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再観測:星を継ぐもの:Episode12-2

Episode12-2:アリスの状態

王都の廃墟を舞台に復興が始まろうとしているなか、アリスはこれまでの激闘を経て“中途の覚醒”という、危うい安定状態を維持していた。しかし、崩壊や干渉を何度も繰り返した肉体と精神のダメージは大きく、騎士団の仲間たちは彼女を案じている。地上に降り立った今こそ、アリスの状態を確かめながら支援にあたらなければならない。彼女の力を頼りにしつつも、過度の酷使は世界を危うくしかねない——そんな繊細な状況下で、円卓騎士団が迎える**Episode12-2「アリスの状態」**は、一種の試金石となる。


荒廃した王都の中心部には比較的頑丈だった建物の残骸がいくつかあり、その一つを改修して仮設医務所が整えられていた。天井は半壊しているが、シートや魔法的バリアで最低限の雨風をしのげるように補修している。ここでアリスは、ほかの負傷者や難民らとともに休みをとっている状態だ。

円卓騎士団のメンバーも街の治安維持や復興支援に奔走し、合間を縫っては医務所に顔を出す。アリスの容体を確かめるため、特にカインはしょっちゅう足を運んでいた。

「どうだ……アリス、少しは楽になったか?」

カインが医務所の一角、簡素なカーテンで仕切られたベッドを覗き込む。アリスは胸の上あたりまで毛布に包まりながら、うっすらと目を開く。まだ顔色が青白く、体力が戻ってはいないようだったが、かすかに微笑みを浮かべる。

「うん……だいぶ良くなったよ。ごめんね、騎士団の仕事で忙しいのに、しょっちゅう来てもらって……」

カインは頭を振り、「いや、そっちこそだ。世界を守ったあとで本当は安静にしなきゃならないのに、こんな廃墟で……俺がもう少しなんとかできれば」と、歯がゆそうに天井を仰ぐ。

アリスはそっとカインの手を握り、「そんなことないよ。みんなが街を建て直してくれてるから私も安心できる。大丈夫……焦らず回復してるから」と穏やかに言葉をかける。


だが、医務師や神官たちの診断によれば、アリスの身体は依然として限界域に近い負担を抱えている。世界を壊さずに覚醒を引き留める“中途の状態”は、肉体的にも精神的にも高度なバランスが必要で、それが彼女を常に疲弊させているのだ。

「アリスさんは意志の力で覚醒のコントロールをしているわけですが、少し油断すれば深い眠りへ落ちるか、逆に完全な覚醒へ進む可能性がある。どちらも世界と本人に甚大な影響を与えるでしょう」
神官の一人がアーサーに詳しく説明する。アーサーは深くうなずき、「そうか……。だからこそ、彼女を今過度に働かせるわけにはいかない。大掛かりな干渉も控えなければならない……」と厳粛に受け止める。

ガウェインは医務所の入口で腕を組みながら、「でもよ、王都は焼け野原だ。アリスの力があれば、もっと迅速に復興が進むかもしれねえ。実際、倒れた家の瓦礫を片付けるときとか、小規模に干渉してくれたら何日もかかる作業が一瞬なんだ」と悔しそうに歯を鳴らす。

トリスタンが冷静な口調で応じる。「だからって、大規模に使わせれば、また危険だろう。彼女が倒れれば、そもそも助ける人すらいなくなる可能性もある。難しいバランスだね……」

カインは二人の言葉を聞きながら、アリスの寝顔を横目に強く拳を握る。「絶妙なラインを保ってもらうしかない。本人だって苦しいはずだ……。でも、それ以上に責任感が強いから……」


アリスはベッドに横になりながら、外で進む復興の様子や人々の声を聞くたびに、胸が痛む。医務所に運ばれてくる被災者を見て、「私が大きく干渉すれば、この苦しみをもっと早く取り除けるのかな……」と考えてしまう。

ある日、体調が少し回復したアリスは我慢できずに立ち上がり、医務所の外へ出ようとした。
「アリスさん、まだ寝ていないと!」看護師が慌てて止めるが、彼女は決意の顔で答える。

