【4人声劇】SPECIES~スピーシーズ~
■タイトル:SPECIES~スピーシーズ~
■あらすじ
今から少し未来…電脳世界に自らの意識を転送し、動物の特性を有した人型アバターで戦う最新のVRスポーツ「SPECIES」が世界中で大流行していた
ある日、SPECESサーバーにリンクしたまま意識が戻らないユーザーが続出する事件が勃発
国内上位ランカーである天王寺スバルは、運営メンバーと共に事件の原因を探るべくデータベースを目指すのだった
■キャラ:
天王寺 スバル(てんのうじ すばる)女性 ※性別変更可
SPECIES国内上位ランカーであり、生物について深い知識を持つ若き天才
熱い心と冷静な頭脳で戦う理論派プレイヤー
大智 ヒカリ(だいち ひかり)男性 ※性別変更可
SPECIES国内上位ランカーであり、スバルのライバル
生物についての知識はスバルほどではないが、プレイングスキルでトップランカーになった
D.J. MM(ディージェイ エムエム) 男性 ※性別変更可
SPECIESの立ち上げメンバーの一人で、生物学界の重鎮
派手な見た目とトーク力から、公式大会の実況も行う
知識とタレント性を兼ね備えた人気者
仁 ミサキ(じん みさき)女性 ※性別変更可
SPECIES立ち上げメンバーの一人で、電子工学の重鎮
クールな雰囲気がMMとは対照的
端正な顔立ちから人気も高い
――――――――――――――――――――――――――
(響く歓声の中、実況席からMMの声が響く)
MM:この世に息づく全ての生物(せいぶつ)よ…最強とは…なんだ…!
多種多様(たしゅたよう)な生物(せいぶつ)の力を宿した人型アバターを駆使して
頂点を目指せ!
可愛いわんちゃんから、凶暴なライオンまで!
数万種を超える生物データを実装!
トラ vs サメ!
オオカミ vs ハイエナ!
カブトムシ vs ヘビ!
種族を超えた未知のドリームマッチを実現するVRゲノムアクション…!!
それこそがぁ…「SPECIES(スピーシーズ)」!!
長かった都大会もいよいよ最後の試合だ~~~!!!
(観客が見守るスタジアムの中心に巨大な機械が置かれている
両サイドにはスバルとヒカリが立っている)
スバル:ははは、MMさんは今日も絶好調だね
ヒカリ:なんてったって、都大会の決勝だからな…俺だって気合入りまくりだぜ!
スバル:そうだね…ヒカリと全生物のデータで戦うのは随分久しぶりだし、私もやる気バッチバチだよ!
MM:どの生き物を選択するかでアバターの戦闘スタイルは変化!
捕食者?非捕食者?そんな関係捨てちまえ!
牙か!爪か!針か!羽か!二人が欲する能力はなんなのか!
仁:前回の昆虫カップでは、ぎりぎりの戦いを制してスバル君に軍配が上がりました…
リベンジに燃えるヒカリ君にとって、ゲノムセットはミスれないでしょうね
MM:イエス!今回は全ての生物データを使用できるオールゲノムカップ!!
選択肢が多い分、戦闘の幅はインフィニティ!
さぁ…若い二人は何を選択するのか!
この後の展開が気になりすぎるこの試合、実況はワタクシ、D.J. MMと!
仁:仁 みさきでお送りします
さぁ、2人の選択が終わったようですよ
(ヒカリとスバルは目の前の画面に映し出される動物を選択する)
ヒカリ:…よしっ…ゲノムセット!!
スバル:君と行こう…!ゲノムセット!!
ヒカリ:へへ…覚悟しなよスバル…!エボリューション!!
スバル:そっちこそ!エボリューション!!
(スバルとヒカリは椅子に座り、専用ゴーグルをかけると意識を失った)
仁:2人の意識は、SPECIESサーバーとリンクし電脳ステージに人型アバターとして転送されます
ローディングまで少々お待ちください
MM:待ちきれないぜ仁さん!!…おっと!来たみたいだ!
(電脳世界に2人の人型アバターが出力される)
スバル:へぇ…そう来たか、ヒカリ!その鱗(うろこ)と牙(きば)…
そのゲノムはブラックマンバだね!
仁:(NA)
ブラックマンバ…
黒く光る鱗(うろこ)に覆われた皮膚、筋肉質な肉体、そして一目で危険とわかる鋭い牙
アフリカ南部から東部に生息する毒蛇であり、最大4.5mになる巨体を持ちながら世界最速のヘビの一種にも挙げられるほどの高い運動能力を持つ戦士である
ヒカリ:そう言うお前が選んだのは…ラーテルか!
MM:(NA)
ラーテル…
世界一の怖いもの知らずと呼ばれるほどの攻撃性を持つ小さな猛獣
強靭なあごと鉤爪(かぎづめ)という武器でどんな動物にも戦いを挑む獰猛(どうもう)なハンターである
ヒカリ:そんじゃあ…行くぜ!!
(ヒカリが地面を踏み込むと、滑るように動き始める)
MM:おぉっと!ヒカリが高速で動き出した!
スバル:ヘビの持つ、地面を滑るような独特な動き…目で追うのがやっとだ…!!
なら…!!ふっ…!
(スバルが体を小さくするように防御形態に入る)
ヒカリ:ガードを固めた…?それは悪手じゃないか!!スバル!!
仁:ラーテルの運動神経は高いですが、素早い部類の動物ではありません…ガードを固めて反撃の瞬間を探る戦法に出たようですね
しかし、ブラックマンバは得物を仕留めるまで何度でも攻撃を続ける獰猛さを持っています
得意な型に入ってしまったら、ヒカリ君が有利でしょうか
MM:仁さん…ラーテルに関する理解がうすいんじゃない?
