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FFT_律する者たちの剣_EP:8-2

EP8-2:ゾディアーク召喚阻止

先刻、ミルウーダ、ラムザ、そしてアグリアスの3人は、大聖堂正門を突破し、神殿騎士や教会兵を退けることに成功した。かつて聖なる祈りが捧げられた場所は、今や剣戟と魔法が飛び交った形跡を残し、崩れたステンドグラスや倒れ込んだ騎士たちが床を乱している。
しかし、これはまだ序章に過ぎない。最深部では、ルカヴィを複数抱える教会の内なる闇が蠢き、ゾディアークを呼び出す儀式が進められているのだ。

3人は破損しかけた祭壇の奥から伸びる回廊を進む。天井が高く、壁には聖人や天使を描いたフレスコ画が並んでいるが、その華やかさは凄惨な戦火の痕跡で色褪せている。遠くで木霊するうめき声と、低いゴゴゴ…という地下から響く地鳴りが、不気味な雰囲気を醸し出す。
そんな中、ウィーグラフAI(モーグリ型ロボット)が遺跡から遠隔支援を続けており、イヤーピースを通じて通信が届く。

「ミルウーダ、通信は聞こえるか? 教会のホストをハッキングして得た情報だが、どうやら複数のルカヴィがここに集結している模様。さらに、奴らの間で小競り合いが起こっているというレポートを見つけた。利用できるかもしれん。」

ミルウーダは魔銃を抱えたまま立ち止まり、目を鋭く細める。「ルカヴィ同士で対立……? どういうこと?」

ラムザも不安気な顔で応じる。「ルカヴィは闇の勢力が結託して、ゾディアークを復活させようとしているんじゃ……?」

すると、通信の向こうでウィーグラフAIが苦笑めいた口調で言葉を続ける。

「奴らも一枚岩じゃないらしい。 '誰がもっと多くの聖石を集めるか' とか、 '支配権はどのルカヴィにあるか' とか。そもそも“ルカヴィ”はそれぞれが強烈な個性と欲望を持った存在らしいからな。**自分たちの力に溺れ、足の引っ張り合いをしてる……**これが利用できるかもな、ミルウーダ。」

ミルウーダの瞳が光を帯び、「自分たちの力に溺れ、足の引っ張り合いをしてる……利用できる。そうね、いいアイデアが浮かんだわ。」と口の端をわずかに上げる。彼女が革命家として培った戦術――敵同士をぶつけさせ、混乱を誘発する“情報操作”や“偽装工作”を得意とする。これをルカヴィ同士にも応用するというのだ。


何度か曲がりくねった通路を進み、奥の広間に出ると、そこには召喚陣と呼べる魔法陣が刻まれている。天井から垂れ下がる鎖や装飾が揺れ、床に描かれた血文字が薄く輝いている。
遠目に見ると、そこには複数の神殿騎士や修道士が働いているが、中でも2体のルカヴィが何やら睨み合っている。片方は肥大化した腕を持つ獣型で、ゴルターナ公のキュクレインとは別種。もう片方は細身で翼を持ち、アジョラへの服従を口にするかのように呪文を唱えている。
どうやら、既に複数のルカヴィが召喚されかけており、“ゾディアーク”復活の準備を進めつつ、それぞれが縄張りや支配権を巡って牽制しているのだろう。吠え声や低い唸り声が広間に木霊し、教会の修道士たちが慌てて調停に入ろうとしている光景が見える。

「あれが……ルカヴィ……。何だか、同士討ち寸前に見えるわね。どっちも力を誇示して譲らない感じ……」

「これじゃ、まとまってゾディアークを呼び出すどころじゃない……でも、すぐに調停が入って一枚岩になるかも。今のうちに混乱させられないかな……」

アグリアスが眉をひそめ、「私たちが突撃すれば一斉に敵対されるかもしれない。どうやって利用するの?」と緊張した面持ち。
すると、ミルウーダは魔銃を指先で軽く弾きながら、あの革命家としてのしたたかな“策”を思いつく。