「ごめんなさい……街の人を助けたいの。私が力を押さえながらでも、役に立てるなら……」

カーテンを乱暴に開けて進もうとする彼女の腕を、カインがそっと掴み止める。「気持ちはわかる……けど、無理したらどうなるか、俺たちが一番知ってるだろ?」
アリスは視線を伏せる。「そう、わかってる……。でも、ここにいる間にも誰かが死んでるかもしれないんだよ……? 世界を壊さない限り、私が中途の力を使う程度なら……」という涙混じりの言葉がこぼれる。

見かねたアーサーが割って入り、「分担しよう、アリス。お前が外へ出るなら、せめて我々が地道にできる作業と併せて進める。お前がわずかな干渉をするだけでも、作業が格段に早まる。だが、決して大規模には使うなよ」と柔らかい口調で提案する。
アリスはかすかに表情を和らげ、「うん……大規模にはしない……。ありがとう」とほっと微笑む。


そうして、街の瓦礫撤去や物資運搬、難民キャンプの整備などで、アリスが小出しの干渉を行うと、たしかに効率は上がった。大岩を手で少しずらす代わりに、アリスが波紋をかければスッと移動できるし、汚染された水をいくらか浄化することもできる。
市民たちは「すごい力だ……」「神様みたい……」と感嘆するが、アリスはその評価に戸惑う。「私……そんな大したことじゃない……」と肩をすくめつつ、疲労で膝が笑っている。

休憩時間になると、医務班がすぐにアリスをベッドに戻そうとする。「小規模でも干渉を連続して使えば負担が積み重なります。無理しないで」と忠告され、アリスは一瞬葛藤するも、結局少しの間だけ眠る。
その眠りの中で、彼女は上位世界の自分と接触しかける。ただ、意志が強くなったおかげで、今は深い“覚醒”に落ちることも、眠りきることもぎりぎり回避できている状態だ。


ところが、小規模な干渉を続けていても、アリスの身体には相応のダメージが蓄積していく。ある夜、医務所の隅でカインが彼女の脈を取り、微かに動揺する。

「アリス……体温が上がってる。頭痛も戻ってきてるんじゃないか?」
アリスは苦しそうに額を押さえ、「うん……さっき瓦礫をどけすぎたかも……意外と疲れが……」と呼吸を乱す。

神官が駆け寄り、聖句を唱えながら簡易的な回復魔法を施すが、顔には不安の色が浮かぶ。「回復魔法が効きにくくなっている……おそらくアリスさんの干渉能力と覚醒状態が複雑に絡み合って、身体の回復を阻害しているのかも」
カインはぎこちなく手を握り、「要するに、彼女は長期的にこの中途の力を使い続けると、ますます身体を蝕むってことか……」と震える声で呟く。アリスはそれを聞いて下を向き、「ごめん……私、またみんなに心配かけてるね……」と謝る。


ある日、深夜の医務所でアリスがこっそり抜け出し、道路で救助活動をしようとした場面。ちょうど巡回していたカインが見つけ、思わず声を荒げる。

「アリス、いい加減にしてくれ! 医者が寝ろって言ってたろ!?」
アリスは体を震わせ、「でも、みんなが必死に復興をやってるのに、私が寝てるだけなんて耐えられない……! 私なら干渉で役に立てる……!」と涙ぐむ。
カインはその心情を理解しつつも、「そのせいでお前がさらに限界を超えたら、どうするんだ……? 前にも言ったけど、世界を壊さずに済むかもしれないが、お前自身が壊れたら……オレはいやだ!」と怒鳴るように言ってしまう。

アリスはショックを受けた顔で黙り込み、数秒後に視線を落とす。「……ごめん、私、あなたを苦しめたくないのに……私が何もできないと、今度は大勢を見殺しにするような気がして……」
言葉が詰まったまま、二人の間に気まずい空気が流れる。結局、カインは噛みしめるように「……いつか絶対、何もかも救えると信じてるんだけどな。オレが甘いのか」と声を落とす。アリスは泣きそうになりながらも、「それでも、私……少しでも救いたいの」と譲らない。


