
再観測:星を継ぐもの:Episode5-2
Episode5-2:敵艦隊との決戦
暗黒の虚空で白黒の空間を割るように浮かぶ小さな扉を、アリスの干渉力によって無理やりこじ開けた結果、カインをはじめとする円卓騎士団の4機(アーサー、ガウェイン、トリスタン、カイン&アリス)は、まばゆい虹色の閃光のなかへ飲み込まれていった。
コクピット内で激しい振動が走り、外部カメラは閃光とノイズに塗り潰される。カインは操縦桿を両手でしっかり握りしめながら、「アリス、気をしっかり!」と叫ぶ。ヘルメット越しに聞こえる彼女の呼吸は乱れており、先ほどまでの戦闘と干渉による負荷が限界に近いことをうかがわせる。
アリス「は……はい……大丈夫。あと少し……耐えて……」
アリスの脆くも必死な声が聞こえた瞬間、視界に急激な暗転が訪れ、かと思えばまた別の空間が一気に開けてきた。まるで分厚い雲を突き破ったかのように、黒と青がまじり合う星々の壮観な風景が一瞬で広がる。
そこには……宙を駆ける無数の艦影が見えた。紛れもなくThe Orderの艦隊とおぼしき巨大戦艦・中型艦・無数の護衛ドローンが、きらめく星海を背に整然と並んでいる。数で言えば数十隻規模はありそうだ。
「な……なんだあれ……こんな艦隊が隠されてたのか……」
ガウェインの呆然とした声が通信に乗る。彼の機体(ガラティーン)から見る限り、まるで**“要塞艦隊”**と呼ぶにふさわしい大編成が、異次元の宙域に静かに存在しているのだ。
アーサーが低い声で言い放つ。
アーサー「どうやら、我々が奥へ踏み込んだのを察知したらしい。……まさかこれほどの規模とは」
トリスタンはライフルを構えたまま、レーダーを回しつつ「敵艦艇のスキャンが異常を示している……通常の宇宙船とは構造が違う。あれがThe Orderの本格的な艦隊なのか」と唸る。
一方、カインは操縦桿を必死に調整し、銀の小手(Silver Gauntlet)の姿勢を整える。彼のコクピット隣にホログラムで映るアリスは、乱れた呼吸を整えながらも、計器を解析していた。
アリス「あの艦隊……観測光を推進や攻撃に用いた艦を大量に揃えてるみたい。融合兵ともまた違う、より巨大な組織的戦力かもしれない……」
「これこそ“敵艦隊との決戦”になるんだな……」
カインが思わず苦笑じみた声を漏らす。前方には見渡す限りの戦艦群が重厚なシルエットを描き、機関部から青白い観測光が放出されているのが分かる。大きいもので全長数百メートルはありそうだ。戦闘機やドローンも周囲を飛び交い、統制された隊列を組んでいるように見える。
「こりゃ大したものだ……まともに戦えば勝てるのか?」
ガウェインが盾を片手に怯んだ声音を出すが、アーサーは短く答える。「やるしかないさ。ここまで来て引き返せば、今までの苦労が無駄になる。そして、この艦隊を突破しなければ小宇宙の最深部には行けないだろう」
「わかった……やるぜ!」
ガウェインも覚悟を決め、トリスタンが「配置につく」と呟く。
カイン「問題は数だ。このまま4機だけじゃどうしようもないだろう。一気に大艦隊を呼び込めるのか?」
しかし、ここは扉を複数回抜けたうえに、更に奥の小宇宙宙域。地球側の増援を呼ぶにも時間がかかり、そもそも扉の不安定さがある。アーサーが静かに首を振る。
アーサー「すぐには増援も期待できないな。だが敵艦隊が動き出す前に手を打たねば。……最初の一撃で指揮系統を叩けば混乱を誘えるかも。アリス、敵艦の中でも司令艦クラスを探せるか?」