「敵同士を疑心暗鬼に陥らせ、ぶつけるの。情報操作とチャフグレネードを使って。あのルカヴィどもが足の引っ張り合いをするように仕向ければ、儀式は不完全になるはず……」


かつて革命家として、ミルウーダは貴族間の対立を煽り、敵同士をぶつけ合う手段を何度も成功させてきた。今回はそれをルカヴィに対しても試みる。
作戦内容

  1. 偽の情報――「他のルカヴィが主導権を奪おうとしている」「あいつらは召喚陣を独り占めする気だ」など――を、修道士や下級兵に吹き込む。

  2. チャフグレネードで儀式陣の魔力干渉を乱す。その混乱の中、ルカヴィ同士が互いの妨害だと誤解し、怒りを燃やして衝突するよう仕向ける。

  3. 儀式が途中で混乱し、暴走すれば「ゾディアーク召喚」が不完全に終わるか、あるいはリスクを恐れた教会の高官が儀式を一時中断するはず、と踏んでいる。

「命令系統に混乱を与えれば、修道士たちはパニックになり、ルカヴィにも偽情報が漏れるかもしれない。私が周囲を回って布を広げてガスを充満させて……こっちはチャフで魔法回路を寸断してやるわ。」

アグリアス:「危険じゃない? 近距離でルカヴィが暴れたら、ミルウーダ、あなたが狙われる……」

「……でも、時間がない以上、このやり方がベストかもしれない。僕らが真正面から戦うより、奴ら同士をぶつけるほうが効率的だ……」
深く息をつくアグリアス。「わかった。私もサポートするわ。ルカヴィに近づきすぎないように注意してね。」
こうして、3人は静かに広間を分担行動で崩壊させるべく、一斉に動き始める。


広間の角で、ミルウーダが捕らえた修道士を軽く脅しながら「他のルカヴィがここを支配する気だってよ」と囁き、放流する。怯えた修道士は半ば無意識にそれを周囲に伝え、見聞きした別の下級兵もささやき合う。「あの獣型ルカヴィは信用できないらしい」と。
さらに、ウィーグラフAI(遠隔支援)から得た偽の魔力波形データを、魔銃で放つ短波通信で修道士の端末に割り込ませ、**「翼あるルカヴィが儀式を独占するつもりらしい」**と示唆する。
これによって修道士たちがパニックに陥り、

「なんだ……もう一方のルカヴィが術式を勝手に書き換えてるって……?」

「そんな……大変だ、儀式が破綻する……いや、それが狙いか?」

「あの獣型の連中が裏切ったのか……?」

双方が互いを疑い始め、周囲の聖騎士や術者も落ち着きを失う。
ルカヴィ同士には言語が通じるのか定かではないが、意思の疎通ができる程度にはコミュニケーションがあるとされる。ある程度、周囲の魔力変動を感じ取り、“相手が自分を出し抜こうとしている”と誤解するきっかけには十分だ。


一方で、ミルウーダが広間の上階にある回廊へ回り込み、そこからチャフグレネードを投擲して儀式陣の魔力回路を大幅に乱す。
チャフグレネードは魔術的な阻害装置で、周囲の魔法を強制中断させ、結界や陣を狂わせる効果を持つ。これを複数個、連続して投げ込むことで、ルカヴィが管理していた術式自体が暴走を始める。

儀式陣の床がビリビリと青紫の電撃を走らせ、血文字の一部が焼き切れて不完全になる。

ルカヴィたちが吼え声を上げ、陣の中心に立っている修道士たちもパニックを起こす。

「やめろ……! まだ陣が完成していない……!」

しかし、もう手遅れ。破壊ノイズが暴走し、儀式陣から稲妻のような魔力が飛び散る。

ここでルカヴィ同士がさらに誤解――「お前のせいで術式が失敗したのか?」と獣型が吼え、翼型が「何を言う、私が邪魔されたんだ!」と咆哮するような描写になる。修道士も「ルカヴィが暴れ始めた……待ってくれ、聖石が……あああ!」と叫んで逃げ惑う。
まさに内輪もめが発生し、ルカヴィ同士が互いを殴り合い、魔力弾を撃ち合う事態に発展。周囲の術者たちも戦慄し、収集がつかなくなる。