翌日、アーサーやガウェイン、トリスタンが話し合い、アリスに少なくとも数日間は外に出ずに完全静養を取らせることに決める。カインも多少の罪悪感を抱えつつ賛成し、医務所でアリスを説得する。
「アリス、俺たちも苦しいが……お前が体を壊したら元も子もない。だから強制的にでも休んでくれ。民衆への支援は俺たちがやる」
アリスは渋々頷く。「でも、何か大事な作業があったら呼んでくれる……?」と不安げに確認し、アーサーも「もちろんだ。必要最低限のところで力を借りるかもしれん。だが基本は我々で進める」と優しい声で約束する。

こうしてしばらく医務所から出ない日々が続く。アリスは体力回復に専念し、干渉力を安定させるためにも十分な睡眠と栄養を摂るよう指示される。
神官が定期的に検診するたびに、やや回復の兆しが見えるが、アリスが心配そうに「表に出て人を助けたい」と言うと、周囲が全力で止めるという繰り返し。内心の歯がゆさが増すばかりで、アリスは鬱々とした思いを抱え込み始める。


医務所の二階には小窓があり、そこから市街地の一端を眺めることができる。ある朝、アリスはベッドを出てその窓辺に立ち、外の状況を見つめていた。
混乱は依然として収まりきらず、騎士団メンバーや兵士、神官たちが必死に人々を誘導している。倒壊した町並みを少しずつ片付け、食糧を配給し、危険建物を封鎖し、闘争を仲裁している。しかし、あまりにも問題が多く、なかなか進まない。

「もう少し私が……大きな干渉ができれば、瓦礫だって一瞬で除去できるのに……」とアリスは眉を曇らせる。体力こそ回復傾向にあるが、上位世界とのリンクが再び暴走する恐れは拭えず、大技を使えばデメリットが大きい。
看護師が横から注意を促す。「アリスさん、ベッドに戻りましょう。まだ本調子じゃないですよ。観測光を乱用すれば、頭痛が再発して危険です」

アリスはすっと顔を背け、悔しそうに唇を噛む。「わかってる。でも、こうして見てると……私、役立たずみたい……」と声を震わせる。
看護師は黙って彼女を見守ることしかできない。中途の覚醒がどれほど苦しい状態か、医療スタッフには想像もつかない。世界全体を抱えるかのような重圧だ。


数日が経ち、アリスの脈拍と体温はほぼ安定してきた。精神的には焦りを抱えつつも、周囲から「ほんの少しずつ干渉してもいい」という許可がおりる。
「やった……少しでも街で役に立てるなら」アリスが笑顔を取り戻し、カインが肩をすくめながら「でも絶対無茶はするなよ。王都の人を助けたい気持ちはわかるが、限度がある」と再念を押す。
ガウェインやトリスタンもアリスと行動をともにして、一定時間、街を巡回し、瓦礫の片付けをサポートする段取りを組む。大規模干渉は禁物、だが細かい作業なら彼女の身体への負担も限られ、覚醒リスクも低いはずだ。

こうして、アリスは瓦礫撤去や水路の浄化などで小さな力を振るい始める。市民たちは感謝と畏敬の目で見つめ、「こんなにすぐ片付くなんて……」と手を合わせて喜ぶ。アリスは胸をなで下ろしながら、時折脳裏に痛みが走るのを我慢して作業を続ける。
カインはすぐ隣で脈を確認し、「ダメだと思ったら言えよ」としきりに声をかける。アリスは微笑みながら「わかってる。少しずつ慣れてきたから、もう大丈夫」と語気を強める。


ところが、ある夕暮れ時、アリスは街外れの難民キャンプで小さな干渉を行っていた最中に、突然頭痛を抑え込み、膝をついてしまう。食糧の配給を手伝っていた兵士が驚いて駆け寄ると、アリスは苦しそうに喉を詰まらせている。
「アリスさん!? 大丈夫か!」
ガウェインがその場にいて盾代わりのプレートを放り出し、アリスの背を支える。「おい、どうした!?」

アリスは苦しげに息を吐き、「た、たぶん、ちょっと干渉を続け過ぎたかも……うっ……」と額を抑える。世界が揺らぐような錯覚がちらりと脳内をかすめ、“上位世界への接触”が増してきたのかもしれない。
ガウェインは即座に神官やカインへ連絡し、アリスを医務所へ移送する。彼女は移動の最中でも断続的に頭を抱え、「覚醒が……また近づいてる感じ……」と震える声を漏らす。

