私の目の前にオリビアが現れれば…確定ね…!
(身構えるアメリアの前から、霧をかき分けて人影が現れる)
ビクター:大丈夫か!アメリア!
アメリア:ビクター…!?
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ビクター:やれやれ…いたずら妖精レニバン…このビオトープに生息していないはずだが…まあいい
ビクター:(NA)
霧に紛れて獲物の前に現れ、獲物の記憶を読み取り大切な人間に化ける魔物…
微弱な魔法で獲物の判断能力を鈍らせ、ほんの少しでも心を開かせたとき、レニバンはその心を支配することができるのだ
ビクター:レニバンは大嫌いだ…人の記憶の上っ面だけを勝手に掬(すく)って利用する
それに…精神干渉系の魔法は厄介だ
さっさと行かせてもうぞ…二人が心配なんでね
――――――――――――――――――――――
オリビア:…いたた…何が起きたんだ…?
それに…なんだか変な感じだ…頭がクラクラする
ビクター:…大丈夫かい?オリビア?
オリビア:あぁ、ビクター…大丈夫だよ…心配かけてごめんね?
ビクター:大丈夫だよ…オリビアのことは小さい頃から知ってるんだ
こんなの心配のうちに入らないさ
オリビア:(NA)
そうだ…ビクターが家にやって来たのは、確か僕が10歳のときだった
(ここからは子供時代の演技をする)
アメリア:あなたがあたし達の…えっと、しつじ…ってやつね?
あたしアンナ
オリビア:あたしはオリーブ…よろしくね
ビクター:……
オリビア:…きみ、なまえはなんていうの?
ビクター:…ビクター
ビクター・ウィリアムズ
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(アメリアは目の前に現れたビクターに動揺する)
アメリア:…てっきり、オリビアが出てくると思ったのに…あなたが出てくるのね、ビクター…
ビクター:何のことだ?早くオリビアと合流しよう
…霧に紛れて何かに襲われたら大変だ
アメリア:あなたがその“何”か…なんじゃなくて…?
…何か…何かって何かしら…?
ビクター:アメリア、相手は魔法を使う魔物だ
オリビアとの相性が悪かったら手遅れになる…!
アメリア:…そうね…オリビアが…心配だわ…私が守らなくちゃ…待って、このビクターは…あなたは、本物なの?
本物…?どうしてそんなことを疑っているの…だって…
ビクター:君はオリビアを守りたいんだね…大丈夫、君ならオリビアは必ず守れる
だからアメリア…君は俺が守るよ
アメリア:私を…守る…?
ビクター:君の前に俺が現れた…君が俺を求めたからだ
それは君が俺を愛しいと思ったからだ…俺は君を守りたい
アメリア:そうね…そうよ…私はあなたを…愛しているわ…ビクター…
ビクター:(NA)
レニバンはただ記憶を読み取り、大切な人間に化けるだけの魔物ではない
高い知能で相手を騙す
アンナは突如現れたビクターに動揺すると同時に…安心してしまった
その安心こそ、レニバンがアメリアの強固な抵抗魔法で守れた心に付け込む隙…
ビクター:俺もだ…愛しているよ…アンナ…
アメリア:愛してる…?
…ありがとう…よくわかったわ
あなたが偽物ってことが…!!っはぁ!!
(アメリアが魔法でビクターを吹き飛ばす)
ビクター:ぐあああああ…!!?
なぜ…なぜだぁぁぁぁあぁあ!!
アメリア:あなたの言葉で目が覚めたわ…所詮は記憶の上澄みを舐めてるだけの低俗なケダモノね
ビクターは私を…私たちを愛してくれてる…でも、愛してるだなんて決して言わない
それが彼の、私たちに仕えるものとしての矜持(きょうじ)だもの
ビクター:ぐおおおおああああ…
(レニバンが消滅していく)
アメリア:…あなたの言う通り、ビクターのことは愛してる…でもね、それは愛であっても恋ではないの…魔物如きじゃ理解できないのでしょうけどね
―――――――――――――――――――――
(ここから子供の演技)
ビクター:…君はお姫様なのに、剣が得意なんだね
オリビア: アンナみたいにキラキラした魔法をだしたいけど…苦手なの
変かな……女の子っぽくないし
ビクター:女の子だと剣を振っちゃいけないの?
僕かっこいいと思ったよ!オリビアの剣!
(子供の演技はここで終わり)
オリビア:(NA)
その言葉が僕の支えだった
いつの間にか君の真似をして、自分のことを“僕”と呼んでいた
僕は君が…
オリビア:大好きだったんだ…ずっと…ずっと…!!
僕は国民のために剣を振るいたい…それはもちろんだ…
だけど僕は君を愛していた…僕は君に守られる姫であり、君を守る騎士でありたかった!
叶わない恋だとしても僕は…!!
ビクター:…リーブ様…オリーブ様…
オリビア:…え?
ビクター:オリーブ様…目覚めの時間です…
オリビア:…目覚めって…んぐっ…!!?
(口に何かを突っ込まれるオリビア)
オリビア:…んんっ!?
うげええええ!まっっっず!!ごほっごほっごほっ!!
アメリア:…あら、ほんとによく効くのね、これ
オリビア:アメリア!?何…食べさせたの…!?