ラーテルの強みは武器だけじゃあない…スバルはそれに気づいている
ヒカリ:(NA)
ブラックマンバはスピードタイプのコンボキャラ…!
ガードしようが反撃の瞬間なんて与えない!
攻撃すればするほど、毒ダメージも蓄積される…!一方的に決めてやる!
ヒカリ:うりゃあああああああ!!
(ヒカリが体についた牙状の刃でスバルに斬りかかる
刃からは毒液がにじみ出ている)
MM:流れるような連撃だぁ!スバルはどう出る!!
スバル:(NA)
体長が70㎝程度しかないラーテルが、自分よりはるかに巨大な動物に挑むことができる秘密は2つ…
ヒカリ:(NA)
なんだ…この違和感は…!?攻撃の通りが悪い…!!
スバル:(NA)
一つは猛獣の牙をも通さない分厚くたるんだ毛皮…もう一つは、人間であればわずかな時間で死に至るほどの蛇の毒を、完全に無毒化してしまうほどの耐性である
ヒカリ:噓だろ…!こんだけの連撃が効いてねえってのかよ!
スバル:何発撃ち込まれようが、しっかりガードすれば攻撃も毒も大したダメージにはならないよ!!
上から叩き潰してやる!くらえええ!!
ヒカリ:…なんてな!
MM:スバルの狙いすました一撃を、ヒカリがかわしたぁ!
仁:ヘビは全身筋肉の塊(かたまり)…その柔軟性は言わずもがな
人型アバターの形をとっていても、高い瞬発力で関節を捻じ曲げ攻撃をかわすことくらい簡単なのでしょう
ヒカリ:臭(にお)いと目で見えてるぜ!そんなとろくさい攻撃が当たるかよ!!
ヒカリ:(NA)
昼間に活動するブラックマンバは、蛇の中ではピット器官を必要としないほど高い視力と優れた嗅覚を持ってる
待ちの姿勢に入ったラーテルじゃあ、捕まえられるはずがない!
防御力が高いったって、顔みたいな場所は普通に攻撃が効くはずだ!
隙をついてそこを叩く!!
スバル:さすがはヒカリ…ブラックマンバの性能をよく引き出してる…ちょっとやりたくないけどこの手しかないか…!はぁ!!
(スバルの体から茶色い煙が噴出する)
仁:スバル君の体から煙が…!…そうかラーテルには…
MM:スバルの体から噴出された謎の煙!ヒカリの動きが鈍ったぞ!!
一体何が起きたんだ!!
ヒカリ:くっっっさ!!!
MM:おっと!ヒカリがあまりの臭さに身を引いた!!ついに、連撃が止まってしまう!!
仁:ラーテルはスカンクのように肛門から強い臭いを放って敵を威嚇しますからね
…配慮のためSPECIESでは、臭いは全身から噴出されるようにしています
スバル:はずかしいなぁ、もぉ…でも、ブラックマンバの嗅覚には効くでしょ!!
やっととらえたよ…一発入れられるでっかい隙を!!
ヒカリ:…しまった!!
スバル:うりゃあああああああ!!
ヒカリ:ぐあああああああ!!?
MM:スバル!WIN!!鋭い爪がヒカリをえぐったぁ!!
仁:ラーテルと蛇は捕食しあうライバルのような関係…ラーテルの性能を100%引き出し、ブラックマンバの攻撃を的確に処理できたことがスバル君の勝因でしょう
MM:イエス!イエス!ワンダフォー!!さぁ休憩をはさんで、ラウンド2だ!
仁:選手の二人は一度ログアウトをしていただいたうえで、再度ゲノムの選択を行います
(スバルの意識が戻り、目を覚ます)
スバル:ふぅ…なんとか一本先取だね…ヒカリなら次は何を選ぶかな…あれ?
(スバルや観客たちはヒカリがログアウトしていないことに気づく)
MM:ヒカリが目を覚まさない…!おい!どうなってる!
仁:…画面を!
(画面内には不安そうにあたりをフラフラと歩くヒカリが映っている)
ヒカリ:すいませ~ん!ログアウトのボタンが出てこないんですけど~
MM:外部からのログアウトシークエンスも起動しない…!
スバル:…何が起きてるの!
―――――――――――――――――――――――――
(車で移動するスバル、仁、MMの三人)
仁:6月21日15時ちょうど…何者かが強制パッチをかけたことで、SPECIESはログイン、ログアウト機能を失いました…世界各地でヒカリ君と同様の事象が発生しているみたいです
ヒカリ:…って…ない…と?
スバル:え?なんて言ったの?ヒカリ
(仁の持つモニターからヒカリの声が響く)
ヒカリ:俺みたいに現実世界に戻れないってこと?って言ったの!
MM:すまないなヒカリ、簡易的に小型モニターにデータを移したから通信が不安定なんだ
ヒカリ:それってモニターの通信が切れたら俺の意識が二度と戻らなくなる…とかってありません!?