アリスは計器を操作し、「やってみるわ……観測光波長が強く集中してる艦が何隻かある。特にあの中央の大型艦……多分旗艦」と示す。そこには周囲よりひと回り巨大で、コア部分に異常なまでの観測光反応を抱えた艦の姿が見える。
円卓騎士団は一致して、その旗艦を最優先で叩こうと合意する。この広大な敵艦隊相手に正面からぶつかっては多勢に無勢。指揮艦を仕留めれば混乱が広がり、突破口が開く可能性がある。そう信じて、4機は限界を超えた一撃を準備する。
2.戦端を開く:奇襲アプローチ
広大な宙域に浮かぶThe Order艦隊は、まだ完全な警戒態勢ではないように見える。円卓騎士団の編成がわずか4機だと舐められているのか、それとも惑星外の存在を本当に感じられていないのか。
アーサーが短く指示を出す。
アーサー「いいか、ここで一斉に仕掛けるぞ。まずは近づけるだけ近づいて、旗艦への集中的な火力を叩き込む。数分以内に仕留められなければ、こっちが袋叩きになる」
「了解……全速で突撃か。やるしかない!」
カインは操縦桿を握り締め、アリスの演算に期待する。ガウェインとトリスタンも相互フォローの形をとり、銀の小手とエクスカリバーが先頭を走る。
星海の闇を切り裂くように、一気に加速する4機。あまりに大胆な突撃に、敵艦隊が気づくのは秒のうちだった。艦影のあちこちでランプが点灯し、ドローンや戦闘機の発進シルエットが見える。だが、こちらはその動きより先に旗艦付近へ近づくことを狙っている。
「ゴォォ……っ」
カインがスロットルを最大にして銀の小手を飛ばす。後方にガウェインが盾を構えて追走し、アーサーは上方から被発見を遅らせる軌道を取る。トリスタンはさらに後方で狙撃態勢を整え、いざという時に旗艦を撃ち抜く計画だ。
敵ドローンが群れを成して迎撃に出てくる。観測光ビームが雨のように降り注ぐが、騎士団は左右に分かれて散開し、ミサイルを撃ち込みつつ回避。早期迎撃部隊を蹴散らして加速を維持する形だ。
カイン「アリス、耐えてくれ……! もう少しで旗艦に近づける!」
アリス「うん……大丈夫……! 観測光を一時的に乱して、敵の砲撃精度を狂わせる……!」
アリスの干渉力が炸裂し、敵艦から放たれるビームの軌道が微妙にブレる。ガウェインが盾を用いて受け流す部分を最小限に留め、アーサーは剣ビームでドローンを叩き落とし、トリスタンが冷静にコアショットを決めて援護する。
こうして、最小限の被弾で旗艦まで突入できる目処が立った。敵艦隊が大慌てで迎撃陣を組もうとしているが、騎士団の速度は予想を上回っているらしい。すぐ間近に巨大な戦艦の船体が見えてきて、その中央に観測光のエネルギーコアらしき発光部が確認できる。
3.白兵戦を想起させる:旗艦への突入攻撃
「突撃か? まさかこんな大艦を4機で沈められるのか?」
ガウェインが大声で疑問を呈するが、アーサーは剣を握りしめ、「私たちしかやれないだろう。これまで何度も無理を通してきた」と力強く告げる。トリスタンは高火力モードのライフル弾を装填、カインは銀の小手のキャノンとミサイルをフルチャージさせる。
手順は簡単――旗艦のコア付近に一気に取り付いて集中攻撃を仕掛ける。観測光を媒体にして稼働する艦なら、そこを破壊すれば指揮系統が崩れる可能性が高い。だがもちろん、旗艦は多彩な砲台やドローン護衛を有しており、甘い相手ではない。
突入の合図とともに4機が戦列を組み、圧倒的な火力で旗艦周辺の護衛ドローンを蹴散らす。銀の小手のミサイルポッドが唸り、連射される爆弾が敵ドローン群をまとめて爆発に巻き込む。ガウェインが盾で中心突破し、アーサーが剣ビームで砲台を次々に落とす。