カインが医務所で出迎え、「安静にしろ!」と必死に叫ぶ中、アリスは涙ぐみながら、「ごめん……私、あれくらいの干渉でもダメなの……?」と嘆き、自分を責める。医師が脈を確かめ、「急激な力の使用が積もり積もっているのでしょう。しばらく完全休養を」と命じる。


こうした事態が繰り返されるたび、仲間たちはますます危機感を募らせる。小規模の干渉でも、長い期間続ければ彼女の“覚醒”を促してしまうかもしれない。かといって力をまったく使わなければ、王都の復興が遅れ、多くの死や苦難が続く。
アーサーは眉を寄せてカインに打ち明ける。「私としては、アリスを守りたい。だが、国の復興は喫緊の課題だ……。“世界かアリスか”ではなく両方というが、具体的にどう折り合いをつける?」
カインも答えを持ち合わせていない。「俺だって、アリスを壊したくない。なのに、こうして市民の苦しみを見続けるのも耐えられない……」

ガウェインが不意に提案する。「実験的に“交代干渉”みたいな仕組みはどうだ? 例えば今日1時間だけ、明日は休む、とか、干渉回数や時間を制限すりゃ安全に近いんじゃねえの?」
トリスタンは顎に手をやりながら、「理にかなっているが、本当に安全かどうかはわからない。それでも何もしないよりはいいかもな。アリスの身体状態と観測光レベルを管理して、一定ラインを超えそうなら中断する……」と可能性を示す。

カインは急いで医師や神官と相談し、「アリスの状態をモニタリングしつつ、時間制限を設けて干渉を行う」というプランをまとめていく。「完全な解決じゃないが、本人の負担を抑えれば、覚醒を防げるかもしれない……」


数日後、円卓騎士団は王都に“アリス用コマンドセンター”を仮設で立ち上げる。そこでは神官が常駐し、アリスが干渉を行うたびに心拍や脳波、魔力レベルなどを計測し、限界に近づけば即座に中断させる仕組みだ。
アリスは気乗りしない表情だが、「ごめんね、こうでもしないとあなたが倒れちまう」とカインが謝ると、彼女は目を伏せて「わかってる……自分のためでもあるし、皆のためでもある……。仕方ないよね」と苦笑する。

実際にこの新体制が始まると、アリスは1日数時間だけ干渉を行い、瓦礫の撤去や水の浄化、農地再生などにスポット的に協力。限度を超えそうになると周囲が止めに入り、彼女は泣きそうな思いで作業を切り上げる。それがストレスにはなるが、身体への負担は格段に減り、状態は安定していく。
市民は「もっとやってくれ!」と催促する声も多いが、騎士団が盾となってアリスを守り、「彼女を壊したら本末転倒だ」と説明して回る。アリス自身も無理をしそうな衝動をこらえて休むことで、大きな頭痛や覚醒の兆候を抑えられるようになった。


しかし、王都内の混乱は深刻で、一部の過激派や盗賊が再び暴れ、軍や騎士団が鎮圧に追われる事態が発生する。市民同士の小競り合いも起き、火が上がる区域もある。
あるとき、火炎瓶を投げる暴徒集団が市場を破壊し始め、必死に軍が制圧に動くものの、遠くから不満を叫ぶ人々が「もっとアリスの力でやっつけろ!」と過激に要求するようになった。
アリスは指揮所でそれを聞き、「そんな大規模な攻撃干渉なんて、使えば私が覚醒しちゃうかもしれない。私だって恐い……!」と泣きそうな声を上げる。カインが手を握って「オレら騎士団が動くから、お前は手を出さなくていい」と断言。アリスは肩をすくめ、「でも、また犠牲が……」と申し訳なさそうに言う。

だが実際には、暴徒鎮圧をアーサーやガウェイン、トリスタンが徹底的に行い、被害は最小限に止めることに成功する。少しずつ市民の間に「騎士団がちゃんと治安を維持してくれる」という安心感が広がり、過激派の声も落ち着いていく。


