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1.5-5 トロン

「えっ!!うそ。ここ会社なの?」

「ふふーん。すごいでしょ?」

「うん!アラメダリサ―チの玄関よりおしゃれ!!」

「ちょっと、エブモス」

「ソラナ、嫉妬はみっともないわよ」

「ちがうわ!トロン。アラメダは機能性重視なんだから!」

そんなことを言いながら、細い通路を通る。
それは、さながら奥の細道に出てくる様な道で、俳句の一つでも読みたくなるような風流な空間。
ただ、薄暗いだけではなく調整された光がまるで蛍の様に道を照らしていた。
自然の洞窟にいるような優しい香りに満たされた空間。
調整された人工物で、天然の調和を作り出していたのだ。

細く長い空間を抜けると、丸いテーブルがあった。
その中には、長身の美しい女性。
左は、秘書然とした黒のワンレンショートにスレンダー
右は、亜麻色の髪の毛をウエイブに仕上げたボディーラインが豊かな女性が座っていた。

「いらっしゃいませ。ようこそExAへ」

「ナニコレ!!」

「ソラナちゃん、すごいよ!受付がまるでキャバクラだよ!」

「キャバクラって、そんな、エブモス知らないでしょ?」

「あーーばかにしてるぅーー」
「わたしだって知っているんだからね」
「男の人たちが、女の子にキャーキャーいってもらいながらお酒を飲むところでしょ?」

「第一接点ないでしょ?」

「そんなことないよ?」

「えっ?」
意外過ぎるエブモスの返し

「シークレット君のお店によく遊びに来る人の中に、キャバクラで働いている女の人がいるんだよっ」
「って、店長が教えてくれた!」

「シークレット、まだ、あのお店でベリーダンス踊っているの?」

「うん」

「男の娘のお店よねー」

「うん!」

「あなたも、彼の彼女なら少し心配なさいな」
「シークレット、取られちゃうとは言わないまでも、食べられちゃうわよ」

「大丈夫!」

「なんで?」

「きょうりょくな限界オタクの皆さんが守ってくれているから」
「って、店長がいってた」

「限界オタク!?」
そんなのいるのかしら?
いや、彼に対してはいそうね。
と、あやふやと記憶をあさりやめたソラナ
(シークレットだからね。と、思考の端にシークレットが現れて、ばからしい。となって、やめたのだった)


「へっくし!!」

「あら、ヴァイス。見事なくしゃみね」

「ああ。どうやら、我らのことを噂している輩がいるみたいだな」

「我らって、一緒にしてほしくないんだけれど」

「ベース、酷いな。こと今日、この瞬間は我らは同志」

「そういう言い方。嫌いじゃないわね」
そういって、うちわを二人に手渡すベース

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。この瞬間は仲良く。と、はじまりますよ」

「落ち着くのはあなたの方よ。ウィル。ステージに近いんじゃないかしら?」

「仕方ないだろ?撮影するにはこの角度がいいんだ」

「お三方とも、いつもありがとうございます」

「マスター!!こちらこそ」
そういって、筋肉質な男と長身痩躯な男、セクシーな女性がお辞儀をする。
長の様な雰囲気を纏う三人に見事な礼を差せるこのタキシード姿の男性こそ、源氏名シルクことシークレットのバイト先のマスターだった。

「カメラはNGですが、存分に見ていってください。シルクも喜びます」

「はい!!」

「きゃーーー!シルクくーん」
大きな声を上げる一団が、お店に入って来る。

「ほう、あの無作法ものたちは?」

「新しいお客様です」

「マスター。教育してもよろしいかな」

「もちろん。よろしくお願いします。古参ファンの皆様」

そんなやりとりを交わした後に派手な女性の団体客へと歩き出すマッチョと長身とセクシー。
その姿には、己の聖地を踏み荒らすものへと差し向けられる覇気が溢れていた。

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「へー。じゃあ、二人とも、代表にスカウトされたんだね!」

「そうよ。うちの代表は、とても頭が回るの」

「気も利くしね」

「女性にしておくには勿体ないわ」
男性体だったら攻略対象だったのに。と続ける2人

「へぇー。そんなに素敵な人なんだね。デイジー代表って」

「デイジーでいいよ。エブモスちゃん」
そういって、ひまわりの様な黄色の髪の毛をソバージュにした女性。
デイジーが奥の通路から姿を現した。

「デイジーさん。ちょっと!レセプションパーティー開始まであと少しなのよっ。挨拶大丈夫なんですか?」

「ああ、それならば」
そういって、パチンっと指をならす。
瞬間、映像が結ばれそこにもう一人のデイジーが出現する。

「これで、十分でしょ?」

「十分って、ちがーう!!」
「ホログラムでしょ!?デイジーさん」

「ばれた?ただ、質量付きよ?これなら、みんな納得しないかしら?」
そういって、もう一人のデイジーの肩をポンポンと叩くデイジー
叩かれたデイジーは、胸に手を置き任せてもらおうとでも言わんばかりの姿勢になる。

「いや、説得は出来るかもですが。納得は出来ないですよ!」

「そう?」

「そうですよ!」
「ほら、そうとわかったら、ホログラムに任せてないでデイジーさん自ら、演説しなければならないです」

「えーー」

「今日のレセプションでは、重要な考えを話すのでしょ?」

「そうよ」

「なら、尚の事。本物である必要があるんだから」
そういって、デイジーの手を引き退場していく

「っと、その前に。エブ子ちゃん、ソラナ」

「何?トロン」

「受付、済ませたら奥に来てくれるかしら」
「ほら、あと少ししたらパーティーがはじまって人でごった返すから」
「少しゆったりした席を確保しておいたわ」

「あら、ありがとう」

「ふふ。どういたしまして」

そんなやり取りを終えるとデイジーの手を引き奥へと消えていったトロン。
残された二人は、受付嬢の二人に促されるまま入館の手続きを終えたのだった。

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