いくつかのビームを受けながらも、トリスタンが要所を狙撃して援護。こうして、旗艦の装甲近くまで接近を果たすことに成功するが、そこは一筋縄ではいかない。艦自体が観測光のバリアを形成しており、砲撃が弾かれてしまう。
「アリス、干渉を頼む!」
カインが叫び、アリスが波長干渉を旗艦バリアに当てる。バチバチと激しいスパークが起き、バリア面が波打って一部が薄くなる。「今だ、アーサー卿!」とカインが合図すれば、アーサーが渾身のビーム斬撃を叩き込む。裂け目が広がってバリアが弱体化し、ガウェインが突撃形で船体を叩き破り、船体表面を大穴に開けることに成功した。
「通った……! ここから内部に狙いをつけるぞ!」
ガウェインは気合を入れ直す。アーサーが「よし、コアを狙う!」とさらに制御ブロックへ撃ち込んでいく。トリスタンの射撃が外部砲台を封殺し、カインが銀の小手のキャノンで船体の深部を穿つ。
しかし、そのまま攻略とはいかない。艦内部で観測光を操作する守備システムが激しく対抗してくる。あちこちからビームが噴き出し、船体から小型メカが溢れてくる。円卓騎士団は狭い船体周辺での乱戦を強いられ、爆発や火炎が闇を染めていく。
「くそっ、装甲が分厚いな!」
カインは必死に砲撃しながら嘆く。アリスの干渉力でバリアを半壊まで持っていったが、内部構造まで破壊できるかは未知数だ。ここに時間をかければ、周囲の敵艦が押し寄せて袋叩きにされる。時間との闘いだ。
アーサーが構想していた“一撃離脱”の限界が近づく。彼は短く息を飲み、「皆、全火力を集めるぞ。コア近くをまとめて破壊し、一気に爆散させる。再発進の準備を怠るな!」
「了解!」
ガウェイン、トリスタン、カイン――皆の声が通信で重なり、同時にフルパワーで旗艦に攻撃を集中させる。銀の小手がキャノン連射、ガウェインの盾からビーム砲が吐き出され、トリスタンの特大スナイプ弾が炸裂し、アーサーが決定打として剣ビームを船体内部へ突き刺す。
轟音が宙を震わせ、旗艦の中央部が光りながら崩壊を始める。外装が剥がれて炎と爆圧が吹き上がり、艦自体がもがくように傾く。周囲の護衛艦もパニックになり、隊列が乱れるのが視認できる。
「成功だ……一部コアの爆発が連鎖してる!」
カインが歓喜の声を上げると、トリスタンが低く言う。「だが、今すぐ離れろ。巻き込まれる」
円卓騎士団は急速離脱を図り、旗艦から距離を取る。外装にこびり付いていたドローンたちも吹き飛ばされ、轟音とともに船体が上下に裂けながら、大きな閃光を発して四散する。船首部分や武装パーツが破片となって散り、幾何学的な光の尾を引いて消滅していく。
ガウェイン「旗艦、落ちたぜ……!」 アーサー「よし、あとは混乱に乗じて脱出するか。それとも、このまま突破して何かを得るのか……」
カインはモニターを睨んで周辺の敵艦挙動を見張る。案の定、旗艦を失った艦隊は指揮系統に乱れが生じたのか、動きが鈍く、纏まりを欠き始めている。アリスが弱々しく言う。
アリス「このまま他の艦を叩くより、今が逃げ道を探す好機かも……。ここで留まれば、数に飲まれるだけ……」
「確かにそうだな。俺ら4機で艦隊全部を相手にするのは無理がある」
アーサーが短く決断。「よし、突破だ。星海の先へ進む道があるなら、そっちへ行こう。The Orderの艦隊を蹴散らすのが最終目的じゃない。目的は深部への到達だ」
騎士団は破片と瓦礫が渦巻く宙域を縫い、艦隊の混乱スペースを突き抜ける形でさらに奥へ移動開始する。敵艦艇のいくつかが慌てて追撃しようとするが、指揮艦を失った統制は機能せず、足並みが乱れているため一斉射撃には至らない。ここが絶好のチャンスと判断し、カインたちは振り切り速度で星の散りゆく海を突破する。