不完全な儀式だが、何らかの力が一度呼び出されてしまう。床に刻まれた別の魔法陣が微かに赤黒い光を放ち、崩壊しかけながらも“禁忌の門”を開こうとしている。
ここで視界がゆらりと歪み、アジョラという名の存在がかすかな影を落とすような幻影が広間に浮かぶ。彼はルカヴィや教会と深い因縁を持つ“聖人”とも“異端者”とも伝えられているが、真の姿は謎だ。
その瞬間、ルカヴィたちが一斉に動きを止め、まるで畏怖するかのように幻影を見つめる。しかし、その幻影は儀式が不完全なため定着できず、断続的なノイズのごとく砕け散る。

「アジョラ……か……いや、まだだ……。この儀式は失敗……くそっ!」

「おのれ……翼ある偽者め……我が牙を恐れたのか……」

互いに罵り合いつつ、術式が崩壊して魔力が収束しきれず、一帯にサブイボのような霧状の暗黒エネルギーが漂い始める。修道士たちが悲鳴を上げ、広間を放棄して逃げ出す者が続出する。


ここでミルウーダ、ラムザ、アグリアスが一気に姿を現し、残る修道士や神殿騎士を制圧しにかかる。

広間の天井からロープで降下し、複数のチャフグレネードを投げ込む。さらにスモーク弾も併用し、視界を奪いつつ魔力を撹乱する。

ルカヴィたちはさらに混乱し、「また邪魔が……!」と吼えるが、既に仲間同士で攻撃し合っている状態で、どちらが敵かも定かではない。

一方のルカヴィ(獣型)に近づき、試作のアルテマ剣で注意を引く。剣から青白い閃光が迸り、暴走する魔力弾を相殺する。

「来い……! 僕が相手だ……」と挑発するように声を張り上げ、同時にもう一方のルカヴィの真正面に立つ形でタイミングを合わせる。結果、獣型が翼型へ誤射するなど混戦が深まる。

アグリアスが残った修道士や神殿騎士を牽制。「これ以上の儀式はさせない……!」と身体を張って前衛を務め、光属性の聖剣技で敵を押し込み、彼らが逃亡しやすいよう道を作ってあげる。

「殺す気はない。どけ……!」という彼女の鋭い声と剣筋に、修道士たちは恐怖で武器を捨てる。

こうして広間はさらにカオスな状態に陥り、ルカヴィ同士の敵対が激化。儀式は破綻し、床や天井に入った魔力の亀裂から漆黒の霧が立ち上る。その霧に巻き込まれる形で一部の修道士が意識を失い、ルカヴィが吼え声を上げて互いを殴り合う光景が繰り広げられる。


儀式は不完全なまま終わり、ゾディアークが本格的に呼び出されるのは阻止できた。しかし代わりに、残留魔力が一部ルカヴィを暴走させるという事態が起こる。

そのうちの一体(翼型)は大きく傷を負いながらも、漆黒の光に包まれて狂乱状態となり、周囲を手当たり次第に破壊し始める。床の亀裂が広がり、天井からがれきが降り注ぐ。

ミルウーダが警戒する。

「こいつ、何を……! 暴走している……!」

ラムザは剣を握りしめ、再度立ち向かおうとするが、あまりにも魔力が強く、アルテマ試作剣では対処しきれるか不安だ。

その時、不意に**“アジョラの影”**らしき幻影がまた揺らぎ、ルカヴィに何かを囁くようにかすかな声が響く。

「……オマエハ、無力。ナゼ、シンジナイ……」みたいな断片的なフレーズが空気中に溶けていく。暴走した翼型ルカヴィは「アジョラ……おまえが……!?」と咆哮し、そのまま自壊するかのように暗黒オーラをまき散らし、最期にはドロリと溶けるように消失してしまう。