このように数週間が過ぎるうちに、アリスは体力を回復しつつ、干渉を適度に使う生活になじんでいった。医務所での睡眠時間は十分確保し、一日数回の干渉に留めることで、大きな頭痛や覚醒の兆候は比較的抑え込める。
カインはその変化を感じ取り、嬉しそうに微笑む。「お前、だいぶ顔色が良くなったな。前は作業のたびに青ざめてたのに……」
アリスは照れながら「うん。私も少しペースが掴めてきたみたい。……これなら、大丈夫かも……」と自信を取り戻した表情を見せる。彼女の瞳にはまだ苦悩の影があるが、以前ほど押しつぶされそうではない。

ガウェインが冗談っぽく肩を叩いて、「よし、明日は朝からビル3つ分の瓦礫を片付けてくれ!」と笑うと、アリスは「それは大規模すぎるでしょ……」と困り顔。周囲がふっと笑い声を上げる。ほんの些細な明るさが戻ってきた。


ある巡回の日、カインとアリス、トリスタンが街の外れを回っていると、近くの旧兵舎跡から銃声が鳴り響く。トリスタンが「聞こえたか?」と耳を澄まし、カインが頷く。「ああ、また何かトラブルか……」

急行すると、元兵士の一団と、流れ者の武装集団が小競り合いを起こしており、一触即発の状態。アリスは「私が干渉で武器を取り上げたら……」と迷うが、カインがすかさず制止する。「それは広範囲になりそうだ。小規模ならいいけど、そこまでやる必要があるのか?」

トリスタンは小声で提案する。「まず俺たちが説得しよう。どうしても無理なら、アリスが最小限の干渉で武器を弾き飛ばす形だ。いいか?」
アリスは口を結び、「うん……大丈夫。やりすぎないよう気をつける」と誓う。

そして3人が割って入り、言葉で説得を続けるうち、いざ撃ち合いになりかけた瞬間、アリスが短い波紋を走らせ、双方の銃と武器をわずかに押しやり、弾丸を逸らす。誰も死傷者が出ず、混乱が沈静化する。
アリスは息を荒くしながらも「間に合った……」と安堵する。カインやトリスタンが制圧して話し合いに持ち込み、最悪の殺し合いを回避。こうして“世界を壊さずに人を救う”という彼女のスタンスが実現されている。


だが、その夜、アリスは医務所のベッドで眠りについたあとに、悪夢にうなされる。上位世界との接触が不意に強まり、「もしあなたが完全に覚醒すれば、一瞬で全員を救えるかもしれない」という甘美とも言える囁きと、「でも世界は泡沫に消える」という恐怖が交錯する。
うなされる声に気づいたカインが駆けつけ、「アリス、大丈夫!」と呼びかけ、彼女が目を覚ます。瞳から涙がこぼれ、「また……変な夢見た……私、根本的には何も変わってないのかも……」と苦しく訴える。
カインはそっと抱きしめ、「変わったよ、だから今こうして人を少しずつ救ってるだろ? 大技は使わなくても、世界を壊さずに済んでる。お前は十分頑張ってるって……」と優しく囁く。

アリスは腕の中でしばらく泣き、「うん……ごめん、怖かっただけ。あなたがいてくれて助かる……」と声を抑え、また落ち着く。こうして悪夢を繰り返しながらも、朝になると落ち着きを取り戻し、街の小さな手助けを続ける生活を続けていく。


半月も経つころには、人々の間でアリスの名が広まっていた。「世界を壊すほどの力を抱えながら、それを押さえ込んで私たちを助けてくれる不思議な少女」として感謝と敬意が増している。
ある母親が子供を連れてアリスに頭を下げ、「あなたが力を使いすぎると危ないと聞いたわ。でも、それでも私の子を救ってくれてありがとう……。どうか、あなたも大事にしてね」と涙ながらに声をかける。アリスは申し訳なさそうに微笑み、「こちらこそ……。これくらいで助かる命があるなら、やらずにはいられないの」と答える。

そうした一方で、一部の者は「どうせなら一気に復興してくれ!」と過激な要求をぶつけるが、騎士団がしっかり遮り、「アリスさんが無理をすれば世界が消えかねない。あなた達も分かってくれ」と厳重に説明する。次第にそこにも理解が広がり、過激派の声は次第に減っていく。