4.戦闘の余韻と心理的疲労
凄まじい激戦だった。わずか4機で巨大な旗艦を沈めるなど、正気の沙汰とは思えないが、干渉力と円卓騎士団の連携がそれを可能にした。しかし、そこには大きな疲労が伴う。
カインは操縦桿を握りながら息を荒げ、「アリス、大丈夫か?」と問いかける。彼女はかろうじて頭を上げ、「うん……でも、もう演算は……長く続けられないかも」と告白する。
「無理しなくていいさ。とりあえずここを抜けたらいったん落ち着こう。敵艦隊が再編する前に、できるだけ遠くへ……」
視界の向こうには、散り散りになった敵艦隊が遠ざかる。その中心にはまだ幾隻もの戦艦が残っているが、旗艦を失い統率を失っている様子。突如の攻撃に驚き、取り乱しているのだろう。
アーサーから通信が飛ぶ。
アーサー「皆、よくぞ旗艦を落としてくれた。だが、これ以上の戦闘は避けよう。今は一刻も早く、この宙域から離脱して更に奥を探るか、もしくは一度拠点へ戻るかだ」
ガウェインが盾をよろめかせながら、「戻る余力はあるか? あんな道を二度も通るのはゾッとしないぜ」と苦笑する。トリスタンは静かにレーダーを眺めて、「どうやらあの辺りに光の道がある……扉やゲートのように見えるが、確証はない」と指摘する。
カインとアリスがそちらをスキャンすると、かすかに緑色の光柱が宙に浮いており、その先はまたも未知の領域に繋がる兆しを示している。
「戻るか進むか……もう決断しないと」
カインが悩む。アーサーは少し迷った後、周囲の声を聞き、頷くように言葉を続けた。
アーサー「アリスがこれ以上戦えないなら、戻るしかない。しかし敵艦隊は散らばっていて、いまが最大のチャンスかもしれない。どうする、カイン? アリスは本当に行けるか?」
コクピット越しにアリスは眉を潜め、苦しそうに笑う。「今はもうほとんど演算力を使い切ってる……でも、あの緑の光……何か、私を呼んでいる気がする。行きたい」
ガウェインは唾をのむ。「無茶言うな。死にに行くようなもんだぞ」
トリスタンは黙しているが、ライフルを握る手に力がこもっているのを感じる。カインは複雑な心境で答えを出す。
「分かった……行こう。ここまで来て引き返すのも不完全だ。俺たちには時間がない。The Orderを倒すなり、ユグドラシル・モデルを知るなり――やるべきことがあるんだ」
アーサー「よし、ならば決まりだ。敵艦隊の残存が追いつく前に、あの光柱へ突入しよう」
こうして円卓騎士団は決断を下し、再びスロットルを吹かして進み始める。旗艦を沈めた戦場を後にし、破片と残骸が舞う宙域をまっすぐ突き抜け、緑色の光が浮かぶポイントを目指す。
5.鉄塵と溶岩の海――巡る艦残骸群
緑の光柱が近づいてくると、周囲は急激に色彩を変えていく。宙には鉄塵とも言うべき金属の微粒子が大量に浮遊し、ところどころ赤い溶岩のようなマグマ塊が漂っている。それらが混ざり合いながら巨大な塵の嵐を形成し、視界を遮っている。
「これ、大丈夫か……視界ゼロだぞ」
ガウェインが不安を露わにする。トリスタンはスコープがノイズまみれで機能不全を起こし、「狙撃できない」と苛立ちを隠せない。アーサーも剣を握り直し、「とにかく突き進むしか……」と返す。
そんな中、アリスがコンソールを解析しながら声を上げる。「ここ、敵艦隊の残骸や破片が大量に漂ってるみたい。あるいは私たちが沈めた艦とは別に、古い戦争の痕跡かも……」
カインが周囲を凝視すれば、確かにいくつかの残骸がドローンや艦の形をしており、所々にThe Orderの紋章のようなものも見える。かなり昔の艦隊の亡骸が星の海を彷徨っているのかもしれない。
