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いつまでも飽きずに「飽きる」私たち

最近娘(3歳)がアンパンマンにあまり騒がなくなってきた気がします。一時はとにもかくにもアンパンマンアンパンマンだったのに、そういう勢いみたいなのがありません。アンパンマンを嫌いになったとかいうほどではなく、好きではあるようなんですけれど、明らかにトーンダウンしてきていて、どちらかというとメルちゃんの方が支持を集めている様子。

ついにアンパンマン飽きてきちゃったかあ、というのが素直な感想です。

子どもの興味関心の移り変わりは激しいです。怒濤のごとく遊びまくっていたおもちゃもある日から突然見向きもしなくなったり。ロングランヒットになるおもちゃも時にはあるのですけれど、だいたいのものは悲しいことに人気が長続きしません。

そう、飽きちゃうのです。

しかし、ここで疑問が湧いてきます。「飽きる」とはそもそも何なのでしょう。

まず、この「飽きる」って現象、子どもに限らないですよね。何を隠そう、江草自身がそもそも飽きっぽい性格です。大人だって、何かと飽きては、新しいものに乗り換えるということを繰り返しています。

何かにものすごくハマる。びっくりするぐらい熱中する時期がある。でも、ふとそのテンションが途絶えて熱が冷める時がくる。飽きてくる。それで代わりになる他のモノや活動に目移りする。

多くの人が経験のある心理じゃないでしょうか。なぜだか分からないですけれど、私たちは「飽きる」のですよね。

考えてみると、私たちに内蔵されたこの「飽きる」という性質は思いのほか強力です。

たとえば、一般に依存性が高いと思われてるコーラやポテトチップスのようなジャンクフードであってさえ、手を替え品を替えCMを流したり、期間限定の味を出したりして、消費者を飽きさせないように必死です。

お酒だってそうですよね。ビールも味を変化させていったり、限定テイストを出したり。そもそも世の中にお酒の種類があれほど無数にあること自体が、一つの味をずっと飲み続けることはできないという人間のサガを表してるような気がします。

ほっておいたら、かような依存性の塊のような商品でさえ飽きられかねない。それだけ「飽きる」というのは実に強力な代物と言うべきでしょう。

そう、私たちは飽きてしまう。ずっと同じだとなんかウズウズして耐えられなくなってくる。少なくともそこに別のものが現れたらそちらに移ってみたいという欲求を抑えるのが難しくなる。

ファッションしかり、ドラマや映画しかり、次々と新手のものが登場しては、次々と人々が乗り換えていく。「○○は神作品」などと言う人が、じゃあずっとその作品を生涯鑑賞し続けることを選ぶかというと、いたとしてもそれはごく少数であって、たいがいはまた新たな神作品を求めてさすらうわけです。ブームやトレンドというのは、言わば私たちが飽き続けている過程でもあるのです。

もっとも、「飽きる」とは必ずしも悪いことではありません。人に「飽きる」という性質があるがゆえに、未知の領域に探索にいったりチャレンジしてみたりという、人類の拡張志向をもたらしたところがあるでしょう。

「飽きる」とは裏を返せば「好奇心」です。「奇を好む心」。慣れ親しんでしまえばそれは「奇」ではなくただの「日常」になってしまいますから、「好奇心がある者」というのは、すなわち「飽きる者」と言えます。

七つの大罪に「飽き」が含まれていないのも、こうした「飽き」のポジティブな面が評価されて断罪を免れたのかもしれません。

とはいえ、飽きる度にどんどん乗り換えるような状態は、やはり良くない面もあるでしょう。

先にも挙げたように、そうした「飽き」を補填するために、矢継ぎ早に(定番品に比べたいがいあまり美味しくもない)期間限定品を出したり、ブームを創り出すのも、あまりに高回転に世に溢れすぎてる気がします。

これで引き起こされる環境面や労力面の問題もさることながら、もはやそれぞれをじっくり味わっていないのではという懸念があります。ここまで来ると、「飽き」に私たちが乗っ取られて駆動してるだけで、「好奇心」的な良い面も引き出せてないし、私たち自身にも満足感、充実感がないという、本末転倒な状況になってるのではないでしょうか。

そう考えると、唯一、私たちが飽きずに続けていること、それがまさに「飽きること」なのでしょう。

だから、そろそろ「飽きる」ということに私たちも飽きてみてもいいのかもしれません。


……まあ、これを最も飽きっぽい人間の一人である江草が言うのもなんなのですが。自分にも言い聞かせてると言うことでお許しあれ。

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江草 令
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