意気地ナシの私 ~こんな仕打ちが待っていたとは その4~
アンドレアと懐かしのアイダホ州を旅行しようということで、シアトルから待ち合わせのボイシー空港までの国内線に乗り込んだ。
小さな旅客機には乗客が30人もいなかったと思う。
離陸前、機内からぼんやり窓の外を眺めていると、ひとりの客室乗務員が近づいてくる気配を感じた。その人は肩まで伸びるブロンドの髪の毛を掻き上げながら、私に向かって「優しい声」でこう言った。
「Fasten your seat belt, please.」
私は「Oh, ok.」と笑いながら彼女を見上げた。
えっ?!
驚いて反射的に視線を落としたその先には【Tennille】と書かれたネームタグが。
間違いない。
7年前、私を睨みつけながら「I hate Japanese!」と言った、あの子だ。
その瞬間、あの時の重苦しい部屋の雰囲気と犬猫の獣臭が鮮明に蘇ってきて、私の鼓動が彼女に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、心臓がバクバクしている。
そんな私をよそに、彼女は何も気が付かなかったようで「Thank you!」と言いながら後部座席の方へ行ってしまった。
たったの90分というボイシー空港への飛行時間は、成田→シアトル間よりも長く感じた。
声を掛けるべきか、黙っているべきか
このチャンスを逃したら、恐らく二度と彼女に会うことは無いだろう。でも、なんと声を掛ければいい?彼女にとって、私は大嫌いな日本人のはずだ。
でも、もう7年も前の話しだ。いや、たったの7年か。
でもでも、彼女もこうして立派な社会人となっている。
あぁ、どうしよう、どうしよう。。。
意気地ナシの私はそのまま飛行機を降りた。
到着ロビーの車寄せには、レンタカーに寄り掛かったアンドレが手を振っている。赤毛を本来の地毛、ブロンドに戻していたアンドレアがまた私の救世主に見えた。
アンドレアに機内での出来事を話すと、彼女は「It’s ok, Chiharu.」と慰めてくれた。
あれから25年が過ぎた。
優しい声で「Fasten your seat belt, please.」と言った、Tennilleの声が今でも耳に残っている。
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