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【マネジメント連載企画vol.12】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第2章 陥穽(おとしあな)に落ちないために⑧


多分業化~介護助手を活用する➄


多様な分業と多様な雇用

 介護助手導入を支えているのは、多分業化と多雇用化である。介護現場の中に多様な分業を見つけ出し、その担い手を雇用することで、この業務改善は成立している。
 20年近く前、まだ介護助手という言葉がない時代の分業は、施設の調理員か清掃員、あるいは通所介護の送迎ドライバーに限られていた。そしてその担い手の大半は高齢者だった。もちろん、当時からパートタイマーや登録ヘルパーは存在したが、彼女たちはほぼ例外なくケア業務に携わっていた。「ケア業務を行わない介護助手」という考え方自体がなかったのだから当然である。
 ところが、介護助手導入を前提にケア周辺業務を探してみると、様々な仕事が見つかった。ベッドメイク、消毒用アルコールや液体石鹸の入れ替え、ショートステイ利用者の荷物チェック、壊れたドアノブの修理や壁紙の張替えといった営繕業務、リネンや消耗品等の物品管理、各フロアの空き段ボールや古新聞の回収など、これらはすべて介護職が行っていた仕事だった。「解剖」の視点で見てみると、調理や送迎以外にも、切り分ける業務は現場に数多く埋まっていたのだ。
 また、こういった業務を「ケアには携わらない」とした上で募集してみると、応募者は必ずしも高齢者ばかりではなかった。幼稚園の送り出しとお迎えの間だけ働きたい子育て世代や、介護に興味はあったもののハードルが高いと感じていた主婦や学生が、面接にやってきたのである。



「狭さ」を活かした業務改善

 ポイントは「狭さ」だった。介護業務を細分化することで、守備範囲がきわめて狭いケア周辺業務を掘り起こすことが可能になり、この範囲の狭さが、高齢者とは異なる世代の働き手まで呼び込むことにつながった。介護助手とは、「狭さ」を活かした業務改善だったのである。
 当たり前のことだが、利用者の日常生活のすべてをサポートする介護という仕事の守備範囲はきわめて広い。ケアからケア周辺まで、行為の支援から精神的支援まで、24時間365日、休みなく行う。考えて見ると、これほどまでに業務範囲の広い仕事も珍しい。
 だが、働き手から見れば、この広さが、難しさや大変さに映り、人材難に拍車をかけてきたのではなかったか。もちろん、介護の仕事は簡単でも楽でもないが、そうであるならばなおのこと、少数のオールラウンダーだけに頼らない多分業化が必要だったのである。
 筆者は、この介護助手の「狭さ」の中に、今後につながる大きな可能性を感じている。仕事の範囲が狭いからこそ働ける人材がこの世の中には少なからず存在していて、介護助手という新しい職種をもっと世の中に広めることで、そのような人材をまだまだ発掘できると思うのだ。
 少なくとも、介護助手という職種は、「プレ・ワーク」「ポスト・ワーク」「リ・ワーク」という3つの受け皿になり得ると考えている。


プレ・ワーク、ポスト・ワーク、リ・ワーク

 「プレ・ワーク」の対象は、引きこもりや不登校の経験を持つ人、ワンクッション置いた就職を望む学生などである。こういった層の存在は今やレアケースとはいえなくなっているのだが、社会の側が対応できていないという現実がある。介護助手の「狭さ」は、狭いからこそ無理のない受け皿になり得る。まずは介護助手として就業し、その後正社員化していくという雇用のかたちである。
 「ポスト・ワーク」の対象は、介護職卒業組である。正社員・パートの別は問わない。体力、健康、家庭事情などの理由も問わない。何らかの限界を感じた職員に、範囲を限定した仕事を提示して継続雇用を促すのである。ベテランの退職をあっさり受け入れてしまうのはあまりにも勿体ない。本人がプライドの問題をクリアできるのであれば、介護助手の「狭さ」は引き留めに効くはずだ。
 「リ・ワーク」の対象は、病気治療中あるいは治療後の職員である。闘病しながら働きたい人に、緩やかな復帰を望む人に、介護助手の「狭さ」は優しさになるだろう。ケア業務の時短勤務ではなく、ケア周辺業務限定の勤務であれば、本人の負担は精神的にも身体的にもかなり軽くなる。厚生労働省が掲げる「治療と仕事の両立支援」の現実的な方法がここにある。
 似たような雇い方はこれまでにもあったかもしれない。だが、それを介護助手で行うことによって、従来とは異なる人材へのアプローチが可能になる。あえて狭さで広げる雇用もあるのだ。






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