「これだけの残骸があるということは、ここで大規模な戦いがあったのか。それもThe Order同士か、あるいは別次元の勢力かわからないけど……」
アーサーが静かに推測する。ガウェインは思わず「バケモノ同士が潰し合ってくれてたんなら助かるが……」と苦笑する。トリスタンは依然として警戒を続け、「この塵の嵐の先に何が潜んでいるか分からない。慎重にね」と低い声で告げる。
やがて濃厚な塵のカーテンを突き抜けたとき、宙に浮かぶ複数の艦影が見えた。壊れて停止しているように見えるが、一部は灯りが点滅し、まだ生きている節がある。
そう――まるで幽霊艦隊のように、朽ちかけたThe Orderの戦艦が何隻も並んでいるのだ。大半が機能停止状態だが、先端砲台がゆらりと動き出し、こちらを捕捉しようとする気配がある。
「……また戦いか。でも数が少なくて助かるな」
カインが操縦桿を握りながら呟く。周囲には鉄塵とマグマ塊が舞っており、その艦たちも満身創痍の様子。やや近づいただけで艦殻がボロボロなのが分かる。しかし砲台はまだ生きているかもしれず、油断ならない。
アーサー「敵が気づいたぞ、砲撃が来る! 急いで回避しろ!」
案の定、艦首砲が低い振動を発し、古びた観測光ビームがこちらへ発射される。古びているとはいえ、当たれば大ダメージは避けられない。騎士団は散開機動で回避しながら反撃に転ずる。
トリスタンのスナイプは相手のボロい装甲を簡単に貫通し、艦がどす黒い煙を吹き出す。ガウェインが盾で砲撃を受けながら接近し、アーサーがビーム斬撃で船体を切り裂く。カインもキャノンで司令ブリッジを破壊し、艦内部の動力を沈黙させる。
死にかけた艦が軋むような音をたてて崩壊していく。連鎖的に隣接する艦も内部爆発を起こし、真っ赤なマグマ塊を巻き込みながら沈んでいくかのように星海に溶けていく。
こうした亡霊のような艦隊を相手に短い戦闘が繰り返され、騎士団は何隻かの艦を葬り去る。すでに攻撃意思がない艦は放置し、残骸の森を切り抜けていく。
6.再会:本隊が姿を現す
なんとか幽霊艦隊のゾーンを抜けていくうち、宙域がまた広がりを取り戻し始める。黒い塵が減り、代わりに淡い青い星屑のキラメキが増えてくる。カインは「ふう……」と長い息をつくが、アリスの声が震えているのを感じる。
アリス「カイン……ごめん……もう演算がキツい……あとどれくらいでゴールなんだろう……」
「分からない……でもここまで来たなら、もう少しじゃないか? うまくいけば、ユグドラシル・モデルかThe Orderの中枢があるはずなんだ」
アリスは苦笑して「そうね……信じたい」と小さく零す。
ところが、そんな淡い期待を振り払うかのように、新たな危機が迫る。先ほど沈めた艦隊は所詮“亡霊”でしかなく、ここで出現したのは明らかに現役の大艦隊――先ほど撃破した旗艦などとは別の指揮下にある部隊なのかもしれない。
遠くの宙域に複数の巨大艦が連なり、観測光の砲口をこちらへ向けていた。アーサーが「まさか……まだこんなに大規模な艦隊が……!」と驚く。
ガウェインが盾を握り直し、「旗艦を沈めたのに、別働隊がいるってのか。こいつはヤバいな……」と愚痴を零す。トリスタンはスコープを覗き込みながら、「かなりの数だ。さっきの艦隊と同規模か、もしかするとそれ以上……」と唸る。
カインは思わず絶句する。これほどの艦隊にまた正面からぶつかるのか? 自分たちだけで立ち向かえる限度を超えている。アリスも悲鳴じみた声で「これ……どうする……」と問う。
そこへアーサーが、かすかな期待をこめた言葉を放つ。「――もしかしたら、我々だけじゃなく、地球側の部隊も扉を抜けてくるかもしれない。モルガンたちがあとを追って支援に来ている可能性がある」