仁:その心配はありませんよ、安心してください
こちら側とのコンタクトが取れなくなるだけで、電脳世界にログインしているヒカリ君は行動可能です
MM:だが実際に、SPECIESには謎の強制パッチがあてられてる
何が起こるかわからない状態なんだし、問題の解決は早い方がいい
こうして俺のマイカー動かして本社まで走ってるわけだしね
ヒカリ:まあ、まだあんまり危機感はないかなぁ…その辺歩いてたらけっこういろんなプレイヤーと会ったけど…みんな自由にバトルしてるよ
仁:SPECIESに紐づく全電脳空間がバトルエリア化したようですからね…自体が長引けば危機感も増してくるでしょう
MM:体や心にどれだけ影響が出るか判断ができないしなぁ…心配事は増すばかりだ
スバル:…あ~
MM:どうしたスバル
スバル:いや、MMさんって実況してないとこんなに落ち着いてるんだなって思って
仁:MMはビジネスでうるさいんです
MM:仁さん、子供の夢を壊すようなことはやめてくれ
仁:どの口が言うんだか…さ、もうすぐつきますよ
ヒカリ:本社の中、俺も見たいよ~
スバル:まあまあ、体は持ってきてもらったから…ログアウトできたらきっと見れるよ
MM:スバルの言う通りさ
飲まず食わずでも3ヶ月は無事、至近距離で爆弾が爆発しようと傷一つつかない特別なカプセルに入れたんだ
本社に入るより、貴重な経験してるって
それに、見たってたいして面白くはないしね
スバル:…え?
スバル:(NA)
MMさんが言ったことはすぐにわかった
とても広いオフィスだというのに、人は一人としていない
活気もなければ、何もない物寂しい空間がそこには広がっていた
仁:今、うちの会社はリモートワークが導入されているから社員はほとんど出勤していないんです
もともと休日でしたし…わざわざ会社にいなくても仕事はできますから
ヒカリ:なんかもっとイケイケって感じなのかと思ってたよ
MM:何言ってるんだヒカリ、最先端の労働環境さ
今だって、バリバリ全社員が問題究明に向けて大忙し中だぜ
さて仁さん
今更だけど…これから俺達が何をするのか二人に説明してあげてほしいな
仁:そうですね…現在のSPECIESはデータベースに強力なロックがかかったことによって本社システムを除いてログインもログアウトも実行できない状態になっています
原因を明らかにし、強制的に全ユーザーをログアウトするようシステムに干渉しなければなりません
…まぁ、原因はだいたいわかっているのですが
ヒカリ:なんだ、原因がわかってるならそんな難しくならなそうだな!
MM:ノンノン、それは違うよヒカリ
SPECIEってのは専用のゴーグルをかけることで、意識という生体情報をデジタルデータに置き換えて、ウェブ上のデータベースに一時的に保持(ほじ)するんだ
その一連のプロセスを分かりやすくログインと呼んでいる
そして、強制ログアウトやデータの不正利用を防ぐために、データベースには“番犬”が仕込まれているんだが、そいつが問題だ
スバル:番犬…ですか…
仁:番犬と言っても、犬ではありませんけどね…お二人にはその番犬に勝ってほしいのです
スバル:SPECIESのセキュリティと戦えってことですか…!?
MM:イグザクトリー、外部からのログアウトシークエンスが全く起動しない今…SPECIESが誇るセキュリティシステムである“番犬”をデリートし、メインシステムと直結したデータベースに直接ログアウトを実行するプログラムを書き込むしかない…それが2人をここに呼んだ理由さ
仁:えぇ…国内でもトップクラスの実力を持つお二人にしかお願いすることはできません…
ヒカリ:おぉ!なんかめっちゃ面白そうじゃんか!!
よし、俺たちの力を見せてやろうぜスバル!
スバル:待ってヒカリ…人の意識なんて凄いものを守ってるセキュリティをデリートするなんて簡単なはずない…勝算はあるんですか?
仁:あります…お二人はこの社内システムからしかログインができない”公式アカウント”としてログインしていただきます
ヒカリさんも後付けで公式アカウント化できるはずです
そうすれば…SPECIESで使用できるゲノムデータは全て自由にリアルタイムで付与できる…番犬にも対処できるはずです
MM:まぁ、そういうこと…さて、スバル…どうする?
仁:ここまで連れてきてなんですが…断っていただいてもかまいません
新しいシステムを組みましたので、スバルさんはログアウトもできるはずですが…何が起こるかわかりませんから
スバル:でも…ヒカリはログアウトできないんでしょ?
仁:…はい
スバル:なら…やる…ヒカリと一緒なら、やれる気がする
ヒカリ:へへっ!そう来なくっちゃ!
スバル:ヒカリだけに任せると危なっかしいしねぇ
ヒカリ:えぇ…なんだよそれ…!
MM:いいねぇ!青春!!ノッて来たぜ!なぁ仁さん!
仁:はいはい…さぁ、お二人には最初のゲノムを選んでもらいます
何にしますか?
ヒカリ:…俺は、鷲(わし)か鷹(たか)がいいなぁ…スバル、なんかいいの無いか?
スバル:そうだな…それじゃあ、ヒカリはオウギワシにしよう!
MM:おお!グッドチョイスだね!
MM:(NA)
オウギワシ…猛禽類最強と呼び声高く、その能力は鳥類の中でも頭一つ抜き出ている
翼を開けば2mを越えるその体躯(たいく)を持ちながら、最大時速80㎞で木々の隙間をすり抜け狩りを行う生粋のハンターである
鋭い爪で突進した時の威力はアサルトライフルと同等になるほどの威力を誇る、まさに食物連鎖の最上位に君臨する鷲(わし)である
仁:スバル君はどうしますか?
スバル:なら私は…ギンヤンマを!
仁さん:確かに…良い組み合わせかもしれませんね
仁:(NA)
ギンヤンマ…最高速度は時速100㎞を越え、宙返りにホバリング、バック飛行まで備えた生物界トップの飛行能力の保持者である
スバル:ワシの視力は人間の8倍…さらにギンヤンマの360°カバーできる視野があればある程度のことは対処できるはずだよ!
ヒカリ:さっすがスバルだぜ…それじゃあ、ゲノムセットだ!