医務所の神官が再診した結果、アリスの身体は徐々に安定し、干渉のコントロールが上手くなっていると判断される。まだ世界崩壊のリスクは残るものの、最初のころよりははるかに安心して干渉を使えているのだ。
「これも騎士団や周囲が彼女を守りながら、適度に力を発揮させているおかげでしょう」と神官がアーサーやカインに報告する。アーサーは「皆が彼女を敬ってくれるようになったし、アリスも自分を追い詰めずに済んでいるのかも」と胸をなで下ろす。
カインはほっと安堵する一方、「でも、まだ無理はさせたくないな。地上はこれからも問題が山積みだし……」と次の危機を警戒する。神官も真剣な表情で「そうですね。ここから先、大災害や大規模交戦が起きたら、再び覚醒寸前に追い込まれる恐れが……」と警告する。


それでも、少しずつではあるが王都の空気が明るくなっていくのを、誰もが感じ取っていた。廃墟の一部が片付いて仮設市場が開かれ、小さな商売を再開する人々が出てきた。ガウェインやトリスタンら騎士が防衛にあたり、略奪を防ぎながら公共施設を整えつつある。
ある夕刻、夕焼けが赤く城壁の残骸を染める風景を見ながら、アーサーは王城跡に立ち「妹の行方はまだ知れぬが、この国には少しずつ息吹が戻りつつある……」と、熱い涙を流す。カインとアリスが隣に並び、彼を見守る。
「エリザベスさんを早く見つけてあげたいね……」とアリスが優しい声をかけると、アーサーは崩れそうな城壁に触れて「うん……。それに、民を二度と苦しめぬためにも、私が王としてこの国を復活させる義務がある」と決意を新たにする。

アリスはその言葉に胸を熱くしつつも、「私もできる範囲で手伝うよ。でも、大きな干渉はまだ避けたいの……分かってくれるよね?」と尋ねる。アーサーは頷き、「もちろんだ。お前はお前の命を守りながら生きてくれ。それが世界を守ることにも繋がる。……ありがとう、アリス」と感謝を込めて微笑む。


こうして**Episode12-2「アリスの状態」**は、一連の流れを通じて描かれる。世界を壊さないギリギリの覚醒レベルでアリスは踏みとどまり、少しずつ王都を助けている。騎士団と民衆が彼女を支え、彼女もまた自分を完全には追い詰めず、慎重に力を発揮する道を選んだ。

身体面:大規模干渉の連続は危険だが、小規模かつ時間制限を設ければ回復しながら動ける。
       医務所での休息を頻繁に取り、脳波や脈拍を監視されながら安定を保つ。

精神面:時おり“世界をもっと助けたい”という衝動
      “覚醒すれば世界を壊すかもしれない”という恐怖がせめぎ合う。
       悪夢も見るが、カインや仲間の支えで自分を失わずにいられる。

干渉コントロール:騎士団によるモニタリング体制と本人の強い意志で、過度の暴走を防止。
                大規模復興には踏み切らず、こまめに力を貸す方針が成果を上げつつある。

世間の認識:一部は「一気にやってほしい」と要求するが、騎士団が粘り強く説得。
           大多数は「アリスを無理させないよう大切にしてあげてほしい」という理解を示した。
      彼女が小規模干渉を行うだけでも大変ありがたいと受け止める。


彼女は眠りと覚醒の狭間を行き来しながら、危機的状況になれば最小限で干渉を使う、そんな日々を送る。
夕焼けの王都の街角で、アリスはカインとともに帰り道を歩く。廃墟が続く道には、かすかに笑い声も聞こえ出した。子どもたちが新たな遊び場を探し、商人が仮設店でパンを売り、トリスタンやガウェインが笑顔で護衛にあたる。
「私、また悪夢を見るかもしれない。でも……力を抑えながら、人々を少しずつ救えるなら、それが私の生き方なんだよね」アリスは俯いた顔を上げ、カインに微笑む。
カインはほっとした笑顔で、「ああ。無理せず、共に歩もう。世界を守りつつ、お前も守るんだ」と力強い眼差しを返す。

こうして、王都におけるアリスの状態は、不安定ながらも安定へ近づきつつある。完全な覚醒を回避し、世界を壊すリスクを抑えながら、小さな奇跡を起こし続ける彼女の存在が、人々に新しい希望を与えていた。彼女自身もまた、その役割を“自分らしい生き方”として受けとめ、再び生きる喜びを感じ始めていた。

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