ガウェイン「そうだな。俺たちが旗艦を落とした報告があれば、モルガン隊長がなんとか扉を安定化させて増援を出してくれるかも」
「それまで持ちこたえるんだ。星海の宙域で艦隊相手に防御陣を作るのか……」
カインは複雑な気持ちで口を開く。アリスが干渉波を起動し続けられれば、そこそこ時間を稼げるかもしれないが、もう彼女は限界だろう。どうする――。
7.限界戦闘:円卓騎士団の陣形防衛
敵艦隊がじわじわ接近し、砲撃を開始する。観測光の光条が星海を切り裂き、紫や青のビームが何本も走ってくる。4機の小小な戦力で、これをいかに防ぐのか。
アーサーが言葉を発する。「皆、陣形を縮めてエネルギーを集中防御。ガウェインが盾を張り、トリスタンが狙撃で砲台を潰し、カインと私が連携で干渉力を活かして砲撃をずらす。……耐えるんだ。増援が来ることを信じて」
「了解!」
ガウェインは盾を展開し、前列に立つ。トリスタンは後方高所から正確な射撃を行う。カインは銀の小手で適宜干渉力を放ち、敵のビームの射線を乱す。アーサーがエクスカリバーの剣ビームで弾幕を切り裂く。
凄まじい熱量と衝撃波が宙を満たし、4機の周囲を光弾や爆発が取り巻く。機体は軋み、警告アラームが次々に鳴る。しかし、奇跡的に致命傷を避け続ける円卓騎士団。何度も重そうな砲撃がガウェインの盾に直撃し、火花を散らしながらも寸前で耐える。トリスタンの狙撃が敵艦の主砲をいくつか破壊し、アーサーの斬撃がビーム波を弾き飛ばす姿は壮観だ。
「はあ、はあ……」
カインは呼吸が荒く、アリスがほとんど気絶寸前の状態で干渉力を動かしているのを感じる。もう本当に時間がない――自分たちも数分以内に限界だろう。
敵艦隊も騎士団を一撃で倒そうと砲撃の数を増やしてくるが、こちらの立ち回りで要所を潰しているため、敵側も苦しんでいる様子だ。
ガウェイン「ちっ……もう盾が保たん! そろそろ限界だ……!」
アーサー「もうしばし堪えろ。増援が来なければ……我々が最期だ」
その言葉を聞いた瞬間、星海の背後から強烈な閃光が走るのを、カインは見た。遠方に扉のような紫の光が開き、そこから無数の青いビームが飛び出して敵艦隊を背後から打ち据えている――!
「援軍……だ、間違いない!」
ガウェインが歓喜の叫びを上げる。星海の暗黒を切り裂くように、神官隊や護衛隊、さらには王国大艦隊の小中規模部隊が姿を表す。モルガンが見事に扉を安定化し、こちらへ増援を送ってくれたのだ。
モルガン(通信)「円卓騎士団、聞こえる? 大丈夫!? こっちはあとを追って入ってきたわ。そちらが限界に近いのは知ってる! すぐ援護する!」
「モルガン隊長……よく来てくれた!」
カインの胸には安堵が広がる。神官隊の支援ビームが青い波を描き、敵艦隊後列を各個撃破し始める。地球側の艦船が次々と出現し、観測光と魔法的兵器を併用した砲撃を加えることで、The Orderの艦群は前後から挟み撃ちにされる形となる。
アーサー「皆、ここで一気に敵艦隊を押し返すぞ! モルガンが神官隊の支援を送ってくれた! 今が決戦の時だ!」
ガウェインが「おう、やってやるぜ!」と盾を振り上げ、トリスタンが「了解、仕留める」と低く応じる。カインも操縦桿を握り直して、「アリス、最後の力を貸してくれ」と声をかける。アリスは辛うじて微笑んで「うん……最後まで……」と答える。
8.敵艦隊との総力戦:光弾と観測光が乱舞する宙域
