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1.5-12 共同戦線

「先ず、デイジー達がトランザクションを発動出来ない様に場、ExA本社を改変している。これは、知っているかな?」

「えぇ、知ってるわよ。おかげで、侵入者が現れたときも、取り逃がしてしまいましたわ」

「あそこまで動けて、トランザクションの発動無しなんて!なかなか出来るものじゃないよ」

「何を偉そうに。あなたは、へばっていただけじゃない」

「それを言われると、僕は、何も言い返せないなぁ」
「むしろ、力の無い意識体にとって、あれが普通だよ。キミ、胆力どうなってるの?」

「力を持っていないからといって。自分の対応が平均的だと、正当化しないでくれるかしら?」
「わたくしのパートナーのエブモスは大したものよ!」
「力も無いのに、志だけでわたくしに立ち向かってきたわ」

「ソラナちゃん、はずかしい。それと、それ長くなるやつだよ」

「そうね。この話は、また今度にしましょ。リックにも聞かせてあげるわ!」

「うん。そのときは、コーヒーでも淹れよう。ゆっくりと話を聞かせてもらうさ」

「よろしい」

「で。デイジー達のホームではトランザクションが使えないんだ。大きなハンディなんだ」

「デイジー達も、使えないのでしょ?」
「そこは、土俵は同じじゃなくて?」

「いや、彼女達は使えるんだ」

「何それ!ずるーい!」

「そう、ずるいんだ」
「トロンがチェーンを空間ごとリンクさせビルに巻き付けているおかげで、彼女はトランザクションを使うことが出来る」
「だから、戦闘になったら先ず勝ち目はないと思ったのだが」
そう言って、ちらちらとソラナを見るリック

「何よ?言いたいことがあったら、言ったらどうなの?」

「率直に言おう。キミに、戦力になってほしい!」

「いいわよ」
「で、あなたは何が出来るのかしら?」
「共同戦線なのでしょ?互いに持ち寄るものがなくてはね」

「もちろん、あるさ」
「そこに2つの玉があるよね」

「えぇ、それがどうしたのかしら?」

「それを使って、トロンの行動を先読み出来る」

「すごいじゃない!でも、あなた。その割には、会場でウロウロとしていたわね」

「それなんだけど。実は、彼女がトランザクションを使用する。または、コントラクトを組んでいるときじゃないと検知出来ないんだ」

「だめだめじゃない!」
「却下よ、却下」
「それじゃ、お荷物よ」

「ソラナちゃん、厳しいんだよっ!」

「あのね。エブモス。戦場になったら、あなた1人守るのが精一杯よ。それ以上、確実に守り切る自信はないわ」
「だったら、はじめから、連れて行かない方がいいわ」

「厳しいなぁ。ただ、その通りだから否定は出来ないよ」
「でも、逆にトランザクション発動時の挙動はわかる」

「それがどうしたのよ?」

「リソースを集め、彼女が成したいことを成すためには、コントラクトとトランザクション。必要だとは思わないかい?」

「トロンの目的は、リソースの簒奪ではないというの?」

「それは、過程さ」
「過程には、目的がある」
「少なくとも、デイジーは目的を名言していたはずだよ?」

「デイジーさんの目的?」
エブモスが首を傾げる。

「あっ!わかった」
「レルムだね!ExAレルム」

「そう、それだよ」

「ところで、レルムって、なぁに?」

「あなた、知らないで言っていたの?」
呆れるようにソラナが言う

「うん!で、レルムって何?ソラナちゃん」

「レルムはね。主君の支配する共同体を意味するのよ」
「わかりやすく言ったら、国ね」

「国!?」

「そうよ。外宇宙、上位者の世界の概念よ」
「中央集権とも言うわ」

「中央集権!?敵?」

「エブ子ちゃん。中央集権だけれど、敵ではないわ。非中央集権。私達と思想が違うだけよ」
「それに、中央集権も良いところはあるわ」

「ほうほぅ」
「どんな良いことがあるの?オズモさん」

「そうね。主君がいる事で、物事がすぐに決まるわ。迅速な舵取りが出来るの」
「だから、新しいものを作ったりするとき、素早く作る事が出来るわ」
「それに、君主が名君ならば、その集団は富み幸せと栄華を極めるわ」

