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専門医制度はプロフェッショナル・オートノミーと言えますか?

日本専門医機構の役員改選が近いのだそう。

この話でちょうど思い出したので、今日は前々から専門医機構の姿勢について疑問に感じていることをひとつ書いてみます。


専門医機構は専門医制度のポリシーとして「プロフェッショナル・オートノミー」を掲げています。日本語にすると「専門職による自律」とでもなるでしょうか。要するに「医師という専門職集団としてのプロ意識を持って、他者に強制されるのではなく自分たちで自分たちを律していこう」というイメージでよいでしょう。
そして、その「プロフェッショナルオートノミー」の一環として専門医制度があると。

なるほど、立派なポリシーです。もちろんこれに批判を加えることも可能ですが、とりあえず今回はそこはつっこまず、とりあえず「プロフェッショナル・オートノミー」まあいいんじゃないですか、ということにしておきます。


さて、「プロフェッショナルオートノミー」というポリシーを受け入れるとして、疑問なのはじゃあ専門医制度はその肝心の「プロフェッショナル・オートノミー」に基づけているのかという点にあります。

今回の役員改選も、専門医機構は社団法人なので、その社員や役員たちによって選考されるようです。
専門医機構のホームページにいけばその錚々たるメンバーを見ることができます。
でも、そこには全国各科に分布する大多数の専門医やこれから専門医を目指す専攻医や研修医の姿はありません。
つまりいわば一部のエライ人たちによって専門医機構の主要メンバーおよび専門医制度は決まっているわけです。

しかして、オートノミーとは「自分を律する」という意味でした。
それならばまさしく直接的に専門医制度の影響を受ける多数の一般の専門医や専攻医に自分を律するチャンスがなくてはいけないでしょう。
自分で自分を律するルールを決める権限、少なくともそれを合議する時の発言権なくして、自律は成り立ちません。それらがなければ要するに他者から強制されてるだけです。
つまり、プロフェッショナル・オートノミーオートノミーと言うのなら、その制度や役員の決定プロセスは専門職の全構成員――すなわち若手も含めた医師全員に発言権がある民主的手続きに基づく必要があるのではないでしょうか。

自分のことを自分で決めるからこそ自律なのです。
勝手に一部のエライ人達、しかも専門医制度の一番規制が強い段階を過ぎ去った方々が、これから一番大変な義務を負う若者たちに発言権や決定権を与えないまま「プロフェッショナル・オートノミー」だなどと言うのは欺瞞です。
全医師の代表として十分に正統性を主張できる民主的プロセスなくして、専門医機構に「プロフェッショナルオートノミー」などと謳う資格はないと考えます。


別にこれは変わった話を持ち出してるわけではなく、こうした「正統性」や「代表性」の問題は他の議論でもよく挙げられる重要なポイントです。

たとえば、日本医師会が全医師の代表みたいな雰囲気で発言をした場合、「開業医の利権団体のくせに」という批判が出るのが定番となっています。(その是非はここでは置いときます)
これは、日本医師会の中で勤務医の割合が低かったり内部での発言権が弱いことなどから、日本医師会は勤務医の代表としての正統性を疑問視されてる構図です。

あるいは、国政における「シルバーデモクラシーだ」という批判も、今の日本の政治が、地方人口の多数を占める高齢者の意見ばかり聞いて、若者の意見を聞いてくれないという不満からきています。これはつまり、日本の国政が民主主義を謳いながら、構造的に若者の代表性が十分に保ててないことが問題視されてるわけです。

そして、有効な発言権がないのに義務ばかり回ってくることへの怒りは古今東西共通しています。
有名なのはアメリカ独立戦争のスローガン「代表なくして課税なし」です。
自分たちの預かり知らないところで課税されることに堪忍袋の緒が切れたアメリカの市民がとうとう独立を目指すまでになるわけですから相当なことです。
自分たちに関係のない人々が自分の処遇を勝手に決めることの暴力性がよく分かります。


このように全員が縛られるルールを定める組織が十分な代表性と正統性を持っていることは極めて重要です。
しかも、それが「プロフェッショナル・オートノミー」などと言って、自律を謳っているのであればなおさらでしょう。


もちろん、時に上意下達とか年功序列といったヒエラルキーに基づいた組織が必要なケースがあるのは分かります。
一般の医師たち、特に若い医師なんかに発言権を渡したら無茶苦茶になる。そういう意見も当然あるでしょう。
それもひとつの意見なので、それだけであればおかしくはありません。

ただ、それならば「プロフェッショナル・ヒエラルキー」だとか、「プロフェッショナル・ビューロクラシー」だとかそれ相応のポリシーを堂々と謳うべきで、あたかもみんなで自律的に決めたかのように「プロフェッショナル・オートノミー」などとウソを言うのはいけないのではないでしょうか。

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江草 令
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