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Photo by
kohki_shiraishi
あいうえおnote【か】
帰り道
春の終わりの夜空は何もかも吸い込んでしまいそうな澄んだ青で、そのまま吸い込まれてしまえばいいと思った。私の憂鬱も、寂しさも。
駐輪場から自転車を出して、エントランスで待つ彼の元へむかう。ああ、日曜日ももう終わりだ。
そのまま2人で横断歩道の前まで歩く。信号が青になるまでの時間をカウントするライトが一つずつ消えていき、私は一度青信号を見送ってしまおうかと思いかけて、やめた。そんなことしたら、きっともっと帰りがたくなる。
「おやすみ、またね」
「おやすみ。気をつけて」
信号が変わるとともに、ペダルを勢いよく漕ぎ出す。ここの道路は大きくて、青信号と同時に渡り出さないとタイミングを失ってしまう。
身体に当たる涼しい夜風が、私の頭を少しずつ現実に引き戻していく。その感覚が、何かに似ていると少し考え、すぐに思い当たった。東海道線だ。上京したばかりの頃、帰省を終える度アンニュイな気持ちを抱えて東北新幹線に乗り込んだ。東京駅で東海道線に乗り換える。新橋、品川、川崎...と流れる駅標を眺めていると、徐々に気持ちが現実に引き戻され、明日を生きる決意が固まってくるのを感じていた。自転車で走るこの道は、あの頃の東海道線に似ている。
彼のマンションから私のマンションまでは1kmとちょっと。東海道線が東京駅から戸塚駅に着くよりもだいぶん速く、自転車はマンションに到着した。夜風の気持ちよさに名残惜しさを覚えつつ駐輪場に自転車を停め、運よく来ていたエレベーターに乗り込む。自室に入る頃にはもう、私は「誰かのガールフレンド」としての私じゃなく、「週末のOL」の私だ。
おやすみ、今週もよくがんばりました。明日からまた1週間、がんばろう。
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![山桜桃 えみ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23978172/profile_7f69b3b3ac325c4d54036f9f21a91479.png?width=600&crop=1:1,smart)