「なんと」

「でも、それは、独裁じゃなくて?お姉様」

「独裁よ。ただね。昔の言葉に『明るい独裁者が良い国を作る』なんて言葉もあるのよ」

「流石、お姉様ね!わたくし、それは存じませんでしたわ」
目を輝かせて、オズモを見つめるソラナ

「ソラナちゃん。さすがにそれは、盲目だとわたし、おもうんだ」

「あによ。エブモス。やるの?」

「2人とも、そこまで。でも、今の図式。いいわね」

「お姉様!」

「そう。これが、『独裁』よ。皆んながソラナちゃんみたいにひとつの方向を向いてしまうの」
「それは、強さでもあるけれど。脆さでもあるわ」

「お姉様」

「エブ子ちゃんみたいな意見がある事で、間違った方向に行こうとしたものを正す事も出来るの。それが出来ないのが『独裁』よ」

そう言って、オズモは、軽くウインクをした。

「その『独裁』を行う為に、思想に対する干渉をトランザクションで強制的にする。そういう事でしょ?リックくん?」

「流石、コスモスの頭脳、オズモさんですね。その通りです」

「それを検知するのに、あなたの力が必要ってことね。なら、よろしく頼めるかしら?」

「こちらこそ!」
「さぁ、これで、文句はないだろ?」
「僕は、役に立つぞー」
そう言って、ソラナを見るリック

「わかったわよ。連れていけばいいんでしょ?」
「お姉様の推薦も、あるし」
そう言って、気だるげに答えるソラナ
正直乗り気でないのが一目でわかった。

「ソラナちゃん。乗り気じゃないのが丸わかり」

「だって、お姉様!」

「うんうん。仕事が増えちゃうものね」
「そんなソラナちゃんに、私の分身を貸してあげる」

「お姉様の分身!?貸して頂けるのですか!」
一瞬はっとなり、しかし、ソラナにとっては破格の条件だった。
憧れのお姉様のひとかけらを貸してもらえる。
それは、彼女の妄想力を刺激した。

『行くわよ、ソラナちゃん』
『はい!お姉様!』

『『今、必殺の!』』

「ソラナちゃーん、戻ってきて〜」

「はっ、わたくしは?」

「ずーっと、ぼぅっとしてたよ!」
「分身の下あたりから」

「行けませんわ。わたくし。お姉様を伴侶として頂けると考えたら」

「ソラナちゃん。伴侶には、ならないわよー」

「えぇっ!そういう話ではなかったのですか!?」

「ソラナちゃんは、オズモさんが絡むと途端にポンコツになるね。いや、面白い!」

「なっ!リック!!だれがポンコツよっ!」

「あはは、ごめんごめん」

「ごめんに誠意が感じられませんわ!」

「オズモさん、分身ってなぁに?2人になれるの?」

「まさか!?これのことよ」
そう言って、オズモは、エブモスに大きな剣の鞘の様なものを渡した。

「これは?」

「精神感応機構を搭載した銃身よ」
「通称、AMM」
「使い方を工夫すれば、防御にも使用できるわ」
「ソラナちゃんのコントラクトを使えば難なく制御出来るはずよ」

「ありがとうございます!お姉様!」
感極まり、泣き始めるソラナ。

「いや、いうてこれ、武器よ?もっと違う想像していたんじゃないのかなぁー!?」
リックが揶揄う様に言う。

「リック。あなたは、勘違いしているわ」
「お姉様から、頂けるものは、全て。等しく価値があるのよ」
「それに、このフォルム。まるで多才なお姉様を表している様で」
そういいながら、AMMに頬擦りをするソラナ

「まぁ、キミが良ければいいと思うよ」
少しだけ呆れ顔のリック

「後、エブ子ちゃんには、こっち渡しとくわね」

「指のところが空いてる手袋?」

「いいでしょー。ロックで!」

「ロックって、何の役に立つんだよ。エブモスがバンド始めるわけじゃないんだぞ」
流石に意味がわからずタメ口になるポルカドット

「あら!ポルカ君。いいわね!それ。エブ子ちゃんのバンド!需要あるわー」

「どこにだよ。ったく。で、意味はあるんだろ?」

「もちろんよ!」
「それはね。トランザクションを展開できる手袋よ」

「えっ!!!」

「ただ、制限はあるの。エブ子ちゃん、わかるわよね?」

「うん!手袋にしかトランザクションを込められないんでしょ?」
そう言って、手袋をはめてにぎにぎしているエブモス。

「まぁ、だから気休め程度かしら。でも、ないよりましでしょ?」

「ありがとう!オズモさん」

「どういたしまして、エブ子ちゃん」

「僕には、お土産はないのかなぁ?」

「神経太すぎですわよ!リック」

「だってねぇ。2人だけあって、僕は無いって」

「あるわよ。あなたにも」
「はい」
そう言って、一本の金属で出来た棒を手渡す。
それは、特に何の機構も盛り込まれていない硬質な塊だった。
真ん中に大きな穴が空いた棒がリックに手渡された。

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