スバル:…うん、ゲノムセット
ヒカリ:へへ…エボリューション!!
スバル:エボリューション!!
(ヒカリとスバルが再転送される)
仁:…頼みましたよ
―――――――――――――――――――――――――
ヒカリ:…データベースってさ、どこにあんの?
スバル:(NA)
そんな無邪気な質問をヒカリがしていたことが懐かしいです…
MM:(NA)
電脳世界はある意味無限に広がっている
そんな中で、SPECIESのログイン者情報をまとめた部屋を探しだす…というのは非常に難しい
仁:(NA)
だからこそ探索能力にたけた二人のゲノムチョイスを断る理由はなかった…
だが…
ヒカリ:全然みつからねえ!!
スバル:はぁ…さすがに疲れてきた
ヒカリ:SPECIESがシステムで“疲れ”を再現して、脳に知覚させてるんだよな…これって
スバル:…そうだね
そもそもSPECIESへの長時間ログイン自体が、プレイヤーにいい影響を与えるとは思えないし…早めにケリをつけたいとこではあるんだけど…
MM:すまない…ヒカリ、スバル…俺たちも必死に探してはいるんだが…
仁:データベースへのアクセス権限があった私ですら、場所が見つけられなくなっているなんて…確実に近づいてはいるはずなのですが…
ヒカリ:…そうは言ったってなぁ…こうも手掛かりが無いとさぁ…ってなんだあれ!
(遠く離れた場所に黒い人影を見つけるヒカリ)
スバル:人…いや、あれは…NPC(えぬぴーしー)…!?
MM:おいおい!どうしてあんな場所にNPCが出てくるんだ…!!
仁:わかりませんが…バトルシステムを確認…襲ってきます!気を付けて!
スバル:ヒカリ!相手は一人だ!距離を取りながら確実に倒そう!!
ヒカリ:オッケー!ちゃんと俺に合わせろよ!スバル!
うりゃあああああああ!!
MM:ヒカリが速度を上げて飛び始めたな…敵を翻弄するつもりか…だが…
スバル:あのハサミ…カニかエビの何かだ!甲殻類なら、防御力も高いし、再生機能だって優れてるはず!私がヒカリに合わせるから確実に攻撃を当てていこう!!
ヒカリ:任せろヒカリ!…決勝戦の反省を活かしてやるぜ!
仁:…あのハサミの形状…まさか!危ない!!
ヒカリ:へっ…ぐああああ!!
スバル:きゃあああああ!!
MM:ヒカリとスバルが吹っ飛んだぞ!まさかあいつは…
スバル:…ぐぅ…こいつ…テッポウエビか!!
ヒカリ:テッポウエビ…!?エビってお前…今の衝撃は…ほとんど爆弾だったぞ!
スバル:テッポウエビは高速でハサミを閉じることで4400℃のプラズマ衝撃波を発射するんだ!二人がバラバラに飛んでたから直撃は避けれたけど…
ヒカリ:まともに食らっちゃまずいってわけね…さすがはSPECIES…
知らないゲノムが来るとほぼ初見殺しだな…!
よし…仁さん!俺らのゲノムを変更だ!!
仁:…ゲノムチェンジの要請を確認…なるほど…わかりました!
ゲノムセット…エボリューション!!
(ヒカリとスバルの動物の特性が変化していく)
ヒカリ:きたきた!これこれ!
スバル:この腕…なるほどね!わかったよヒカリ!
MM:…おいおい!ヒカリはたいして変わってないぜ?それに…スバルのは…!
ヒカリ:(NA)
鳥類界世界最高速度と世界最低速度両方のトロフィーを持つ鳥…それはハヤブサだ
最高速度390㎞、最低速度8㎞の緩急を持って、本気で回避に集中すれば相手の視界を遮りながら、飛び続けることなんて簡単だ…そして
スバル:(NA)
テッポウエビの衝撃波を食らわないために必要なのは、“1撃”の威力
そこでヒカリが選んだゲノムは…“モンハナシャコ”だった
仁:(NA)
モンハナシャコは生物の中でも特出した視力を持っており、暗闇での行動を容易にしている
高速で動き回るハヤブサの動きを目視し、敵に近づく最善のルートを導き出すのは容易いだろう
だがそれだけがモンハナシャコが選ばれた理由ではない
MM:(NA)
モンハナシャコ最大の武器…それはパンチだ
体長15㎝の体から繰り出されるパンチは22口径の拳銃と同等の威力を誇り、水槽のガラスやダイバーの指をへし折る…その殺人パンチならば…
スバル:うりゃあああああああ!!
(スバルがテッポウエビNPCを殴り飛ばす)
ヒカリ:よっしゃー!!ナイスパンチだぜ!!スバル!!
スバル:ふぅ…もっと速く、もっと強く…ね
ヒカリっぽくて最高の作戦だった!
それにしても…なんだったんだろう…あいつ…
ヒカリ:…う~ん、SPECIESに悪さしてる誰かが差し向けたってことなのかな…?
仁:そうだとしたらとても助かります
さっきのNPCが飛ばされた場所まで行ってもらえますか?
MM;何をするつもりなんだ、仁さん?
仁:MMの本職は生物学でシステムエンジニアじゃないですもんね
私ならあのNPCからデータベースの場所を割り出せるかもしれません
MM:ホワッツ!?そんなことできるのかよ!
仁:あなたが知らない“やり方”ってものが色々あるんです
スバル:仁さ~ん!つきました~!
仁:ありがとうございます…うん…うん…
(仁が解析を初めて数秒後、MMが問いかける)
MM:どうなんだ、仁さん!
