医師偏在対策のライバルは他業界
医師偏在対策の展開は相変わらずの雰囲気ですね。
過去に下記のような記事も書いてるぐらいなので医学部増員の方向性自体は江草も支持はするものの、正直遅きに失してる感は否めません。医師が育つまでには相当な時間がかかりますからね。
しかし、それより何より、依然として地域での勤務を義務づける「地域枠」頼りの対策なのが残念です。
地域枠の問題点については、以下の過去記事に頼って説明を省くとして。
なんとなく医師の偏在対策案の方向性を見ていると、医師の地域偏在であればライバルは東京などの都会であり、診療科偏在であればライバルはQOLの高い人気マイナー科であるような、そんな印象でやってるのかなあと。
だから都会で働く人数や人気の診療科の人数を規制(シーリング)したり、地域で働くことを義務づけてみようとしたり(地域枠)、そういう発想の対策になるのでしょう。
都会の医師が減れば、地方の医師が増える。人気科の医師が減れば、不人気科の医師が増える。そういう算段です。
でも、本当にその考え方でいいのかってのは改めて問い直した方がいいと思うんですね。
突然ですけど、あなたが喫茶店を経営していたとしましょう。経営において想定すべきライバルは誰だと思います?
まず思いつくのは近隣の他の喫茶店ですよね。要するに同業者です。競合して客の取り合いになるかもしれませんから、確かにライバルと言えるでしょう。
でもね、こういう時に忘れちゃいけないのは、全く異質なライバルの存在なんです。
たとえば、喫茶店だと、そうですね。Zoomなんか、ライバルになりえますよね。
ええ、Zoomって言わずとしれた、あのオンラインミーティングアプリです。
なぜZoomが喫茶店のライバルになり得るかと言えば、喫茶店をミーティングに使用しようというニーズを食う可能性があるからです。今までは喫茶店で落ち合って打ち合わせしていたのが、Zoomでオンライン上で打ち合わせを済ませちゃおう、って流れ。既に今は十分に一般化してますでしょ。
そういう意味で、喫茶店とは似ても似つかぬ存在でありながら、Zoomは実はライバルのポテンシャルを有しているのです。
別に喫茶店経営講座をしたいわけじゃないので(江草ができるわけもないですし)、このシンプルすぎるケーススタディを深掘りはしませんが、ともかくもここで言いたいのは、必ずしも分かりやすい同業者だけがライバルとは限らないということなんですね。
で、話を戻して、医師の偏在対策です。
医師偏在問題を考える時に、相手として「偏在してる先」、つまり都会の病院や人気の診療科ばかりを想定してしまうと、思わぬ死角を生じさせてしまってると思うんですね。
それは、医師以外の他の業界というライバルです。
都会に住めなかったり、人気の診療科に進めなかったとしたら、スパッと医師を辞めて他の業界に打って出てしまうかもしれない。地域枠で僻地に縛り付けられるぐらいなら、最初から他の学部に進学することにするかもしれない。
そういう可能性を、「都会の医師が減れば地方の医師が増え、人気科の医師が減れば不人気科の医師が増える」という単純な算段はこってり忘れてしまってるんですよね。
実際ね、医師が他業界に転職するとか、起業するという話は出てきてるんですよね(ドクトレプレナーという言葉もあります)。
江草の友人・知人の医師にも既に複数名、他業界へ転職したり、起業しちゃった人が出てきていて(1人はもう億単位の資金調達しちゃってる)、もちろんそういう人たちは全然少数派ではあるとはいえ、決して珍しいとは言えなくなってる感があります。(なお、別に彼らは医師偏在対策を嫌って出て行ったわけではなさそうですが)
ここでね、現行の医師偏在対策が志向しているような、規制に頼った方策をとったならば、こうした他業オプションを取る人は全然増えうると思うんですよね。究極的にはハナから医学部を受験しないという医学部不人気化の方向性もありえます。
だから、医師の偏在対策において、都会の病院志向だけ何とかすればとか、人気診療科の医師数さえ規制すればとか、そういった考え方は、今までのようにこれからも医師(および医学部)がただただ人気であり続けるという前提あってこそに過ぎないんですよね。
その前提が崩れ去ったら、全然計算通りには行かなくなるでしょう。
もちろん、今はまだまだ医師職は人気ですよ。でも、誰もがご存じの通り、盛者必衰の理というものがあります。それ(人気)が未来永劫続くと思うのは勝手ですが、その保証は誰もしてくれないのです。
まあ、色々言いましたが医師の偏在対策は実に難しい問題で、仕方なく現状の方向性の立案をしたくなる気持ちは分かります。江草としても、正直、万人が納得するようなエレガントな対案は持ち合わせていません。
ただ、業界内のライバルばかりに目を向けて、外部のライバルの存在を忘れてしまうことは非常に危険であることは確かでしょう。
本当にその対策案で、医師以外の全く異種のライバルたちに対抗できるのかどうか、ぜひとも今一度考えていただきたいところです。
余談ですが、そういえば、だいぶ昔にも同じようなこと書いてました。(過去ブログのアーカイブにありました)