残った獣型ルカヴィも手負いのまま、怒りをむき出しに吼えるが、マナが尽きかけなのか、あるいは背後に控える神殿騎士の指示か、「撤退……!」と唸って姿を消していく。破滅的な一騎打ちになる前に逃げて行くわけだ。

教会の修道士や騎士の一部も逃げ散り、広間には荒れ果てた儀式跡だけが残る。床には破損した魔方陣と血の文字、崩れた柱、そして倒れた者たちの呻き声。

ミルウーダとラムザ、アグリアスは互いの無事を確認し、汗だくの表情で息を切らしている。これが、“混乱を誘発して儀式を妨害する”作戦の成果――ゾディアークが完全に呼び出される事態は回避された。しかし、アジョラの影を見たことで、彼らはまだ恐怖を捨てきれない。

「まさか、あのアジョラが……ルカヴィの幻影として現れるなんて。まだ終わってない。儀式が不完全でも、また別の場所で……」

「うん。でも、少なくともここでの召喚は止められた。教会の計画は一部破綻したはず……!」

アグリアスは剣を納め、「敵同士をぶつけて混乱させるなんて、あなた(ミルウーダ)の発想は大胆だけど有効だったわね。神殿騎士もルカヴィの暴走に巻き込まれて退散したし……」と感心混じりに微笑む。


しかし、それで完全な安心には程遠い。通信が入り、ウィーグラフAIとセラフィーナが淡々と報告する。

コンソール越しにウィーグラフAIの声が響く:

「ようやくやってくれたな。どうやらここの儀式は不発で終わったようだが……教会にはまだ他の儀式場があるってファイルを見つけた。場所は……グレバドス外苑の地下奈落、そこが本命かもしれん。」

セラフィーナが続ける。

「残念ながら、あのアジョラの幻影は、むしろ“本儀式”に向けた下準備に過ぎない可能性があります。教会がゾディアークの力を復活させるためのプロセスは、複数段階に分かれているようですから……」

つまり、今回の妨害は大きな成果ではあるが、それだけではゾディアーク召喚を完全に阻止したとは言えない。“最終ステージ”とも言える儀式が別の場所で進行中という噂も。

「やはり……ここが本命だと思っていたけど、まだ他にも施設が……」

「急がないと……。でも、一度ここを制圧したから教会側の動きも鈍るかも。いずれにせよ、私たちも余裕はないわね……」


広間に残された悲惨な光景を背に、3人は静かに立ち尽くす。瓦礫の山と魔力の残滓が淀む中、倒れた修道士をどう処分するか、神殿騎士を追撃するか――考えるべきことは山積みだが、まずは次の儀式場の位置を突き止める必要がある。

アグリアスは周囲を見回し、「ここにこれ以上留まっても仕方ないわ。救える者を助けつつ、先へ進みましょう……」と苦渋の面持ち。

ラムザは割れた床の亀裂を見つめながら、先ほど見たアジョラの影を思い返す。「もしあれがアジョラ本体なら、どうやってルカヴィが再生させるのか……ゾディアークを媒介にするのかな……とにかく急ごう。」

ミルウーダはキッと瞳を見開き、「ルカヴィ同士が対立してる今がチャンス。混乱を拡大すれば、一気に計画を崩せるはず。……でも、いつまた統制が戻るかわからない。早く動こう。」

こうして、ルカヴィ陣営の内輪もめを利用して儀式を妨害し、敵同士をぶつけ合う作戦は成功した。

しかし、アジョラの影が一瞬でも姿を覗かせたことが示すように、召喚計画はまだ終わっていない。むしろ、教会の闇がさらに深まることを思えば、この先の大きな激突は避けられないだろう。

三人は残響する咆哮や魔力の余韻が満ちる広間を離れ、教会のさらに奥へ足を進めて行った。

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