仁:…はい、わかりました
ヒカリ:ひゃっほ~!すげえぜ!仁さん!
仁:これから二人をサーバーの近くまで転送します
いきますよ…3…2…1…転送
(二人の姿が消えるとともにモニターが切り替わり、再び二人がロードされる)
ヒカリ:うぉっと…ここは?
スバル:…なんか…何もなないね…殺風景で真っ白けだ
ヒカリ:…でも見ろよ…きっとあれが…データベースだ…
スバル:(NA)
真っ白な空間に浮く、真っ白な球体
よく見なければそこにあることすらわからない
ヒカリ:ハヤブサとモンハナシャコじゃなきゃ見つけられなかったかも…でも“番犬”はどこだ?
スバル:確かに…いないね…仁さん!番犬ってどれのことですか!?
…仁さん?
ヒカリ:音声が通じないのか…?…うわっ!!
(突如、二人の体のゲノムが変化していく)
スバル:ゲノムが変わった…これって…
っ!?ヒカリ!!
ヒカリ:わかってる!!
(スバルとヒカリの前に、2人のNPCが出現する)
スバル:またNPCが現れたみたい…だけど…あの姿は…何!?
ヒカリ:魚…と、アルマジロ…か?
スバル:片方はえらもあるし…確かに魚だと思うけど…どの魚か特定できない…
あっちの背中が装甲に覆われてる奴もアルマジロっぽいけど…どこか違和感がある…
ヒカリ:なんにせよぶん殴れば済む話だ!多分こいつらが“番犬”だろ?
通信が切れちまったみたいだけど…仁さんいいゲノムにしてくれたみたいだしさ!
スバル:気持ち悪いからちょっと苦手なんだけどね…
ヒカリ:(NA)
両腕から伸びた鋭い針、黄色と黒いカラーリングで構成された外骨格の装甲
スバルのゲノムは、世界最強の蜂(はち)にして日本国内で最も多くの人間の命を奪った凶悪生物…オオスズメバチである
スバル:(NA)
力持ち…その言葉に最も適した生物は何か…それぞれ異なる意見が出るだろうが、必ずその議論の最中(さなか)に登場する生物…それは“蟻(あり)”だろう
そんな蟻の中でも最強と呼び声高い生物こそ、ヒカリにセットされたゲノム…パラポネラである
ヒカリ:俺はあのアルマジロをやるよ
スバル:なら私は…あの謎魚(なぞざかな)の相手だね
ヒカリ:…やられんなよ?
スバル:誰が?…行くよ!
ヒカリ:おう!
―――――――――――――――――――――――――
(モニターに映るスバルとヒカリ…それを見る仁に銃を突きつけるMM)
仁:はぁ…何の真似ですかMM…銃を向けるなんて何を考えているんです?
MM:白々しいな…仁さん
SPECIESユーザーを電脳世界へ閉じ込めたのはあんたなんだろう?
仁:…気づいていたんですね、もう少しかかるかと思っていました
MM:さすがに気づくさ
SPECIESに紐づく電脳空間の全バトルエリア化にログイン、ログアウト不可…誰にも気づかれずに、こんなバカみたいな強制パッチを仕込むなんてそもそも運営内部のごく限れらた人間にしかできないからね
仁:どうしてここまで黙って見ていたんです?
MM:確証が持てなかったからさ
そんなことをしてもあまりにメリットがない…SPECIESに紐づく生体認証データの取り扱いは法で決まっているわけだし…強制ログアウト不可のこの現象だって普通に刑罰に処される可能性が高いでしょ
仁:…そうですね、あなたの言う通りです
MM:最後に何か仕込んだみたいだけど?
2人との通信は切らせてもらったし…話してもらおうか…
仁さん…あんたが何をやろうとしているのかをさ
仁:はぁ…ちゃんと理解できますかね?…おバカなあなたに
―――――――――――――――――――――――――
ヒカリ:ぬあ~!こんちくしょう!!
なんなんだこいつ!硬いけど…なんか滑る感じだ!!
ほんとにアルマジロ…なのか?
スバル:そっちも苦戦中!?
(ヒカリの近くに、敵から距離を取ったスバルがやって来る)
ヒカリ:スバル!大丈夫か!?
スバル:何とかね…!相手の装甲がかなり固いんだ…
針が通らないし…あの顎(あご)型の両腕(りょうわん)が厄介でね…!
ヒカリ:顎を模した武器パーツか…普通の魚の顎っぽいけど?
スバル:挟む力が異常なんだ…スズメバチの針が片方折られた…!
どれくらいの力があるのか判断できないから対策が練りづらくて…そっちはどう?
ヒカリ:あのわかりやすい背中の装甲…ただ固いだけじゃないんだ
なんか攻撃が滑るというか…それに攻撃するたびにこっちも微量だけどダメージを食らってるのに、その理由もわからない…やりにくいったらありゃしないよ
スバル:ダメージ…?あの形状…それに体毛…!?まさか…!?
ヒカリ:どうしたんだスバル
スバル:たぶんわかったよ…あいつが何なのか…コンセプトがわかれば、あの魚が何のかも見当が付く…なるほどね番犬って言うからどんなのが来るかと思ったけど…タネがわかれば大したことはない!
ヒカリ、相手をスイッチだ!
ヒカリ:…よし、わかった!スバルが言うならそうなんだろ!交代だ!
スバル:(NA)
SPECIESでは【現存する】生物データしか選べないからすぐに気づけなかった…
あの謎の魚の正体はダンクルオステウス…甲冑魚(かっちゅうぎょ)の名を冠する絶滅した古代の魚だ!
