見出し画像

1.5-30 閉幕

「デイジー!しっかり。どうして!?」
デイジーを受け止めたトロンの腕からは血が流れ、床のオリエンタルな模様の絨毯を赤く塗り潰していく。

「血が、リソースの流出が止まらない!」
トロンがデイジーの胸を抑える。
開いた傷からは、閉じる気配がない。
「なんで、私のトランザクションが効かないの!?」

「それはねぇー。ボクが無効化してるからだよ」

「なぜ!?そんな事をするの!」
「あなたは、私にちからを貸してくれているんじゃないの!」
キッと、ジャスティンを睨むトロン
その瞳からは、涙を流し鬼の様な表情を浮かべていた。

「こわいなぁ」
「そういうとこだよ?」
「ほら、ボクを全然敬っていないじゃないか」
あははと、顔に手を当てながら、笑いを抑えようともしないジャスティン。
その口は、笑みを浮かべていた。

「ときに、彼女だけにかまけていていいのかい?君も標的なんだよ?」

「えっ」
先程とは比較にならない銃弾がトロンとデイジーに殺到した。
咄嗟のことで、トロンはデイジーを抱え込み全ての弾丸をその身に受けた。
ちからなく倒れるトロン。

「どうし、て?」
声が聞こえる。
何十何百という声が。

「預けたリソースを返せ!!」

「信頼したから任せたのに!いつでも引き出し出来るって」

「子育てのリソースだったのよ。今、必要なの。返して!」

聞こえる声は、どれも聞いたことがあった。
トロンが契約し、リソースを預かった者たちだった。

「あなたたち、」
血を吐きながら、顔をやっとの思いであげ視線を向ける。
その眼光が鋭かったのか、皆が一歩引き下がる。

「私達の、夢。レルム構想に。納得していたじゃ、ない」
絞り出すように、睨む様に。
言葉を紡ぐ。

「レルムなんて、うそだろ!!俺たちを焚き付ける為の!」
「全てのリソースを自分達で持ち去る気だろ!」
「このポンジめ!さぎ!」
次々に浴びせられる罵声
そして、投石。

「はーい、石はこちらだよっ!」
「さすがに、勢いならば銃もいけるけど覚悟が必要だ。多分にね」
「お手軽にみんなの不満をぶつけたらどうかなぁ?」
「あー、ご安心を。この石は、ボクのトランザクションで柔らかくしてあるからさ」
そう言って、一人一人に石を渡していくジャスティン
もちろん、嘘である。

人々が投げる飛礫がトロンに当たるたびに、彼女の肌が真っ青に腫れ上がり、その上で鈍い出血をしていく。
手から流れた血とは対照的に赤黒く彼女を染め上げて行った。

それでも、その視線は落とさず。
そして、デイジーを強気抱きしめていた。

「わたくしたちを出しなさい!何が起こっているのよ!?」
ソラナ達がいる空間は、黒く隔離されていた。

「んー。そろそろいっかな?」
そう言うと、パチンっと指を鳴らすジャスティン。
黒い空間が解除された。

ソラナ達が目にしたのは、無惨に腫れ上がり、肉が剥がれ落ちたトロンに抱かれたデイジーと、その前で立ち尽くす人々。
そして、ジャスティンだった。

「だれが、こんなっ!!貴方なの!」
そう言いながら、ソラナはバイオリンケースを開け、中からサブマシンガンFN P90を模した兵装を取り出し銃撃を放った。

全ては、彼の前で弾かれ弾は地面へと転がり落ちたが。

「随分とバイオレンスだなぁ!キミは!」
「ソラナだっけ?アラメダの」

「元、よ!それより、貴方なのかしら?」
弾丸が効かないと見ると、バイオリンケースを分解し兵装へと集約。
銃口は、大きくなり、そのうちには大きな鉄塊が詰まった姿へと変貌していた。