こうして王国大艦隊の増援が加わり、小宇宙の星海が一気に戦乱の場と化す。地球勢が後方を制圧し、円卓騎士団が正面から牙を剥く形で、The Order艦隊は真正面と背面の両面攻撃を受ける。指揮系統が乱れ、一斉に散開・混乱を起こしながら防御にまわる。
しかし敵は圧倒的な物量をもって反撃し、観測光の大規模砲撃を幾度も繰り出す。まるで天変地異のように紫や赤のビームが星の海を貫き、爆発が連鎖する。地球側の艦も被弾し、炎上するシーンが各所で見受けられる。
カイン「くそっ、味方艦が被弾してる。早く敵の主砲を潰さないと……アリス、もう一押しだ。頼む」
アリス「うん……頑張る……干渉力で敵の砲撃をずらす……」
銀の小手から放出される干渉波が強烈に戦場を攪乱し、敵艦隊の精度を崩す。アーサーがエクスカリバーで大きな戦艦の船腹を切り裂き、ガウェインが盾で吸収した砲撃を逆利用して艦橋に一撃を食らわせる。トリスタンは遠距離から中央の指揮艦を打ち抜き、モルガンが率いる神官隊が後方で観測光バフや治癒魔法を投射し、負傷艦を回復する。
華々しい砲火の中で、宙を漂う破片や残骸が乱舞し、爆音が星海を震わせる。まさに宇宙戦争を思わせる光景だが、ここはあくまで小宇宙の深部。物理法則が不安定ながらも、今は地球勢の戦力が十分活かされている。
長時間の砲火が続き、ついにThe Order艦隊が壊滅的な損害を被り、指揮能力を失う。地球側に被害艦もあるが、総じて優勢な形で戦線を押し上げることに成功した。
カインは操縦桿を揺らしながら、周囲に漂う無数の光を見やる。アリスが最後の力を振り絞って敵艦バリアの制御装置を分析し、幾隻かを沈めやすくしたのも大きかった。今や戦いはほぼ決した、と言っていいだろう。
「これで……終わり……なのか?」
ガウェインが肩で息をしながら言葉を吐く。アーサーも「艦隊規模ではまだ数隻が散らばってるが、もう抵抗はできまい。あとは掃討するだけだろう」と落ち着いた様子だ。トリスタンも荒い呼吸で「皆、よくやってくれた」と頭を下げる。
一方でカインは心配げにアリスのホログラムを見つめる。彼女は限界を迎え、ほとんど意識が朦朧としている。
アリス「ごめん……もう、演算は……できない……」
「大丈夫、休め。もうここまでだ。あとは俺たちが大丈夫なようにするから」
カインは安堵を噛みしめながら、アリスをいたわる言葉を投げる。そして周囲を見ると、モルガンが率いる大艦隊が宙を支配しており、残存する数隻の敵艦を包囲しながら降伏を促しているような光景が見える。
9.決戦の果て:星海にて築かれる新たな陣地
決戦はほぼ終結した。The Order艦隊の大半が撃沈、或いは機能停止に追い込まれ、生き残りが降伏の態勢をとるかどうか。宙には炎と金属破片が漂い、観測光の乱舞がようやく静まりつつある。地球勢の艦も被害はあるが、完全な崩壊には至っておらず、勇敢に戦い抜いた。
モルガンの声が通信で響く。
モルガン「皆、よくやってくれたわ。特に円卓騎士団が敵旗艦や主要艦を叩いたおかげで、この戦いは勝利に近い。ここに拠点を確保すれば、さらに先へ調査を進められるでしょう」
アーサーは浅く息を吐いて答える。「モルガン隊長、あなたが増援を送ってくれたおかげで助かった。……これでThe Orderの奥へさらに踏み込み、ユグドラシル・モデルの正体や、アリスの記憶を追う道が開けるかもしれない」
ガウェインは盾を修理班に預け、トリスタンは弾薬補給の要請を出しに行く。カインはホログラムのアリスを気遣いながら操縦桿をゆっくり離し、コクピットを開けて整備員が差し出す酸素リフレッシュを受け取った。
「助かった……はあ、苦しかったぜ」
カインが疲弊した笑みを浮かべると、周囲の乗組員が歓声や拍手で迎えてくれる。円卓騎士団の名声はさらに高まり、皆が口々に「あなたたちがいなければ勝てなかった」と賞賛する。