ヒカリ:挟む力が強いんだろ!?俺と力比べしようぜ!魚!
スバル:(NA)
ダンクルオステウスは当甲冑(とうかっちゅう)と呼ばれるほどの外殻と500㎏を超える嚙む力で、古代の海の王者となった…
現存する魚を含めても間違いなく最強の魚類と言えるだろう…だが!
(敵の挟み攻撃を、ヒカリは内側から抑えこもうと力を籠める)
ヒカリ:うりゃあ!…ぬぐぐ…ぉぉぉぉおおおお!!らああ!!
(ヒカリが敵の攻撃を弾き飛ばす)
スバル:よし!蟻が持てる重さは体重の700倍だ!パワー比べならヒカリに分がある!
ヒカリ:その分厚い装甲たたき割ってやるぜ!!うおらぁ!!
(ヒカリが敵の胸部を思い切り殴りつけると、胸部の装甲が粉々に砕け散る)
スバル:向こうは心配なさそうだ…問題はこっちだね… “テスタドン”
―――――――――――――――――――――――――
仁:テスタドン・アルマトエキノス・イムペネトラビリス(不安ならテスタドンだけでもOK)
…人類が滅びたさらに未来に現れると言われる進化したハリネズミ
ある学者によって発表された数千~数万年後の姿なんていう、おとぎ話や妄想に近いその学説の中に登場する動物は、体毛が板状に進化した装甲を背中に持つという…
よく対応できていますよね…SPECIESに未実装の絶滅種(ぜつめつしゅ)と未来種(みらいしゅ)ですから、お二人は初見の相手のはずなんですが…
MM:誤魔化すのもいい加減にしてほしいな…本当に一発撃ち込まれないと自分の状況が理解できないのかい?
仁:…SPECIESは人間の生体情報をデジタルデータに置き換え、さらにほかの種のデジタルデータとのミキシングを行った後(のち)、アバターという形で顕現(けんげん)することができる
そのデータそのものの有用性については、いちエンタメコンテンツの枠なんて大きく飛び越える価値があることは、私も薄々気が付いていました…
MM:仁さん…!あんた…!
仁:私がずっとあなたの手のひらの上だなんて、根本から大間違いですよ?…MM
―――――――――――――――――――――――――
スバル:(NA)
この針みたいな体毛の側面から伸びた細い細い枝毛が絡みついて、剣山(けんざん)みたいな板を形成して装甲が作られてるんだ…!
オオスズメバチの大顎(おおあご)でその毛並みを割く!!
スバル:ここだ!うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああ!!
(装甲のわずかな隙間を狙って、オオスズメバチの毒針を何度も突き刺す)
ヒカリ:…うわぁ、さっすがオオスズメバチ…おっかないぜ
スバル:ふぅ…そっちも無事だったみたいね
ヒカリ:おう!初めて見る相手はやっぱりワクワクするよな!
スバル:もう…のんきだなぁ
仁:…くん…スバル君!!
(突如通信が回復し、苦しそうな仁の声が響く)
スバル:あれ?仁さん?通信繋がったんですね?
良かった!
仁:今戦ったのは番犬じゃない!そこから逃げて!!
スバル:…え?
ヒカリ:スバル!危ない!
スバル:ヒカリ!?
ヒカリ:うああああああああああ!!
(突如凄まじい衝撃によりヒカリは吹き飛ばされる)
MM:はぁぁぁぁぁ…もう…全部台無しだ!!!
(データサーバの陰からMMが姿を現す)
スバル:MMさん!?どうしてこっちにいるの!?
MM:どうしてこっちにいるか?んなもんくそったれの仁にしてやられたからだよ!!
ヒカリ:…ぐ…ちくしょう…
スバル:ヒカリ…!よかった…無事だったんだ…!
ヒカリ:無事だけど…もうアバターが崩れ始めてる…!
まともに戦えるかわかんないな…
MM:なんだ…まだデリートできてないのか…ま、時間の問題ってとこだね
スバル:どういうことですか…ちゃんと説明してください!!
MM:あ?説明?ははは!いいよ?いいともさ!チープな悪役みたいに教えてやるよ!
俺が!何を!しようと!したのかを!!
いいか?このSPECIESデータは俺にとって夢が詰まった宝箱なんだよ!
人間の生体認証データと生物データのミキシングを行い…アバターに顕現…
この一連のプロセスはただの0と1で表される数字の羅列(られつ)でしかなかった!
でもね…アプローチの角度を変えてみれば…ウワオ!!
リアル世界の生物(せいぶつ)ゲノムミックスでも流用が可能ってことに気が付いたんだ!
どういうことかわかるかい?ガキ共
ヒカリ:あ…?何言ってんのか全然わかんねえよ!!
MM:これだから頭の悪い奴は嫌いなんだよね~なぁ?じ~んさん?
仁:実際に人体実験や動物実験を行い…生物兵器を生み出すことができるかもしれないってことです…
スバル:そんなことが…できるんですか…!?
仁:不可能なはずでした…どんなになろうと所詮はEスポーツの範疇(はんちゅう)に収まっているはずだったんです…
しかし、日々目まぐるしく進化する技術と溜まり続けるデータによって…妄想に近いバカげた話が実現可能な段階に足を踏み入れようとしているんです…
MM:このサーバーのデータを使い…俺の理想とする最高の生命体を作り出すこと、それが俺の悲願!!…それはつまり神の御業(みわざ)!!…ってことは俺は神になれるってわけだろ!!ははははははは!!それってサイコーじゃん!
ヒカリ:じゃあ、あんたがこの騒動を引き起こした張本人ってことか!!