「どうな、のっ!」
一足で距離を詰め爆音を放つ。
激しい煙を上げ、赤色になった鉄杭がジャスティンのシールドを貫き彼を串刺しにしていた。

「かぁはっ!いったいなぁ!だが、これもたまには。なるほど」
そういって、口から吐いた血を舐めとる様に自身の唇を舐めて笑みを浮かべる。

「この、ど変態!」
言葉を放ちながらも、鉄杭を放った兵装を手放し、腰のナイフを引き抜き切り掛かるソラナ。

それを危なげなくシールドで防ぐジャスティン。

「っと、さっきのは驚いたけど、そんな貧弱な火力でどうにかなると」
防ぎながら、彼も言葉を紡ぐ
ソラナに貫かれた腹部は、目で見えるくらい破損した部位は、今は何事もなかった様に再生していた。

「というか、キミ!人の話を聞きなよ。ボクが上位者じゃなきゃ、勘違いで人殺しをしていたんだよ」
そう言って、指を鳴らした。
ソラナの前で、大きな爆音と光が発生した。

「ったぁ」
ソラナは、衝撃で吹き飛び、姿勢を一時的に崩すも天性の体幹ですぐに持ち直し地へと足をつけナイフを構えたまま、ジャスティンを見据える。

「貴方では無いというの?」
姿勢は、そのままに質問するソラナ

「そうだよー。彼女達をあんな姿にしたのは、彼らさ」
そう言って、人々の方へと手を広げ
まるで、オーケストラメンバーを紹介する手軽さで彼らを指し示した。

「あなた達が?」
ソラナの鋭い視線と言葉を受け、彼らは萎縮する。
そして、今更ながら自分達の行った結果に目を向けさせられ。
目を伏せる。

沈黙が続く。

「何か、言ったらどうなのかしら!?貴方達。喋れますでしょ!?」
口調は、丁寧だが詰問する様に尋ねるソラナ。

「、なかったんだ」

「何ですの?聞こえませんわ!」

「こんなになるとは、思わなかったんだ!」

「」
これには、ソラナも言葉を失なった。
彼らは、ちからを振るった事を認めた。

なるほど。

そこに理由は、あるのだろう。
しかし、彼らは、振るった結果を否定した。

振るわれるちからには、その結果を伴う。
それは、戦い続けてきたソラナだから、わかる倫理だった。

だが、彼らは、それを否定した。

残されたのは、ただの無責任な暴力だった。
その結果を直視するものもいなければ、意味や責任を負う物もいない。
そんな、無責任なちからの行使。

「正気なの?」
彼らに侮蔑の瞳を向けるソラナ

「はははっ!傑作だろ!?」
「こうやって、わるものを決めて、叩いて喜ぶんだよ。彼ら!今も昔も、全然変わってないじゃ無いか」
笑いを止め、急に真顔になりポツリと呟く。

「まるで、僕らみたいだよ。救いがないね」
そう言って、スーツの上着を正すとソラナ達に背を向け消えた。

「ちょっと!どこにいくのよ!」

「興が冷めた。帰るよ」
虚空から声がしたと思うと、気配すらも消えていた。

「ダメ。トロンちゃんは、もう」
そう言って首を振るエブモス。
彼女は、ソラナがジャスティンを迎撃する為に走り出したと同時に彼女達の元へと向かっていたのだ。
治療の為。
助かる可能性に賭ける為に。

何か理由はあったのかもしれない。
それが、彼らにとって大切な事だったかもしれない。
だが、だからと言って、こんな風に失われていい命などない。
その思いが、エブモスを走らせたのだった。

トロンは、すでに息絶えていた。
しかし、その表情は穏やかで。
愛しいものを抱き止める様にデイジーを抱いていた。

デイジーは、彼女が庇ったおかげで胸の傷のみがあるだけであった。
その傷もよく見たら、かすり傷。
小さな花火が胸元で弾けたような傷だった。
そこからは、滲む様に少量の血が垂れていだけだった。

いいなと思ったら応援しよう!