アメリア:目醒(めざ)めの嘆(なげ)きよ
ビクターから貰ったのを一応持ってきてたの
オリビア:破壊的なまずさだ…水…水持ってない…!?
アメリア:無いわ、魔物に襲われてどこかへ水筒落としたの
オリビア:そんなぁ…
アメリア:助けてあげただけ感謝しなさい…
はぁ…心配したわよオリーブ…
オリビア:…アンナ…ごめん、ありがとう…
図鑑で読んだことがあるよ…いたずら妖精に襲われたのか…
アメリア:えぇ、どうせビクターが出てきてコロッと心を支配されたんでしょ?
オリビア:うぅ…返す言葉もない…
アメリア:…似た者姉妹ってことなのかも
オリビア:なんか言った?
アメリア:何でもないわ、さぁ行きましょ!
ビクター:アンナ様!オリーブ様!
(ビクターが遠くから駆け寄って来る)
オリビア:あ、ビクターだ!
でも、本物か…?
アメリア:…下がって、オリビア
確かめないと
ビクター:何してるんです!!早く撃って!!
本物かどうか確かめないと!
オリビア:ぷっ、ふふふ…!
アメリア:…ふっ、あはは!そうよね、ビクターならそう言うわよね!
ビクター:あれ、どうしたんです…?二人とも?
アメリア:確かめる必要も無いわ、あなたは本物よ
ビクター
ビクター:…はぁ、それでもしっかり確かめてください…あぁ…えっと、確かめてくれ
チャンと癖をつけておけば、今後騙される回数が減るからね
ちなみに、魔力を目に集中させれば、レニバンの魔力の揺らぎを見つけられる
見た瞬間に本物かどうかを見分けられるから、注意してみるといいよ
オリビア:そうだったんだ…覚えておくよ
なんだか、二人に凄い迷惑かけてるみたいで申し訳ないなぁ…
…ん、なんか踏んでる
あれ?これって…!
ビクター:それって…!?バドの花…!?
アメリア:やったじゃない!これで目的の一つがクリアよ!!
…ねえ二人とも見て、霧が晴れてく
ビクター:レニバンも消えてバドの花も摘んだから、霧の発生源が無くなったんだ
これで少しは安心かな
オリビア:ねえ、あの木って目的の大木(たいぼく)だよね
霧の中を歩いてる間にこんなに近くに来てたのか…
アメリア:さっすが私たち!こんな実習さっさとクリアしちゃいましょう!!
―――――――――――――――――――――
ビクター:…ってさっき言ってませんでした?
アメリア:もう少し休ませて…私、木登りなんてしたこと無いの…
オリビア:枝から落ちないでね、アメリア
アメリア:…あぁもう!なんであんたらそんなに元気なのよ!
オリビア:だって…鍛えてるから
アメリア:私だって鍛えてるわよ!魔力量の増大とか、コントロールとか!
普通の魔法使いは肉体強化魔法があるんだから体なんて鍛えないの!
ビクター:…しょうがないだろ?
この木に刻まれた魔法陣が俺らの魔力を封じてるんだから
アメリア:はぁ…運営は魔法使いに恨みでもあるのかしら…
オリビア:…確かに、魔法使いでチーム組んでたら大変そうだね
…ねぇ、アメリア、おぶってあげようか?
アメリア:いいわよ…子供じゃあるまいし…
オリビア:…さっき助けてくれたお礼…させてよ
アメリア:…しょうがないわね
オリビア:ふふ、おぶるよ?…よいしょっと、じゃあ行こうか!
アメリア:ありがと、オリビア
…そうだ、ビクターが戦ったレニバンは、何に化けたの?
ビクター:……いや?
化ける前に倒しました
オリビア:おい、なんだよ今の間は!?
ビクター!誰が出たの!?
ビクター:いや、もうほんと、全然誰も出てません
アメリア:なんで敬語なのよ、余計怪しいわよ!
ビクター:…もうすぐ頂上ですから、もうひと踏ん張り頑張りましょう!!
アメリア:あ、逃げた!追いなさいオリビア!
オリビア:待て!ビクター!
―――――――――――――――――――――
アメリア:(NA)
私たちはいつかこの国を背負って立つ…
その責任や重圧は常に私を締め付ける
オリビア:(NA)
…今僕が剣を振るう理由はこの国に住まう人々と…愛すべき大切な人達のため…でも今だけは
アメリア:(NA)
ただ、一人の姉と
オリビア:(NA)
妹として…
(通信魔法ではなしをするビクター)
ビクター:…もしもし、えぇ…はい、その通りです
レニバンは隣国が送り込んだ刺客の傀儡(かいらい)でした…捕まえていますので、後ほど諜報部とお話しさせていただければと…
…いえ、お嬢様方は自らの力でレニバンを退けました
とても成長なさっておいでです…学校へ行かせるご判断はお間違いなかったですよ、国王様
…お二人ですか?…今は眠っておいでですから…また、後ほどお声がけくださいませ
それでは…
(アメリアとオリビアは二人で寄り添いながら眠っている)
アメリア:オリーブ…
オリビア:姉さん…
ビクター:今だけは、もう少しだけお楽しみくださいませ…我が姫君…