MM:いいや、それは違う
俺は都大会の決勝で注目が集まる中、ここのデータを時限設定で抜き出すつもりだったんだ…だってのによぉ…そこの大馬鹿野郎の仁さんが強制パッチでこの騒ぎを引き起こした!!
おかげでデータベースには余計なロックがかかって俺の計画はめちゃくちゃさ!
データは抜けないわ、仕込んだプログラムの証拠隠滅もできないわ…ファックってわけ!
仁:大会に向けたサーバーメンテ中に見つかった怪しい挙動から、MMの計画は気づいていたんです…だから計画阻止のために、急ごしらえでデータベースをロックするにはこうするしかなかった…
MM:自分でも外せないほどの強力なロックかぁ~…仁さんの計画は大成功だよね
セキュリティを破るにはスバルとヒカリの力が必要だった…わかるよ、そうするしかない
でも君らがデータベースに近づいて、万が一セキュリティを突破したあかつきには俺のやったことバレちゃうわけじゃん…!困っちゃうよなぁ…
だから、NPCで君らを襲わせたってわけ!
スバル:あのテッポウエビやダンクルオステウス達は、MMさんの仕業(しわざ)だったんですね…
MM:オフコース、でもまさかそこからデータベースの場所を割り出されるとは思わなかったな…うまく隠してたと思ったんだけど…まぁ生物学者の急ごしらえじゃこんなもんかぁ~ってことで…状況としては非常に良くない、だから俺は不都合な肉体は捨てることにしたんだ!
スバル:何を言って…!
MM:肉体からの意識の剝奪(はくだつ)と再定着が可能なら…意識を他の肉体へ定着させることが可能かどうか試さないわけがないだろう?
元の肉体は捨てて、用意しておいた新たな肉体に乗り換えようって話さ…そしたらもう二度と俺を見つけることはできない…
そのためにも…そして俺の夢のためにも、このデータベースは渡せない…!
さぁ、最後の大一番だぜ!スバル、ヒカリ!!“番犬”はもう俺の手に落ちている!!
見せてやろう!世界に名高きSPECIESのデータベースを守る最後の砦の力をな!
ゲノムセット…!エボリューション…!!
(MMがデータベースから飛び出た光と融合し、体が変形していく)
仁:MM…!セキュリティシステムを直接ハッキングするつもり…!?
そんなことができるなんて…!
ヒカリ:…な、なんだこいつはぁ…!?
スバル:噓でしょ…!?こんなのってあり…!?
MM:美しいだろう…体を覆う深い青色の鱗(鱗)…鋭い爪と牙…背中に生えた羽
これこそまさにSPECIESを守る最強の番犬…幻獣種(げんじゅうしゅ)…ドラゴンだ…!!
スバル:こんなの…どうやって…
ヒカリ:ひるむなよ…スバル…!MMの言ってることは全然わかんなかったけど…まだここは電脳世界…所詮はデータで作られたドラゴンだ…本物じゃない!!
MM:だったら何だってんだ!お前らに思いつくのかよ!ドラゴンを殺せる生き物が!!
絶対的捕食者を前にどうするつもりだ!
ヒカリ:捕食者、被捕食者…そんな関係捨てちまえ…あんたが言ってたことだぜ!!
MM:…クソガキ…なら見せてみろよ!
ヒカリ:…仁さん!ゲノムセットだ!!
仁:ヒカリ…わかった…!ゲノムセット…お願い…!
ヒカリ:行くぜ…!エボリューション!!
(ヒカリの姿が変わっていく)
スバル:(NA)
…無理だよ…相手はコモドドラゴンとか…恐竜でもない…空想上の生き物なんだ…
そんなの勝てっこない…勝てる生物なんているわけないよ…!!
(頭の中で、先ほどかけられたヒカリの台詞が再度響く)
ヒカリ:(NA)
ひるむなよスバル…
スバル:(NA)
ひるむなって…どうすればいい…どうすればいいのさ!!
ヒカリ:(NA)
データで作られた…本物じゃない…!
スバル:本物じゃない…?
たしかに…あのドラゴンのデータはどうやって作り出されたの…?
ゼロからドラゴンの体をデジタルで構築して…?でも…
仁さん!MMはゲノムセットって言ってた!
もしかしてあいつはドラゴンのゲノムは【生物データ】で…それと自分の生体情報をリンクさせたってこと!?
仁:えぇ…普段はオートで外敵を排除する自立型AIプログラムがリンクしていますし…普通に人間がリンクできるゲノムのはずですが…
スバル:…それがわかれば十分だよ…仁さん!!
だとしたらあれはたぶんドラゴンなんかじゃない…!…ヒカリ~!!
ヒカリ:うぉっと!!なに!?結構忙しんだけど!!
スバル:ごめん!私も戦う!!それと…ありがとう!
ヒカリ:…へへ、待ってました!一人だとマジ限界!
固いし、強いし、火吹くし…もう全然ダメ!
MM:もう終わりなのかヒカリ?それとも2人がかりでやってみるかい?
スバル:いいのMM?私たち二人なら…負けないよ!
仁さん!ゲノムセット!!
仁;このゲノムは…!…わかりました!
ゲノムセット…!
スバル:エボリューション!!
(スバルの体が変化し、下半身が強化された形態になる)
ヒカリ:うおおおおお!かっこいいな!なんだそれ!
スバル:これはサバクトビバッタ!脚すごいでしょ!
仁:(NA)
サバクトビバッタ…数十年に一度大量発生し、大群で移動しながら食べ物を食い荒らす、まさに生ける災害
そのジャンプ力は体長の27倍の高さをゆうに超える…アバターの持つその脚力は数値では測り切れない
スバル:…ドラゴンゲノム…正体はもうわかってる!
