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「力による現状変更を認めない」と言うけれど

ウクライナ紛争をきっかけによく聞かれるようになった「力による現状変更を認めない」というフレーズ。
まさしく力によってウクライナの領土を我が物にしようとしてるロシアに対する真っ向批判な言葉です。

ただ、前々からこのフレーズを聞くたびに素朴な疑問が湧くんですよね。

確かに「力による現状変更」が良いとは思いません。そこは全く同感です。
でも、じゃあどういう時にならその「現状変更」とやらは成立するのでしょう。

特に今回のウクライナ-ロシアの対立は領土を巡ってものです。
領土問題は、北方領土や尖閣諸島、竹島など日本でも無縁ではない問題ですが、まあなかなかに外交も平行線で対立が解消される様子はほとほとないですよね。

それだけ領土問題というのは互いにこだわりが強いのです。
そう考えると、力に依らず領土を変更する場面って正直現実に起こりうる気がしません。

「力によらない現状変更」でありえるとしたら、領土の売買でしょうか。
歴史的には米国独立してまもなくなど、確かに領土を購入したりしてるケースは多くあったと思うのですが、最近ではあんまり聞かない気がします(江草が無知なだけかも)。もしあったとしてもかなり小規模なものにとどまるんじゃないでしょうか。

たとえば、日本政府が与那国島を台湾に売るだとか、北海道をアメリカに売りますだとか、まずもって起こりそうにありません。世論を考えると、売買交渉すら始められないでしょう。

じゃあといってタダで譲るとか、何か他の外交的な見返りに他国に領土を渡すというのも想像しがたいです。
日本も沖ノ鳥島という小島をガチガチに固めてまで必死に領海を守ろうとしてるのに、そうそう簡単に渡すものではないですよね。

たとえ領土を渡すという交渉が成立するとしても、それはそれは信じられないぐらい大きな見返りがないとまず起こり得ないでしょう。
しかしそれだけ大きな見返りを返せる国というのは、それゆえに恵まれた大国でないとありえないとも言えます。


その上で「力による現状変更を認めない」と宣言するというのは、要するに今広い領土や豊かな領土を持ってる国に随分都合がいい話とも思えてしまうのです。
そもそもちょっとやそっとのことで領土を渡すことはないにも関わらず、ことさらに「力による」ところだけ否定するのも、虫が良すぎるような気がするのです。

実際、可住面積が狭いのであんまり実感できないですが、領海や排他的経済水域の広さを考えると日本はとても恵まれた領土を持ってる国のひとつです。
そうした恵まれた国が「力による現状変更はダメだよね」と言い出して、その上で別に「力によるかどうかにかかわらず」領土を他国に渡す気がそもそもないとなれば、恵まれてない国からひんしゅくを買ってもおかしくないのではないでしょうか。

しかも、それこそ歴史的には過去に「力による現状変更」すなわち侵略をして手に入れた土地に堂々と居座ってる大国は少なくないです。
にもかかわらず、その点を無視して、後からいけしゃあしゃあと「力による現状変更は認めない」と言うのも少しズルい気はしてしまうのです。


いえ、もちろん、日本の領土を渡すべきとか、だから武力侵攻は正当化されると言いたいわけではありません。
現実そう世の中キレイにできてないことも理解しています。

ただ、「力による現状変更を認めない」と豪語するのであれば、その分、何かしら領土に恵まれてない国への配慮も必要になってきちゃうんじゃないかなとは思うんですよね。
全ての国を平等にするのは不可能でも、恵まれた領土を持つ国はできる限りの世界への貢献は否応なしに求められてしまう。そのように感じるのです。

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江草 令
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