だがカインの心は複雑だった。これで戦いが終わったわけではない。The Order本体や上位宇宙、ユグドラシル・モデルなど、真の謎はまだ先にある。ただ、一つの大きな壁――敵艦隊との決戦――を乗り越えた事実は大きい。
「アリス、俺たちやったぞ。もうしばらく休んでいいからな」
ホログラムが微かに笑い、「ありがとう……カイン。あなたとみんなの力で……勝てたね」と声を落とす。
こうしてEpisode5-2の大決戦は幕を閉じる。星海にはまだ散発的な残党が潜んでいるかもしれないが、もはや大勢に影響はないだろう。地球勢はこの宙域に暫定的な前線拠点を築き、さらなる深部調査に備えることができる。
10.エンディング:深部への新たな道と円卓騎士団の休息
戦いを終えた円卓騎士団は、大破した敵艦の残骸が散乱する広大な星海を見渡しながら、複雑な思いで宙を漂っていた。たしかに艦隊戦では勝利を収めたが、小宇宙の何たるかはまだ解明されず、上位宇宙に通じる真のゲートがどこにあるかも定かではない。
それでも、今回の勝利によって得たデータや捕虜からの情報、あるいは敵艦のコア解析などによって大きく前進できると皆は信じている。モルガンがそれらをまとめて地球側へ報告し、新たな大作戦へとつなげることになるだろう。
アーサーはエクスカリバーの外装を整備員に任せ、カインやガウェイン、トリスタンとともに神官隊の簡易ベースで状況を確認する。被害艦も多いが、想定よりは軽微な損害で済んだのは奇跡に近い。
ガウェインが大の字にシートへ座り込み、「ああ、疲れた……こんなでかい艦隊を相手にするなんて、正気じゃないぜ」とぼやく。トリスタンも珍しく「僕も冷静さを失いかけたよ」と苦笑する。カインはアリスに酸素リフレッシュを与えつつ、「生き残ったのはアーサー卿や皆の連携、そしてモルガン隊長のおかげだな」と語る。
するとアーサーが穏やかな口調で言う。「いや、何よりもアリスの干渉力とカインたちの勇気が大きかった。正直、今回の決戦は無謀だったが、我々には時間がないのだ。The Orderが本格的に侵攻してくる前に奥へ進み、核心を叩かなければならない」
ガウェインが深く頷いて「分かってる。どんな無謀だろうと、今の俺ら以外にやれる奴はいねぇ。もっと休んで再度挑むか?」と提案し、トリスタンも「被害の修理やアリスの回復が必須だね。僕らもボロボロだ」と同意する。
カインはアリスのホログラムを見やり、彼女が静かに微笑むのを感じた。「たぶん、次に挑むときが本当の正念場になるよ。私の記憶も、ここまで来ても全部は思い出せない。でも、この先へ進めば……きっと全部分かる」
「その時はまた、みんなで力を合わせよう」
カインがアリスの手(ホログラムなので触れないが)に手をかざし、彼女もうなずく。
星海は静かに闇を湛え、砕け散った敵艦の破片が光の川となって流れている。地球側の艦隊も被弾痕を抱えつつ誇らしげにそこへ浮かび、勝利の余韻を噛み締めつつ新たな道を切り拓くための整備を進める。
その先には、誰も見たことのない上位宇宙、ユグドラシル・モデルの秘密、そしてThe Orderの最終形態が待ち受けているだろう。次なる戦いは、いっそう壮絶なものとなるはずだが、円卓騎士団にはそれを乗り越えるだけの絆と信念がある。
カインは目を閉じて、アリスのささやかな呼吸に耳を澄ませる。「休もう。もっと大きな闘いが、この先で待ってるから」――その思いを胸に、宙から見下ろす星海の光を背にしながら、騎士団はまた小さな勝利に酔う暇もなく準備を始める。