それは様々な生物データを掛け合わせて作られたキメラゲノムなんでしょ!
MM:だったら…なんだっていうんだ?
スバル:あんたの体は全部私の知識で説明がつくってこと!
MM:小娘如きが生意気な!!
(MMが空中に飛び上がる)
ヒカリ:飛んだぞ!気を付けろ!あいつ、飛行コースが読みずらいんだ!!
スバル:いいや、コースは予測できる!…そこだ!
MM:ぐわぁ!!なんだと!
仁:スバル君が、MMの飛行コースを完全に読んでいる…!
スバル:それはこうもりの羽だろ!!
小回りを利かせた旋回(せんかい)が得意な代わりにまっすぐには飛べない…!
飛び方を注視すれば難しくは無いぞ!
ヒカリ:なるほど…体は爬虫類と魚類の鱗(うろこ)…肉食獣の牙や爪…なんだかそうやって見れば随分かわいく見えてきたな!
MM:…ぐぅ…くそ!なめるな!!ブレスで全て燃やしてくれる!!
スバル:…その時を待ってたんだ
仁:(NA)
MMが大きく口を開けた瞬間…スバルは素早く空中に飛び上がった
バッタの脚力と超高度から繰り出される飛び蹴りは、MMの顔面を打ち抜き、大きく開いた口を無理やり閉じさせたのだ!
MM:ぐぬおっ…!?
スバル:(NA)
その火炎放射の原理はミイデラゴミムシ
体内で生成した過酸化水素とヒドロキノンが混ざり合い、化学反応を起こすことで生まれる超高熱のベンゾキノンを噴出しているだけだ!
スバル:臭い息は自分で飲み込みなよ!MM!
MM:うがっ…ブボバァ!!
(MMの口の中で大爆発が起き、その場でふらつく)
MM:ぐがが…ぐおぉ…
ヒカリ:へへへ…MM!
MM:ぐぁが…?
ヒカリ:俺も試したくなったからさ…ゲノム変えてもらったんだ…ミイデラゴミムシによ!
MM:がっ…!?
ヒカリ:その口ん中…もっぺんぶっとべ!!
うおらぁあああああ!!!
MM:ぎあああああああああああああああ!!?
仁:今だ!スバル君!データサーバーに触れてください!!
全員ユーザーを強制ログアウトします!
スバル:わかりました!…仁さん!お願いします!
仁:…よし、今ならまだ間に合う…ログアウト!!
―――――――――――――――――――――――――
(現実世界に戻ってきたヒカリとスバルは目を覚ます)
スバル:…はっ!?ヒカリは…!!
ヒカリ:…んん…すばる…?
スバル:ヒカリ!良かった…!
ヒカリ:おぉ!ログアウトできてる!
やったな!スバル!!
仁:大手柄ですよ…スバル君…ヒカリ君…
スバル:仁さん!!どうしたんですか…!その怪我…!
仁:MMに撃たれてしまいまして…でも大丈夫です…
もう警察も救急も近くまで来ていますから…
さぁ…MM!もう終わりです!
MM:く…そ…!なんで…まひゃこの体に…
仁:はぁ…あなたが戦ってる間に生体認証データを特定して、強制的に元の体に戻すプログラムを組んだんです…急ごしらえだったんで、脳に少し障害が起きてるようですが…元に戻るといいですね
MM:ふ…ふじゃけるぬぁ!!
(MMが突如立ち上がり、仁に殴りかかる)
ヒカリ:仁さん危ない!
仁:ふんっ!!
(仁がMMを殴り飛ばす)
MM:ぐぎゃぁつ!?
スバル:…つよ
仁:私、生身(なまみ)の方が強いので
ヒカリ:…かっこいいっす
―――――――――――――――――――――――――
スバル:(NA)
かくして、SPECIESのデータを狙った凶悪犯は捕まり、ログアウトができなくなっていたユーザーも無事ログアウトが確認され、その全員の体に障害は見つからなかったらしい
無事事件は解決したのだが…
ヒカリ:…やっぱり、行かなきゃいけないんですか?
仁:どんな理由があったにせよ私も皆さんをSPECIESに閉じ込めた犯人ですから…逃げるわけにはいきません…
私の処遇は司法が決めてくれるでしょう
スバル:そんな…仁さんは皆のデータを守ったのに…
仁:いいえ…私にそんなことを言ってもらえる資格はありません
はぁ…スバル君、ヒカリ君…本当に何と言ったらいいか…
ヒカリ君の直感的でパワフルな戦い方には何度も胸をうたれました
スバル君…あなたの知識は誰に負けません…何度助けてもらったか…
お二人には感謝してもしきれません…これほど素晴らしいプレイヤーをこんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ございません…!
ヒカリ:…へへ、さっさと色々片付けてさ…早くドラゴン実装してよ
次は一人で勝つからさ!
スバル:私は古代種かなぁ…それに次会う時までに、私は世界ランクに入っておきますからね!
仁:二人とも…ありがとうございます…!
―――――――――――――――――――――――――
ヒカリ:仁さん…行っちゃったなぁ…実際、これからどうなるんだろうなSPECIES
スバル:…大丈夫、終わらないよ
生物は毎年1万8000種も新種が見つかるんだよ?
ヒカリ:そりゃあ凄いな…毎年戦い方がそんだけ増えるってことだ
スバル:でしょ?私たちがこんな未知の宝庫を手放すなんてできないよ
それにまだ決勝戦の途中でしょ?
ヒカリ:そうだ!まだ決着ついてないじゃん!
スバル:ふふ…それじゃあ、次はどのゲノムで行こうか!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?