東京競馬場の直線が長すぎても

藤田菜七子騎手がフェブラリーステークス(G1)騎乗。 話題先行と言われようが凄いことだと思う。

結果も堂々の5着。

「大外ぶん回しで下手くそ」とか「G1に出れるような実力はない」とか厳しい意見を目にしたりもする。
便所の落書きのような品のない酷い言葉も。

藤田騎手は確かに可愛い。16年ぶりの女性ジョッキーで、女性騎手に関する記録を次々に更新している。
話題性充分だし、JRAは人気獲得のために多用したがるでしょう。メディア側も取り上げたい人。

露出が増えれば、批判的な声も増える。

競馬はスポーツなのか?

私は茨城県出身。トレセンのある美浦村のとなりの町で育った。通学路には藤沢先生の豪邸があって、エアコンの室外機の多さに幼いながらに驚いていた。

同級生のお父さんが有名調教師だったし、通っていた整骨院で私の前に治療を受けていたのは障害の騎手だった。

馬運車を目にするのは日常的なことだった。

競馬が身近な環境で育ったからなのか、テレビで見ていてもギャンブル的な感覚にはならない。

人馬一体となる競技で、いわゆるスポーツとは少し違うような気もしているけど(馬の実力の方が重要だろうし)、
命懸けで戦っている騎手や、寝食を忘れ管理馬の調教にあたる関係者を思えば、スポーツ以上のものも感じる。

少なくとも
「ただの賭け事」「動物虐待」みたいな無理解な揶揄にさらされるべきものじゃない。

スポーツとも違う『競馬』というジャンルなんだと思う。

出身地の話。

「出身地は?」
茨城です

「、納豆だっけ??笑。あと大仏??www」

就職して東京に出てきた。
以来ずっと感じるモヤモヤ。

馬鹿にしてるんじゃなく、イジってることはわかっている。
もはや慣れたし、だからどうということではない。

帰省というほどの距離でもなく。都心まで通勤している人も少なくない。
それもあってか恋しさもそんなに感じない。遠くないんだから。

物理的に故郷とは感じにくく、自分自身もさして意識していない。
加えて、笑いの種にすらなるフルサト。

「むちゃくちゃ落ち込んでたから、この週末帰省してきて、元気になったわ」

そんなコメントを聞くと、羨ましさがわいてきた。

東京

東京には人が多い。
いろんな人が集まってきてる場所なだけあり、自分の実力のなさを痛感するにはこと足らないほどに、デキル大人がたくさんいる。

気持ちが弱っているとき、落ち込むには充分なだけの材料が、東京にはある。

「都会って、やっぱ壁が厚いんかなー、、」

都会のせいじゃないですよ。東京が悪いんじゃない。
わかってるけど、ひたすら居心地の悪さを感じたその瞬間、私たちに力をくれるはずの故郷。

茨城県出身の人

何気なくネットニュースを読んだ。
前々から存在は知っていた。アイドル的な女性ジョッキーがいると。

なにかで見た彼女のインタビュー。二十歳そこそこの若者のはずなのに、大人びた受け答え。

仕事に対する真剣さがうかがえた。

そんな彼女は茨城県出身だという。美浦のトレセンで、毎朝、調教にて騎乗しているそう。

私の故郷で泥にまみれながら、週末、日本一大きな東京競馬場で戦っている。

批判や否定的な意見にまみれながらも、彼女はG1に騎乗し、堂々と戦っていた。

素人の私には、上手いのか下手なのかはわからないし、
前評判どおり5~6番手の馬で5着だったのか、もっと上位に行けた馬なのかも。

そんなことはどうでも良いのです。
茨城で生まれ育ち、今も美浦で修行を積んでいる人が、最高峰に果敢に挑戦した。

全くロジカルじゃないけど、やれる気がしてきたんだ。

子どもたちが「自分もやってみたい」と思ってくれたら

藤田菜七子騎手のコメントを読んだ。


私の騎乗を見て、女の子や男の子が「自分もやってみたい」と思ってくれたら

女性ジョッキーのパイオニアになる。
アスリートとして子どもたちに夢を与える。

素敵な使命感だと思う。

でも、彼女にしか出来ない仕事に勇気を貰うのは子どもたちだけじゃない。

色眼鏡で評価される。
心ない批判の的となる。

若いのにかなりタフな環境で、集中できないことも多いでしょう。

『競馬人気』を背負わされれば、露出を控えるわけにもいかない。
でも、表に出ていけば「調子に乗りやがって」そんな声が。

断ったら断ったで、やっぱり「感じ悪いな」ってなる。

だけどさ、武豊騎手も、福永祐一騎手も、そうだったんでしょう。若い頃は。

偉大なジョッキーを父に持ち
「親の七光りが」「コネで良い馬乗りやがって」

絶対言われてたよ。数多の陰口に悩んだと思う。

でも、彼らは、もう何十年もトップジョッキーであり続ける。
武豊騎手に至っては、前人未到で百年単位で更新されないだろう金字塔を打ち立て続けている。

藤田騎手は、本当に若い。
仮にアイドルグループの一員だとしても、まだまだ若手に分類される年頃。

これから黙らせて行くと思うんです。努力と磨いた実力と、積み上げた実績で。


そんなストーリーを目に出来るなんて。
多くの大人が、力を貰うはず。

そして、彼女の日陰に隠れてしまいがちな他の若手実力者の中から、大きなことをなす青年がきっと現れてくる。

胸熱じゃないか。
その豪腕で、名馬の豪脚を引き出して、東京の長い直線を突き抜けてくれたなら、
私たちも、突き破れる気がしてくる。

ゴール板がどこにあるかもわからない、東京のロングコースで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?